目覚め
朝目覚めると、隣で眠る夫はいなくなっていた。
「ジョーンズ?」
目をこすって体を起こす。
頭がすっきりしている。よく眠った証拠だ。
大きく伸びをすると、タイミングよくドアが開いてジョーンズが入って来た。手にはトレーを持ち紅茶を載せている。
たちまち、温かい気持ちが胸を満たした。
「おはよう、アニス」
ジョーンズが化粧台に紅茶を置くと、アニスの額にキスをした。
「おはよう。ジョーンズ」
アニスは体を起こして、ジョーンズが持って来てくれた紅茶をゆっくりと味わって飲んだ。飲み干してトレーに戻す。
「ありがとう。おいしいわ」
「着替えたらおいで、先に行っている」
ジョーンズは飲み終えた紅茶を持って部屋を出て行った。
アニスが息をついた時、ドアをノックする音がして顔を向けると、若いメイドが静かに入って来た。メイドは軽くお辞儀をすると、ドレスの着付けをお手伝い致しますと言った。ドレスを選び、手伝ってもらいながら、ふと、パースレインにいた頃の自分付きのメイドの事を思い出した。
愛称をキャットと言い、彼女は魔女だった。ドジだけど明るくていつも笑っていた。アニスのやんちゃを見逃してくれていたキャット。
彼女は無事だろうか。
ふと、アニスの胸に不安がよぎった。
着替えて居間に行くと、ジョーンズが紅茶を飲んでくつろいでいる。アニスは彼のそばに寄ると、頬にキスをした。すると、ジョーンズがおや、という顔をした。
「どうしたの? 浮かない顔をして」
「え?」
アニスはびっくりしてジョーンズを見つめた。
「何かあった?」
「え、ええ…」
アニスは席に座り微笑んだ。とたん、胸が熱くなる。涙が出そうになって、唇を噛んだ。
「アニス…」
ジョーンズが立ち上がり、肩を撫でた。アニスは溢れだした涙を隠さずジョーンズの胸に頭を預けた。
「キャットの事を思い出して」
「キャットって?」
「私のメイドよ。パースレインにいるの。パースレインの人たちはどうなったのかしら、心配でたまらない」
「アニス」
ジョーンズが抱きしめてくれる。アニスは彼にしがみついた。涙が止まらない。
今もこうしている間、パースレイン、いや、世界中で起きていることを思うと胸が苦しい。
「パースレインへ行かなくちゃ」
アニスが小さく言った。
ジョーンズが答えるように強く彼女を抱きしめた。




