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1章 5 再会と邂逅

曇天の中、家路をとぼとぼと歩く。

結局あれから小一時間作戦会議を開いた後、女子寮の入浴が始まる三十分前の八時に学校近くの公園に集まることになった。


俺は高校二年にもなって何をしているのだろうか。

自己嫌悪に悩まされながら歩いているといつの間にか見慣れた一戸建ての家に着く。俺の家だ。


とりあえずシャワーでも浴びてすっきりしようと思い玄関に手をかけた、そのとき。


ゾクり、と背中に突然氷柱を押し当てられたかような怖気が走る。長年染みついた感覚、俺は玄関から飛びずさり距離をとる。


直後、頭上から何かが落下し、さっきまで俺が立っていた地面を見事に抉った。


ドゴォンと派手な音がして盛大に土煙が舞う。

状況は把握できているため慌てはしなかったが流石にあきれた。俺が避けられなかったらどうするつもりだったのかと。


土煙が晴れて相手が姿を見せたとき、俺は訊いた。


「今の、かわしてなかったら死んでたぞ、親父」


「フン、見えていれば痛かろうと死角から攻撃したのは俺なりの配慮だったんだがなぁ。あっさり無下にしやがって」


そう言って降って来た男、俺の親父、立花総一郎はたった今地面を抉ったと思しき赤い槍を肩にかける。あれで地面を抉るとか相変わらず親父はデタラメな強さを誇っていた。


よく見ると親父は全身青いタイツを身に着け髪も青く染めている。さっきの台詞といい今日はランサーのコスプレのようだ。


親父は昔から特訓の一環として、こうして奇襲をかけてくることがしばしばあった。親父曰く、戦場ではいついかなる時に敵が襲ってくるかも分からないため、奇襲にもいつでも対応できるようにする特訓なんだとか。俺の普段住んでいる所は戦場だったのかとかツッコミたい所は沢山あったが、実際に突然襲われそうな時にはさきほどのように体が動くようになったし、そのおかげで中学の時には不良の奇襲を未然に防げたりしているから何も言えずにいる。


「それより親父、いつ帰って来たんだよ。二ヶ月ぶりくらいじゃねえか。お袋は帰って来たのは知ってんのか?」

「ハッ、今から命の取り合いをしようって時にそんな話とは余裕だな、アーチャー」


誰がア―チャーだ。弓なんて持ったこともねえよ。

親父はキャラに入り始めると途端にめんどくさくなる。親父は肩に乗せていた槍をこちらに向ける。


「さて、今日も帰ってきた時恒例の稽古を付けてやる――と言いたいところだったんだが…。おい新、そいつは誰だ?」


後半の声音は急に低く、ドスの利いた声に変わる。珍しく真剣な親父に俺は少したじろぐ。


「そ、そいつって誰のことだよ?今日は悠斗も東も連れてきてないぞ」

「…俺の攻撃に対処はできたからお前の腕が鈍ってるわけでもさそうだしなあ…。おい新、『静心』使ってみろ」


「はあ?なんで今?」

「いいから言うとおりにしてみろ」


親父の有無を言わさぬ言いように俺は仕方なく目を瞑り集中する。


立花流、静心。


自らが受けている形なき刺激に意識を向け、自分になんらかの意識を向けている相手の気配を掴む探知技だ。中学の時はこの技のおかげで不利な喧嘩は大体回避することが出来た。今回の場合はこれで相手に悟らせることなく相手の大体の位置を掴むことが目的だった。


しかし、周りには俺に意識を向けている相手はやはり親父以外見つからなかった。

俺は閉じていた目を開き首を振る。


「親父以外誰もいねえよ。なんなんだよさっきから」

親父はため息をつく。

「はあ…。お前には分からなかったか…。稽古不足だなお前も」


そのやれやれ、というジェスチャーは流石に癇に障る。俺は少し声を荒げて真意を問う。


「さっきからなんなんだよ親父。いい加減俺にも分かるように説明――」

台詞は最後まで続けられなかった。親父が静かにつぶやく。


「――領域」


突如、親父から圧倒的闘気が放たれ、俺の体が途端何倍にも重くなったように感じられる。


(……ッ!?)

途方もない濃度の闘気がプレッシャーとなり周囲を囲む。その中にある生物すべては身動きを止められ、あるいは制限される。


立花流、領域。静心の派生系の技で、俺が習得出来ない技の一つ。

親父の圧倒的なプレッシャーを領域すべての範囲にあて動きを阻害、または完全に制圧する、らしい。


あまりにも人間離れした達人技で、もちろん俺はできないから実のところ本当のところはよくわかっていない。


『領域』内では俺もかなり動きが鈍くなる。それは突如水中に入れられたようなものだ。体が緩慢にしか動かせない。


「やっぱりな。上手く気配は消してたから、気配で辿る『静心』には引っかからなかったのか。だが範囲内にあるものを把握できる『領域』ならいくら気配を消しても分かる。――おい、いるのはわかってんだぜ。こそこそ隠れてないで出てきな!」


親父は独り言のようにつぶやくと、『領域』を解いて家の塀の奥へ向かいそう怒鳴った。そこまで来て、ようやく俺にも合点がいった。

「親父、もしかして俺…」

「ああ、尾けられてたんだよ。お前のすぐ後ろをずっとな」


親父が家の門を睨んでいると、やがて――蓬莱学園に身を包んだ長髪の少女が現れた。


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