汚れ堕ちていく男
何もかも、どうでもいいと思っていた。
俺には、人並みな人生は送れない。
自分の愛した女さえ大事に出来ない。
2人で暮らしていた7階建マンションの角部屋は、
無駄に広い3LDKの空間を持て余していた。
長年苦楽を共にした。
それなりに楽しかったし、上手くやれていたと思った。
友人からは、本当に仲の良い夫婦だと太鼓判を押されていた。
だけど、ちょっとステップを踏み外したら、後は転がる石のようだった。
俺が彼女を裏切った。
彼女を大事にしていたつもりが、つもりでしかなかった。
軽いつもりで飲みに行った女に襲われたんだ。
酔ったふりして介抱していた俺は、ベッドの上で飛びかかられてなすがままだった。
襲われたと言っても、本心は同意だった。
ただ男として、本能的に必要とされたかった。
俺たち夫婦は長い間セックスレスだった。
隠す事に慣れていなかった俺の愚行は、すぐに彼女に露呈した。
付き合いも含めると15年も一緒に連れ添った彼女から、
「私は、あなたとの今までのセックスで一度も気持ち良いと思ったことはなかった」
最後にそう吐き捨てて、彼女は一人マンションを出て行った。
がらんどうの部屋。
がらんどうの心。
当然、仕事も上手くいくはずもなく、やる気のない俺に部下は愛想を尽かしていた。
そんな遣る瀬無い状況の中、程なくして俺は出会い系サイトに登録した。
シンプルに、独りでいるのが辛かった。
誰でも良いから孤独を埋めて欲しかった。
騙される事も多かったが、その日限りで飲みに行けたり、その日限りの関係も何度か訪れた。
だが、いづれも自分の乾いた心を満たすものではなかった。
そんなある日、珍しく女性側から一通のメールが届いた。
「身体の関係で会いませんか?」
既に何回か女性を装ってメール代を稼ぐ業者というのに引っかかった経歴はあった。
だがその日は、いろんな事に疲れていたのもあり、承諾という選択肢をとった。
大したやり取りも無いままに日時の約束をした。
だが実際にその女性は2日後の早朝、俺の家に来た。
夜勤後に車で俺のマンションの前まで来ると言う。
「着きました」
知らせを受けて、マンションの下の駐車場まで降りた。
そこには、予想もしなかった女性の姿があった。