脱法ため息
「結局みんなどこか行きついた先でそれなりの幸せをみつけるんじゃないの」
そうなんですかね、と男が相槌を打って60秒後、女は制服のポケットから小さな箱を取り出した。
「先輩、吸うんですね」
「ん」
女はライターを弾かせ、口から8cm先に火を灯した。
男は虚空を見つめる彼女と、別の虚空に漂っていく煙を見ていた。
「吸ってる、っていうより、吐いてる」
「そうなんですか」
男が今日何回目かもわからないセリフを吐いた。
「幻滅したでしょ」
女は夜風の中にとうに消えた煙を見て言った。
男は女が煙を吐き切るのを待って、「いいえ」と絞り出した。
「ちょっと意外ですけど、学校にばれなきゃ、大丈夫です。かっこいいですし、似合ってます」
そう、と喉を震わせずに女は返した。
「帰るね」
「はい、遅くまですみませんでした」
「付き合ってって言ったのはあたし」
「そうですけど」
「んじゃ」
「お体に気を付けて!」
「やっぱ嫌なんじゃん」
「そういうわけでは…」
女はやっと男に振り向いた。
「ため息くらい、つかせてよ」
男は、また学校で、と答えることしかできなかった。
男は駅を出て襟からネクタイを引き抜き、コンビニの前で火をつけた。
行き交う雑踏の中に、電話口の怒鳴り声と上司の醜い顔がフラッシュバックする。
はぁ、しんど。
言葉は煙になって、夜空へ浮かんでいく。
吸ってる、というより、吐いてるんだな。
火は泥水の中に落ちていった。




