02_男として大切なものを失ってしまった俺、どうすんの
お久しぶりです。これからまた投稿を始めようと思います。
少女を背負い、俺は全裸で森の中を全力疾走している。
「ははっ! 最高の気分だぜ!」
生い茂る木々の隙間から朝日を受けながら、先程までの光景を思い起こす。
まさかパッドの封印術師がいるとは思わなかった。
「まあ、眼福だったけどな!」
そして俺が今背負っている少女も、かなりの美少女である。しかも俺と同じくマッパである。これは運命なのか。……俺は自らふんどしを脱いだけどな!
しばらく走り続け、少し開けた場所に出る。そこで少女をゆっくりとおろし、俺は幹に背を預けて休憩をとる。
「しかし、なかなか目を覚まさないな」
綺麗な顔立ちをした白い肌の少女。印象的だった真っ赤な瞳はまだ開いていない。
このまま素っ裸のまま寝かせておくのは、どうなのだろうか。最初から全裸だったし、特に何もしなくてもいいかもしれない。
そういうことにした。
……。
いや、決して、目の保養とか考えていないんだけどなっ! これっぽっちも! 全然!
目を離さない理由は、あくまで彼女の身の回りの安全を守るためであり、っておや?
「ん……?」
白く長い髪をした美しく幼い少女がぴくりと体を揺らし(ない胸は揺れず)、ゆっくりと瞼を開いた。そして、あの怨念とか憎悪に満ちていた……気がする紅き瞳をぱちくりとさせる。
「……我が輩は?」
周りをキョロキョロし、ついに俺(全裸フォルム)を視界に捉えた。
「よう」
とりあえず、片手をあげて挨拶をしてみた。
「うむ」
頭を軽く下げ、すぐに上げる少女。ええと、名前は確か……沙羅だったか。
「一応聞くけど、俺の事、覚えてるか? 一緒に封印礼装をぶち壊した仲なんだけど」
「覚えておるのだ。助力、感謝しているのだ」
よかった。ちゃんと覚えてくれていたようだ。あの時、すぐに気を失ったようだから不安だったが、これで一安心。
「ところで尋ねるが、我が輩を封印しようとしていた連中はどうしたのだ?」
「全裸にして置いて来た。そして俺も全裸で、お前も全裸だ」
「うむ、どうにも冷えると思ったら、我が輩までも全裸だったのだな。気が付かなかったのだ」
いや、気が付かなかったって。
「嘘だろおい。俺の視線が気にならないんですかね。こんなにもじろじろと見ているのに。見ているのに!」
沙羅はニコニコと笑い、
「その割には、――お主の愚息はぴくりともしていないようだったのでな」
「ハッ、そんなわけ」
俺の股間はこの通り、とっくのとうにエレク……、え?
まじまじと股間を見つめるが、俺の息子は何も反応していなかった。何も、起きていない。
「なぜだ、何が起こったんだ!! 我が息子よ!? お前は自身の役目を忘れたとでも言うのかっ!?」
目の前にこんな美少女がいるにも関わらず、俺の股間が反応しないだと? 馬鹿な、これは何かの間違いだ。頼む、嘘だと言ってくれ!
「まさか俺は、いわゆる不能というやつになったのか!?」
超絶美少女の素っ裸をあんなにも直視し続けていたというのに、なぜなんだ。
この時、俺の脳内に一つの可能性が思い浮かぶ。
「ハッ、俺がロリコンじゃないからかっ!?」
「我が輩をロリ扱いするな!」
すぱこん。
頭を少女の白い手で叩かれた。
「じゃあアレか。実は俺、無意識のうちに熟女好きになっていたのか」
いいや違う。俺は至って健全な男児だ。
熟女なんかよりも、同い年とか若い子の方が断然好みだ。なのに、俺の愚息はぴくりとも反応を示さない。
「何が原因なんだ……」
「我が輩、一つ心当たりがあるのだ」
真っ白な髪をなびかせながら沙羅は立ち上がり、俺の愚息を指さす。
「あの時、汝の愚息は――封印されたのだ」
「封印、だと」
まさかまさかの、俺と沙羅が封印礼装を無理やりぶっ壊した時の影響だとでも言うのか。その時に何かしらの不具合が起こって、俺という男児の体に負荷がかかり、誤作動を起こし、最終的に男としての機能を封印されてしまったとでも言うのか!
「まあ結構強力な封印礼装だったのだ。強引に破れば、何かしらの反動があってもおかしくないのだ」
我が輩にも、妙な制限がかかってしまっているようなのでな。と、意味深に言いながら、沙羅は俺の真横で腰を下ろした。
「ならばもう一度この封印を破れば!」
「無駄なのだ」
俺は自身の体へと、意識を集中させる。
しかし、どうすることもできないと悟った。何も違和感がなかった、不備などなかったのだ。封印礼装の術式を解く時と違って、何も見えなかった。
「嘘だろ、おい」
これが、この状態こそが正しいと体に刻み付けられていた。
――男としての機能を失った俺こそが、俺であるとでも言うかのように。
「もう封印が、という状況を超えてしまったようなのだ」
諦めるしか、ないというのか。
「汝の愚息は、永久に封印されてしまったのだ」
「そんな……」
俺にはもう、どうすることもできないと言うのか。
男として、生きていくことがもうできないのか。
つまり、つまりだ。
「一生の童貞のままなのかよっ、ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
魂から放たれた咆哮は、この森一体に響き渡る。
そして多くの鳥たちが驚き、翼をはためかせながら飛んでいく。
「汝……」
もう何も言わないでくれ。
俺の心は深く傷ついている。男しての尊厳を失ったのだ。落ち込むのも当然だろう。
「童貞だったのだな……ふっ」
「今笑ったよなおい!? なんだ、やるのか!」
「ヤる? そんな愚息で一体に何ができるというのだ」
ニタニタと笑っている。
清楚な姿をしているというのに、下品なことを言いやがって。
「人の弱みを突きやがって、この悪魔め!」
「そうとも、我が輩は悪魔だとも」
白髪の少女はその場でくるりと一回転し、宙に向かって飛んだ。
背からは大きな漆黒の翼を生やし、とがった犬歯を見せながらに言い放つ。
「我が名は沙羅・アスモデウス。この世を肉欲で支配するため、生まれてきた悪魔だ」
マジで悪魔かよ。そりゃ封印されかけていたのも納得がいく。
「我が輩を解き放ってくれたことは感謝するのだ」
再度にたぁあと笑い、上から見下ろしてくる沙羅。
そんな姿を見ながら俺は。
「やっぱり俺は男として終わってしまったのか」
と下から眺める美少女の裸体に興奮しない己自身に、失望した。
ありがとうございました。