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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
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間違いを認めない人間ほど見苦しいものはない。

他人の意見も聞かずに自分の意見を押し通す意思の強さを評価すべきなのだろうか、それとも聞き入れないほどの器の小ささを指摘するべきなのか迷うところであるが今回に至っては後者だろう。

だとしても、それを指摘して優位な立場になった途端にこちらの意思を押し付けるのはもっと見苦しいものだ。


「だからっ!!"ん"がついたからあなたの負け!!」

「はぁ!!英語表記だと語尾は"-ng"だからGから続けばいいのよ、ばーか!!」

「そんなルールしりとりにはないわよバーカっ!!」

「どっちも馬鹿ね」


いつも通りの部室で橙子と翠璃が互いを睨み合っていつも通り大したことの無い内容で喧嘩をしその間にはジュンを抱えた蒼が挟まれて、それの目の前にすわるべったりと智瑛莉にくっつかれている紅音。

そして真美子陽菜乃が紅茶とお菓子の用意をしている。

何も変わらない部活の時間、別に目の前でいつもの様に言い争いながら睨み合っている翠璃と橙子に対してそう思っている訳ではなく、紅音は自分自身にそうおもった。


「お姉様…?どうかなさいましたか?」

「え?」

「何だか今日は顔色が悪うございます。お体の調子がよくありませんか?」

「そんなことないわよ。いつも通り」

「ほら、アンタ達準備できたから大人しく着席するように」


ティーカップを7個乗せた銀トレーを運んできた陽菜乃に制止されると橙子と翠璃は動きを止めてソファに腰かけるがまだ互いに睨みつけたままだった。

その2人の視線を遮るように蒼はティーカップをテーブルに並べるために体を前に倒した。


「わあ、アップルパイですか」

「ふっふーん。智瑛莉ちゃんのリクエストに答えて作ってみたの」

「まぁ、ありがとうございます!!」


白いプレートに乗せられた光沢のある網状の生地のパイからする美味しそうな甘くて香ばしい匂いがあたりに充満する。

蒼は得意げにそう言って智瑛莉にピースサインを作って笑顔を見せた。


「蒼さんは本当にお菓子作りがお好きなんですのね。作って持ってきてくださるのが楽しみですわ」

「いやですわ、真美子さん。そんなに褒めないで下さいよー」


と言いながらも嬉しそうに微笑む蒼はジュンを抱きしめた。

アップルパイの匂いに睨み合っていた2人も触発されて楽しみそうに笑みを浮かべる。

紅茶を7人分配り終えた真美子がでは、と手を合わせるのでほかの部員が一斉に軽い挨拶を交わしてカップを手にして紅茶を口にする。


「この香り…ダージリン?」

「えぇ、いいセカンドフラッシュをお母様が分けてくださいましたの」

「いい香りねー。さっぱりしてちょうどいいし」


真美子が持ってきた紅茶についての話をすると部員達は香りや味の感想を言い合って味わい嗜んだ。

口をつけたカップを置いて蒼のアップルパイに1番に手をつけたのは翠璃でいつもよりも大きめのひとくちを切り分けて口に運んだのを見て、橙子もアップルパイを笑顔で口に運んだ。

2人につられてほかの部員たちもアップルパイに手をつける。


「まぁ、このアップルパイ本当に蒼さんが?とってもおいしい…」

「えぇー?でも、アップルパイなんてぇ、初めて作ったから…でも、喜んでもらえて良かった」

「本当に。パイも美味しいし、この噛みごたえのあるリンゴの果肉もいい」


橙子も口を動かしながら蒼に微笑む。

翠璃のプレートには既にアップルパイの姿はいなかった。


「お姉様?アップルパイお食べになりませんの…?」


大好物であるアップルパイに手をつけていないどころかティーセットにも触れていない紅音を不審に思って心配そうに智瑛莉が問いかける。

しかし紅音は別にとそっぽを向く。


「あぁ、いいのよいいのよ智瑛莉。ほっといて」

「紅音さんどうかなさいましたの?」


それまで気にしていなかった橙子も紅音の様子がおかしいことに気づき声をかける。

蒼は自作のアップルパイに手をつけて貰えないのに切なそうに目を伏せて口をつむぐ。


「…何もないの。ほっといて」

「なら、紅音さんの分のアップルパイ貰っても?」

「えぇ、構わないわ」


紅音にアップルパイをねだった翠璃はプレートごと受け取りまた1口サイズに切り分ける。


「紅音さん、お紅茶のおかわりいかが?」

「…もらう」


真美子は手にしていたカップを置いて紅音に声をかける。

紅音は小声でそう答えてカップを差し出しておかわりを貰うが湯気のたった水面を見ると手をつけるのをやめて冷めるのを待った。

アップルパイを各々が咀嚼するたびにりんごの実がシャクシャクと刻まれる音がした。


「もう、だから考えなさいって言ったのよ」

「うるさいわね。いいじゃないの」


紅茶にもアップルパイにも手付かずの紅音に陽菜乃が呆れの感情の少し混ざった笑みを浮かべ紅音にはにかむ。

紅音はそれ着気に入らないのか眉間に少しシワを寄せてふいっと顔を背ける。

なんの事か検討もつかない後輩たちはポカンと二人を見ながら咀嚼物を飲み込んだ。


「やはり、何かありましたのね…」

「こっち見ないで」


じっと自分の顔を見つめる智瑛莉の顔に手のひらを被せて無理やりに逸らさせる。

そこまで拒否されると智瑛莉もさすがに耐えられないのか少し頬をふくらませ不服そうにする。


「なんでそんなに隠そうとするのよ?別にいいじゃない、お昼休みに調子に乗って食べすぎたくらい」


ケタケタ笑いながら言う陽菜乃をキッと紅音は睨んだ。

智瑛莉は一瞬だけ驚くも大きなことではないのに安堵した。


「アナタって本当にガサツね。私の繊細さをなんにもわかっちゃいないわ」

「はいはい、それはすいませんでした」


軽く謝る陽菜乃に更に機嫌を悪くした紅音はそろそろ冷めたであろうダージリンに口をつけて二口分を飲んだ。


「あ、そういえば今日のビュッフェは豪華でしたよね。私あのガーリックシュリンプいっぱい食べちゃった」

「うん、美味しかったねー。蒼トマトのサラダ美味しかったなー。翠璃ちゃんも結構食べてたよね?」


2年生たちも同じように学食のフレンチビュッフェを楽しんでいたらしく思い出しながら感想を言い合った時にいきなり話を振られた翠璃はもぐもぐしながらそうねと答える。


「まぁ、あのローストチキンのレモン風味ならもう一度食べてあげないこともないわね」

「とか言って1番食べてたじゃない。私2切れしか食べられなかったんだけど?」

「アンタが取るのが遅いからでしょ?私のせいにしないでよブス」

「はぁ?ブスじゃないっての!!そんなに食い意地はってると緑川萌乃様の体型がくずれますわよー」

「はぁ?私はねあんたと違ってちゃんと色々考えてるっての!!」

「とか言って、アップルパイ2つ食べたけどねー」

「陽菜乃さんまでっ!?」


また言葉の端をつかんで喧嘩をしだす橙子と翠璃を陽菜乃はやんわりととめた。

真美子はその様子を聖母のように微笑んで眺めていた。


「そうですね、だから珍しく紅音さんも欲張っちゃったんでしょうかね」

「なによ真美子。翠璃と一緒にしないでよ」

「ちょっと、紅音さんどういう意味ですのよ」


少しムッとした表情になる翠璃を蒼がなだめた。


「紅音さん、普段は少食なんですが…今日は豚肉のトマト煮込みを沢山召し上がりましたものね」

「…赤かったし」

「ふふ、美味しかったですものね」


真美子は微笑んでカップに口をつけた。

おかわりを注いだ智瑛莉はひとくち飲むとそのまま紅音の手を取り親指と人差し指の間に優しく圧をかける。

いきなりの刺激にびっくりする紅音は智瑛莉の方を見て何をしているのかと目で問いかけた。


「ここ。…胃もたれのツボです。少しでもお姉様の気分が良くなればと思いまして」

「あら、なら私もしてあげるわよ」


隣に座る陽菜乃にも指圧マッサージをされる紅音だったが加減を知らない陽菜乃の力は痛く感じてすぐに振り払う。


「ホントにガサツな女、少しはこの丁寧さを見習いなさいよ」


紅音は目線だけで智瑛莉を指して陽菜乃に訴えるが笑って流された。

智瑛莉は嬉しそうに微笑むと次は背中に手を回して紅音の肩甲骨を撫でて背骨を確かめる様に指先を動かす。


「ちょ、こら…何するのよ」

「何ってツボ押しですよ?…ほら、ここの…腰の辺りです」


そう言って制服の上から腰の上の辺りを撫でるのと押すのの中間くらいの力で何度もまさぐる。

くすぐったいのか気持ち悪いのか体をくねらせて引き剥がそうとする。

するとそれを見た陽菜乃は悪ノリして智瑛莉と同様に紅音の腰の辺りをつかんでくすぐる。

2人に挟まれた紅音は止めなさいと2人を振りほどこうと暴れながら真美子に目を向けて助けを求める。


「ちょっと、離しなさいよガサツ女!!」

「なによ、智瑛莉の丁寧さ見習ってんのよ?」

「だめです陽菜乃さん!!お姉様には私だけで十分なんです!!」


紅音は智瑛莉に抱き寄せられ陽菜乃からは離れることが出来たが智瑛莉に異常に密着するはめになってまた複雑な表情になる。

陽菜乃はごめんなさいねーと笑みを浮かべてもうそれ以上は紅音に触れなかった。


「ふふ、智瑛莉さんは今日も紅音さんが大好きなんですのね。こっちまで恥ずかしくなりますわ」

「やめてよ真美子、私は被害者よ」

「被害者だなんて…私の愛に答えてくれないお姉様の方がよっぽど罪人ですわ…」

「うっ…」


被害者と言われ少し目を潤ませ上目遣いで紅音に訴えると何も言えなくなり目を逸らして逃げる。

しかし智瑛莉は逃げることはせずにそのまま紅音の手に指を絡めて頬を撫でる。


「お姉様…私の気持ちには答えてくれませんか?」


頬を撫でる指先で紅音の唇に触れて唇と目を交互に見て囁く。

どうしていいのか分からない紅音は自然と首を横に振って智瑛莉の目を見るが智瑛莉はやめようとはしなかった。

紅音は少し迷った末になにか覚悟を決めたようにギュッと目を閉じた。

その様子は智瑛莉だけでなくほかの部員達も驚き止めにも入らずに皆じっと黙り2人の様子を恋愛映画のワンシーンかのように見ていた。


「お姉様…大好きです」


目を閉じた紅音にそう言うと、優しく両頬に手を添えてゆっくりと目を閉じてそのまま顔を近づけた。

このまま2人の唇がくっついてしまうのか部員達は瞬きも忘れてみていた時。


「…んっ」

「んむっ…」


目をつぶった紅音の顔に智瑛莉の顔が十分に近づいてあと数センチで重なるというところで智瑛莉がキスしたのは紅音の唇、ではなく、重なる寸前にそれを遮った紅音の人差し指だった。

人差し指を挟んだキスが終われば紅音はすぐに智瑛莉を振り払うが、智瑛莉は何が起こったのか理解出来ていない様子だった。


「お、ねぇさま…?」

「何?」

「わ、私達その、…今、キス…?」


自分からしようとしむけたはずなのに恥ずかしそうに頬を薄くそめながら紅音を見つめるが全く目を合わせようとしない紅音はふんっと顔を逸らした。


「馬鹿ね、こんな人前でそんなことするわけないでしょ?それにね、私の唇はそんなに安くないの」


紅音は一息でそこまで言うともう冷めきった紅茶に口をつけた。

智瑛莉は悲しめばいいのか前よりも進展したことを喜べばいいのかわからずに先程の紅音と同じように複雑な表情を浮かべた。


「…んっ!?」


いつもの様に紅音にかわされ自分のソファで顔をふせていると、先程紅音の唇に触れていた人差し指が智瑛莉の唇に押し当てられた。

紅音の人差し指に移った真っ赤な口紅を智瑛莉の唇にも移すように押し当て撫でられると驚き目を見開いて紅音の方を見た。

すると顔を逸らしたまま紅音はボソボソと続ける。


「…い、今はアナタにあげられるのはこれだけ。…だから、このくらいで我慢しなさいよ…」


紅音が空気感に耐えきれずにカップを手にして紅茶を飲んでソーサーに戻した時、丁度部活終了を示す時報の鐘がなった。


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