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午後の紅茶にくちづけを  作者: ちょこみんと
ディンブラ・ティー
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「記念パーティー…ですか?」


お気に入りのショートケーキを切り分けて口にする翠璃は不思議そうに聞き返す。

部室の中で真美子はいつもの席でカップを手にしたままため息ばかりを吐いていて、陽菜乃がそれを慰め紅音は気にせずに紅茶を啜っていた。

智瑛莉も大して気にせず自分のショートケーキに乗っていた美しい真っ赤なイチゴを紅音のケーキの乗っている皿に添えた。

橙子と蒼と美味しそうにケーキを頬張っていて、落ち込んでいるような真美子の様子を伺っていた。


「そう。今年の10月に。…ほら、真美子怖くないから、ケーキだよー?」


大好きな紅茶にも口をつけない真美子の背中を撫でながら目の前にケーキを差し出すが真美子は首を横に振って拒否をした。


「何の記念パーティーですか?…うちの学校の創立記念ならそんなにキリのいい数字じゃないですもんね…」


蒼がクリームの残ったフォークを片手に斜め上に目線をやって今年がなんの記念なのか考える。


「なら、白樺家の記念ですか?…あ、でもそれならわざわざ学校に連絡はいきませんわよね…」


橙子も考えては見たが答えが出てこず正解はなんなのか問いただすように陽菜乃と真美子を交互に見る。

陽菜乃は真美子の様子を見て一瞬答えるのをためらうが、遅かれ早かれ知られるのだからとゆっくりと続けた。


「学校の創立記念日…って言うのはあってるんだけど、それはうちのじゃなくて」

聖徳東(せいとくひがし)…。うちと付き合いの古い男子校よ」


肩を落としている真美子を面白がるように紅音はぷぷぷと笑いながらまたそう言っていちごにフォークを突き刺した。

真美子は学校の名前を聞くともう一度深いため息をついた。


「まぁ、聖徳東なんて男子校の最高峰ではないですか!!」

「そんな学校の記念パーティーにお呼ばれするなんてさすが我が校の生徒会長様ですわ」


学校名を聞いた途端に顔を輝かせる橙子と蒼に陽菜乃はそうじゃないのよと首を振った。


「聖徳東は今年の10月で創立100年目って事で派手に祝うらしいのよ。…それで学長も長い付き合い同士って事でうちの生徒を招待して下さって、まぁ…生徒会長でもある真美子はもちろん副会長の私にも声が掛かったんだけど…」

「え、えぇ…そこまでは普通ですよね…」

「それでね、…ね?真美子」

「ホント…あの話今日で1番笑ったわ」


紅音は何かを思い出したかの様にケタケタと笑いだして智瑛莉に不思議に見つめられる。

真美子は1回も口につけていないカップをソーサーに戻してまた深いため息をはいた。


「その記念パーティー…学長のご提案で余興にダンスをすると言い出しまして…」

「ダンスですか?…真美子さんお得意じゃないですか」

「…わが聖白百合女学院の数名と聖徳東高校の生徒会がペアになって踊るんです…」


なにかに怯えるように真美子がそこまで言うと陽菜乃が頑張ったねーと優しく抱きしめて頭と背中を交互に撫でてやった。

紅音はその様子がおかしくクスクス笑うが後輩たちは頭の上に疑問符を思い浮かべていた。


「それの何か問題でも…?」

「あら、あなた達は知らないのね」

「…?」


クスクスと笑う紅音と不思議そうにこちらを見る後輩の顔を見返して少し言うのを躊躇うが陽菜乃は目線を外してゆっくりと口を開く。


「真美子はね…極度の男性恐怖症なの…」


心配そうに自分の腕の中にいる真美子の頭を撫でる陽菜乃がゆっくりとそう言うと真美子は頭を抱えた。

初めての事実に2年生と智瑛莉は驚き互いに顔を見合わせ何度も瞬きをする。


「は、初めて知りましたわ…本当ですか?」

「…えぇ…残念ながら本当です…」

「それならばパーティーはどうなさるんですか?」


ケタケタ笑う紅音とは反対に智瑛莉はカップを持ったまま心配そうに真美子に問いかける。


「…どうにかしないといけない…よね…?」

「…えぇ。生徒会長である私が逃げ出すわけにはいきませんもの…ね…」


真美子は強く頷いてそういうと少し落ち着こうと自分のカップを手にするが、その手は小さく震えていてカタカタとカップが揺れていた。


「なら、記念パーティーまでに男性恐怖症を克服しなくてはですね…。蒼、全力でサポートいたします!!」

「あ、私にも出来ることがあればおっしゃってくださいね!!」


橙子と蒼は指先まで震わす真美子にそう言うとスマホを取り出して調べ物を始めた。


「真美子さんの男性恐怖症って…どういったものですか?」

「結構重症よね…あの体育教師とまともに日本語で会話出来るようになったの最近だもんね」

「そうね…あと、1年の時の国語の先生が偶然真美子の肩に触れた時、物凄く肌荒れした…っていうか爛れたよね…」

「ああっ、おやめ下さいっ!!思い出すだけで体が…」


陽菜乃に昔の話をされると話の通り以前国語の教師に触れられたらしい左肩に手を持っていき制服の上から掻きむしった。

どの程度の症状なのか知りたがっていた翠璃もその様子を見るとあまりの酷さに言葉を失う。


「重症ですね…あと3ヶ月ほどでどうにかなるんでしょうか?」

「今調べたところ、男性恐怖症は心療内科での治療が1番のようですよ?」


蒼が持っていたスマホの画面を真美子にみせる。

真美子は震える手でスマホを受け取り男性恐怖症についてのサイトに目を通す。


「でも、初めは原因を探るのがいいらしいですわ」

「そうですよ、何が原因で男性恐怖症になられたんですか?」


橙子も自分のスマホを見ながら真美子にそう言うと智瑛莉もさらにつけ加えて心配そうに問いかける。

先程よりも落ち着きを取り戻した真美子は蒼にスマホを返却してそっとひと口紅茶を口にする。


「そうですね…。原因…」

「恐怖症という事は、何か恐ろしい経験やそう考えてしまうようなことがあったとか…?」

「なら、今までの男関係を洗い出してみるのは?」


紅音はフォークを刺したイチゴを口の中に入れて真美子に提案してみる。

それもいいかもね、と言い方が引っかかる陽菜乃も賛同する。


「…原因…」

「でも、女子高ですからね…。男性に対しての免疫がないのも無理ない話ですよね」


翠璃が右斜め前に座る真美子に同情するようにそう言って紅茶をすする。


「あ、そう言えば」


何かを思い出したように陽菜乃が頭をあげる。

真美子以外の5人は陽菜乃が何を思い出したのか知りたく一気に顔を向ける。


「そう言えば、中学一年の時で仲良くなり始めた頃…うちに真美子が遊びに来て…」

「陽菜乃さんのご自宅に…?」

「そう。で、その時まだ弟達が小学校低学年で…学校で流行ってたのかどうか知らないけど、初対面の真美子が着てたスカート思いっきりめくったわね」


昔話を思い出し懐かしさに浸るのと同時に目の前の真美子に対しての申し訳なさを感じつつ原因解明の為にエピソードを様子を伺いながら話すと紅音は吹き出し、他の部員は笑っていいのか分からず気まずい空気になる。

真美子はその当時の記憶を思い出したのか頬を染めて恥ずかしそうに両頬に手を添えた。


「う、噂に聞く…スカートめくりってやつですね…」

「しかも、下着までバッチリ見られて…ごめんねアレから物凄く叱ったのよ!!」

「小学生と言えど…男子に下着を見られるなんて…」

「それが男性恐怖症の原因でしょうか…という事は、男性が下品だということを撤回できれば少しは改善するかもしれません!!」


少し熱くなりながらそう励ます智瑛莉に真美子は納得して、ありがとうございますと頷いて感謝する。

弟の行為を下品といわれ陽菜乃は弁明するどころか確かにと納得してしまう。

すると翠璃も先程の陽菜乃と同じようにあっ、と声にして何かを思い出した。


「そう言えば、私が中等部の時にもありましたわ。確か…卒業式の準備だったと思いますが…生徒会に所属していらした真美子さん結構教師達に色々と仕事を任せられていましたよね」

「…そうですね。あの時が1番酷かったですもの…」

「あ、真美子がトイレに引きこもった話?」

「え?なんですかそれ」


翠璃が同じ中等部だった時の話をしだすと何の話かを理解出来た真美子は怖い話を思い出した子供のように嫌な顔をして顔の大半を両手で隠す。

紅音もなんの事か分かったようで翠璃に聞き返すと、それを知らない蒼が興味ありげに食いつく。

翠璃も他人の話なのでどこまで話していいのかわからず真美子の様子をチラチラ伺いながら続けた。


「真美子さん、中等部でも生徒会長してたじゃない?それで入学式に在校生代表挨拶とかほとんど任されて…しかも、その担当が若月先生で…」

「…なるほど…。原因はきっとそれですよ」


若月という名前を聞いただけで中等部からいる智瑛莉以外の部員が渋い表情で納得する。

1人だけ理解できなかった智瑛莉は若月先生って?と紅音に問いかける。


「…ドラマの熱血教師をテレビから出したみたいな昭和を引きずったつまんない男よ」

「しかも、変に距離感近くて蒼あの人苦手でしたぁ…」

「…それで真美子さんはなにかされたんですか?」


後輩たちの視線を感じつつも真美子はうまく答えることが出来ず目を伏せて俯くので部員たちは察してこれ以上の追求はやめようかと互いに目配せした。


「…卒業式前の2週間くらい昼休みはずっと呼び出されて挨拶の練習だの飾り付けとかさせられたり…ね」

「そうですね…。あんまり覚えていませんが気づけばトイレの個室にいましたね」

「そうでしたよね?私、その時若月先生に用事があって探していたら女子トイレに向かって真美子さんの名前を呼んでいたんで驚きましたわ…」


真美子程ではないが翠璃は当時を思い出しておいて気持ち悪く感じたようで口元を抑える。

真美子の顔色はさらに色が無くなり死人のようになっていた。


「げ、原因はわかった所で…次はどうやって克服するかですね…」


様子がおかしくなった真美子と翠璃の様子をみた智瑛莉が話を変えるように手を一度叩いてそう言うと真美子を鼓舞するように微笑む。


「やっぱり蒼が言った通り心療内科…?」

「んー、少しずつ男性に慣れていくというのもありますけど」

「でも、この中で男性のお友達がいる方って…?」

「それなら、まずおじいちゃんとかから初めて年齢を下げていくのがいいかもしれませんね」


陽菜乃達の提案をまとめて自分なりの考えを言うとそれはいい案だと拍手を送り賛同する。


「じゃあ、学長は?」

「確かに、サンタさん見たいで話しやすいかも!!」

「なら今から出も行きましょうよ、善は急げです!!」


そう言って橙子は自分の胸の前で小さくガッツポーズをして真美子にエールを送った。

顔面蒼白の真美子は、皆さんありがとうと頷きながらもそれ以上の行動に移る気力は残っていないようだった。


「ま、まぁ…今日は色々と衝撃な事が多くて真美子は疲れてるだろうから、それは明日から頑張ろう…ね?」

「は、はい…」


本人よりも真剣に熱くなっている後輩たちをなだめるようにそう言う陽菜乃は真美子にも目線をやって問いかける。

変に疲れ果てた真美子は蚊の鳴くような声で返事をすると、おかわりするのもわすれてもう既に空になっているはずのカップに口付けをした。




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