別離の詞はやけに冷たく
気付いていたことであらん
頭がわかっているうちに終わらせませう
冷とうとも佳きことなり
間違っているかも知れませぬ
其れでも私は――
――恋しておりました
唯ひたすら慕ふておりました
之が愛だと信じておりました
されど其は違ふものでした
眞は粘着でありました
執着でもありました
妄信であり、束縛でありました
其に愛が在りしや
今となりてはわかりませぬ
もし在るとすれば
其は正に狂愛でありませう
己をなげうちてまで、自身を滅ぼさんまでの
狂おしいまでの愛でありませう
其は哀しみしか残さぬと
唯苦しませるばかりなりと
気付いた頃にはもう遅うございました
私の想うたあの御方は
とうの昔に消え失せたのであります
私を見つめた黒曜の眸は虚空を彷徨ひ
愛を紡ぎし口唇は噓を吐き
私を抱き締めた両の腕は力無し
嗚呼、何ということでありませう
何故今迄わからなかったのでありませう
恋は盲目とは斯くの如し
もう間に合うかもわかりませぬ
されど何もせぬよりは佳きことなりかと
いざ愛しき御方へ詞を紡がん
「もう終に致しませう」
――然うして貴方様を私から解き放ちませう
「私、恋ひ慕ふ方がおりますの」
――其こそ私の為せる唯一のことなれば
「之は互ひに遊でありませう」
――見事、遣り遂げてみせませう
「私も貴方様も若く在りませぬ」
――最低な婦で構いませぬ
「遊の刻は去ろうもの」
――忘れ去られても、詰られても佳いのです
「眞に想ふ方の為にも……貴方様」
――貴方様を私と云ふ鎖から自由にせられば
「私と別れてくださいまし」
――然うして貴方様に相応しい女子と夫婦に成ってくださいまし
貴方様は唯「相わかった」とのみお返しになりました
其の儘後を向かれ、此方を振り返ることなく、去っていかれました
其の背に悲哀は欠片も漂ふておりませぬ
嘆きもございませぬ
唯憑き物が落ちたの如く、足取は軽うございました
後に残されるは私ばかり
好いた男に別離をした、強がりで愚かな女ばかり――
傍目からすると愚かな女子でありませう
唯の狂いし婦でありませう
其れであっても私には之しか想いつかず、こうせざるを得なかったのでございます
私はどうすれば佳かったのでせう
何処で歯車は狂いしや
今となりてはわかりませぬ
然れどもし願い叶うならば
あの御方の未来が幸せに満ち溢れますことを――
(誤字 脱字などございましたらお教えください。
貴方様の心になにか残せましたら幸いです。
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。