姉が異世界で結婚するって!?ウエディングドレスを作るのは私だ!!
6月なので結婚式の話をと・・・。
私は幼馴染タクミの家に押しかけ、こう問いかけた。
「ねえ、タク君。ノンちゃん知らない?」
「え、ちょ、お前何で・・・」
・・・この反応は黒だな。
私、鷺沼マドカは自他共に認めるシスコンである。そんな私が、姉・ノドカの存在が消えた事に気づかないとでも思っていたのか。片腹痛いわ。
「ねぇ、ノンちゃんは?」
「だ、誰だノドカって・・・」
「隠しきれていないぞ。馬鹿が」
何か知っていそうな馬鹿を問い詰めるためにコブラツイストを発動した。
コブラツイストから抜け出したタクミの説明によると、ある日、姉とタクミは平安時代風の異世界に召喚された。姉は巫女、タクミやその仲間たちは守り人として敵と戦い、世界を救ってきたのだという。姉は、守り人の一人と恋に落ち、異世界に留まる決断をした。その決断を知った異世界の神が、この世界の予定調和のため姉の存在を消したという。
「なんで、お前は覚えてるんだよ!?」
「何故、私が忘れると思ったのだ?」
私の姉への愛を疑ったタクミの腕を思い切り捻りあげてやった。
「痛い痛い痛い。なんで、お前はそう攻撃的なんだよ」
「そんなことより、結婚式はいつだ?」
「は?」
「結婚式だ。ノンちゃんのウエディングドレス姿を見ずに一生を終えるという不覚は取りたくない」
「・・・何、言ってんの?」
「お前こそ正気か?ノンちゃんのウエディングドレスだぞ?一生に一度しかないんだぞ?」
「あぁ~そもそも異世界だし」
「どうにかしろ」
「向こうの結婚式って多分和風」
「どうにかしないと、ネックハンギングツリーの刑に処する」
「どうにかしてみるから・・・止めてくれ」
プロレス技は偉大だ。
どうにか異世界の神とコンタクトを取ったらしいタクミに呼び出され話を聞いたところ、なんとか異世界に行けることになったという。
「良いか。チャンスは一回だけだからな」
「その一回で結婚式か・・・マズいな」
「何がだ」
「ノンちゃんに似合うドレスは何着持っていけば良いか・・・迷うな」
「・・・好きにしてくれ」
Aラインを始め、プリンセスライン、エンパイアライン・・・どれも似合って困る。
「というか、ドレスはどうすんだよ。サイズも分からないのに」
「何故、私がノンちゃんのサイズを知らないと思った?ドレスは私が手ずから作る予定だ。私が生まれた瞬間からな」
「お前・・・怖いよ」
アイアン・クローが決まった。
異世界へ行く当日、泣く泣くドレスを3着まで絞り込み、メイク道具等を取り揃えてタクミの家に来た。
「お前、3着も作ったのか・・・」
「ドレスだけでなく、新郎の服とタク君の神父服も作ったが?」
「俺、神父なんだ・・・」
「仕方ないだろう・・・私が父親役だからな」
「それ、向こうの義理のお父さんに頼んだら?」
なんと!そんな方が居たのか!!
「何故、早く言わない!!タキシードは1着しかないんだぞ!?」
「もう、お前が父親役で良いよ」
ノンちゃんの晴れの舞台になんと投げやりな!!三角締めをお見舞いしてやった。
「・・・俺、無事に向こうに行けるのかな?」
謎の光に包まれて到着したのは和室だった。
「ノドカの結婚相手の家のハズだ。ちょっと待ってろ」
そういうとタクミは部屋を出て行った。私は荷解きを開始する。
少し待っていると襖が開いた。
「マドカ。こいつが結婚相手の藤原友経だ」
「ノドカの妹殿とお聞きしている。藤原友経と申す」
「鷺沼ノドカの妹、マドカと申します。この度は私の我が儘をお聞き入れ下さり、ありがとう存じます」
「いや、ノドカも喜ぶ話だ。そう、固くならないでくれ。其方は我が妹も同然・・・」
「・・・猫、被りすぎだろ」
思わずアックスボンバーが出てしまった。
新郎と自身の着替えをタクミに任せ、姉のもとへ向かう。部屋へは女房さんが案内してくれた。
「失礼いたします。ノドカ様、お客様でございます」
「どうぞ」
襖が開く。そこに居たのは十二単を着た最愛の姉であった。
「ノンちゃん!!」
「マドカちゃん!?どうして・・・嬉しいお客様ってマドカちゃんの事だったのね」
「ノンちゃん・・・会えなくて寂しかったよ」
「マドカちゃん・・・」
「十二単姿の写真撮って良い!?」
「変わらないね~良いよ~」
心行くまで写真を撮った後、本題に入る。
「ノンちゃん、結婚するんだって」
「そうなの。友経さんって言って、とても優しい人なのよ」
「さっき会ったよ。それでね、ノンちゃん結婚式しようよ」
「え?」
「ドレス持ってきたの。結婚式しよう」
カバンから3着のドレスを出す。
「どれが良い?」
「マドカちゃん・・・これ、どうしたの!?」
「作った」
「作ったって・・・マドカちゃん本当に凄いね~」
やった、褒められた。
「好きなの選んで。なんなら全部着てもいいんだよ」
「うわぁ。迷うな~」
結局、ノンちゃんはプリンセスラインのドレスを選んだ。流石、私。ぴったりだ。
「サイズぴったり。マドカちゃんありがとう」
「どういたしまして。でも、まだまだだよ。サムシングフォーって知ってる?」
「結婚式に身に着けていると良いっていう・・・」
「そう。それ」
メイクをしながら話しを続ける。
「ドレスが『新しいもの』。髪飾りが『古いもの』と『青いもの』で」
カバンから白い手袋を出す。
「これ、私のだから後で返してね。はい『借りたもの』」
「マドカちゃん・・・」
ノンちゃんが泣き出した。
「ノンちゃん泣かないで・・・メイクが」
「本当に、本当にありがとう。まさかウエディングドレスを着て結婚式が出来ると思ってなかったよ。ここに残ると決めた時、いろいろ手放したものがあった。マドカちゃんに会えなくなることも、その一つ。でも、マドカちゃんは私を離さないでいてくれたんだね」
「ノンちゃん・・・ノンちゃんが幸せなら、私はそれで良いんだよ」
「マドカちゃん・・・」
「おい、準備できたか」
・・・空気を読め!!タクミ!ラリアットが炸裂した。
結局、新婦の父親役は義理のお父様にお願いした。私は神父のタクミの側でバイオリンをかまえる。
「・・・本当に無駄に多才だよな」
「ノンちゃんの為ならな」
曲はもちろん結婚行進曲だ。ちなみに、デジカメは近くの女房さんに使い方の説明をして預けてある。完璧だ。
曲に合わせてノンちゃんが入場してくる。少し緊張した顔。友経さんのところまで行くと、顔が綻んだ。
「汝、藤原友経は、この女、鷺沼ノドカを妻とし、病める時も健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで愛を誓いますか」
「誓います」
「汝、鷺沼ノドカは、この男、藤原友経を夫とし、病める時も健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで愛を誓いますか」
「誓います」
・・・キスする二人は見られなかった。
その後、持ってきた他のドレスにも着替えてもらい、一生分のノンちゃんフォルダ用写真を撮りまくった。どの写真のノンちゃんも笑顔だった。
「ノンちゃん・・・幸せでいてね」
「マドカちゃん。ありがとう」
「友経さん・・・私たちの世界では嫁の親族が婿を殴るという習慣があるのですが、一発良いでしょうか」
「微妙な嘘は止めろ」
仕方がないからタクミにバックドロップをすることで勘弁してやった。
再び謎の光に包まれると、そこはタクミの部屋だった。
「タク君・・・ありがとう」
「素直に礼なんて言うなよ」
「ノンちゃんのコレクション増えた」
「やっぱりそこか」
足りなくなったら、また異世界に写真を撮りに行こう。タクミを脅せばどうにかなると私は確信している。