表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

1章 3 生徒会との対面

生徒会室と呼ばれる部屋は三階にあった。

生徒会室の前まで来た悠斗は一旦足を止め制服のネクタイを締めなおす。いつの間にか寝癖も直っており、その姿には朝のだるそうにしていた悠斗は全く見られなかった。


「いいか。何度も言うがあくまで今回は話し合いでの解決が目的だからな。相手がどんな態度でも冷静に対応しろよ」

「くどいって悠斗。僕なら大丈夫だよ」

「修平。俺はほんとにお前が不安なんだよ…」


「木田君。もしも東君が喋るようだったら、偶然手持ちにスタンガンがあるからそれで静かにさせるよ。だから木田君は生徒会との話し合いに集中して」

「おい矢部!お前なにさらっと怖いこと言ってんの!?僕にはみんな容赦なさすぎだろ!」

「・・・分かった。矢部、お前を信じる。行くぞ」


東はなおも抗議するが、さっそく矢部がスタンガンで黙らせる。ほんとにやるんだな・・・。

しかしそのおかげで静かにはなったので、悠斗はドアに向かい合いノックをした。


中からどうぞ、と落ち着いた声がかかる。

「失礼します」

悠斗はドアを開けて中に入る。俺たちもそれに続く。


生徒会室は俺たちの教室の半分くらいの大きさで、中央に長テーブルと椅子が置かれ、そこに役員と思われる四人の女子が座っていた。

その女子たちの姿をみて俺たちは一瞬言葉を失った。

生徒会の女子一同は、ありえないような美少女がそろっていた。


「あら、今日から蓬莱高校に通われている男子生徒のみなさんではありませんか。どうかしましたか?」

一番奥の中央に座っていた上品そうな女性が人当たりのよさそうな笑みを浮かべる。


いかにもお姉さんという感じの彼女は、女子というよりは女性と呼んだほうが正しいのではないか、と感じるような大人びた印象を受ける。それはおそらく、彼女がモデルのような外見だから、というのもあるだろうが、有名学校の生徒会を務めるうえで身についた風格がそうさせている面が強いのだろう。


そんな彼女に、悠斗はこちらも負けない堂々とした態度でしゃべり始める。

「俺は二年五組の木田悠斗。クラス代表をやっている。今日は話があって来た。あんたが生徒会長さんか?」

「ええ。わたくしがこの蓬莱高校の生徒会長を務めております工藤玲花と言います。よろしくお願いしますね、木田さん?」

そういって工藤会長が笑顔を向ける。すると隣の矢部は顔を真っ赤にした。


無理もない。あんな美人に笑顔を見てしまえば俺だってキョドって言葉を繋げられなくなるだろうし、面と向かって笑顔を向けられた悠斗にはそれ以上の破壊力があったはずだ。


しかし悠斗は眉一つ動かさず話を続ける。やっぱ精神力つえーなあ。

「ああ。これからよろしく。それで早速話なんだが、単刀直入に聞いて、これは何のマネだ?」

そういって悠斗は前に出てテーブルに例のプリントを突きつける。


「ああ、これですか。このたびはわたくしたちの為に本当にありがとうございます」

「違う。そもそも俺たちはこんな内容の案件を言った覚えはない」

「いえ、私はみなさんからちゃんと聞きましたよ。俺たちにやらせてくれ、と」

「さっきクラスで確認を取ったがそんな奴はうちのクラスにはいなかった。あんたたちの間違いだ」


ここで今まで黙っていた生徒会のブロンド髪の女子が我慢ならないというように立ち上がった。


「ちょっとあんた!あたし達の言う事が信じられないっていうの!?」


勝ち気な目が印象的で、肩甲骨の位置までかかるブロンド髪が存在感を際立たせていた。

「あの髪・・・」

俺がそっと疑問をつぶやくと、隣にやってきた矢部が小声で説明してくれる。


「生徒会書記の天童寺神奈さんだよ。生徒会の中では唯一の一年生でスポーツ万能、学業優秀、おまけに器量よしの三拍子揃ったすごい人らしいよ」

「ああ、あれが天童寺財閥のお嬢様か」

天童寺財閥は日本で有数の大企業で、主に電子機器類を扱っている。そこのお嬢様がこの学校に通っているのは割と有名な話だったが、まさか生徒会に入っているとは思わなかった。


その当の本人である天童寺は、腰に片手を当て、もう片方の手でびしっと悠斗を指さす。

「言っとくけどね。この学校は普通の学校と違って生徒会には教師以上の大きな権限が与えられているの。まあこの学校に通ってるのは名家のお嬢様ばかりだし当然よね。そんな超有名校がアンタ等みたいなゴロツキばかりの学校とお情けで併合してあげるって言ってるのよ?あたし達の下僕になるくらいが当然でしょっ!」


その高圧的な態度にそういえば天童寺のお嬢様は特に男嫌いでも有名だったなーと思い出す。

今の物言いにカチンときたのか東が一歩前に出る。


「あぁん!?お前さっきから聞いてりゃ偉そうに――あばばばばばば」

「東くんうるさいよ」


いつの間にか矢部が東にスタンガンを押し当てていた。矢部、GJ。

気を取り直すように悠斗は鋭い眼光で天童寺をにらむ。


「それは俺たちがあのプリントの内容を要望してないことを認めるってことか?」

天童寺はひるむことなく答える。


「ふん、言っとくけどあんたのポケットにボイスレコーダーが入ってるってことはわかってるのよ。言質取ろうたってそうは行かないわ。まあ仮に有力ななものを録音できても私たちにはそれすらも握りつぶせるほどの権力を持っているけど」


その言葉に驚いて俺たちは悠斗を見る。

悠斗は小さく舌打ちをするとポケットからボイスレコーダーを取り出すと、電源を切った。


天童寺の話によると、つまり悠斗はこの生徒会との話し合いの中で相手がボロを出すようなことを言えば、それを録音して証拠にしようとしていたという事か。俺たちはこの短時間でそこまで準備をした悠斗の用意周到さに驚くのと同時にそれを当たり前のように見抜いた天童寺の観察眼に舌を巻いた。


悠斗はため息をつく。

「つまりこういう事か?併合とは名ばかりでその実俺たちは女子の犬になれと」

「理解が早いわね。つまりそういうことよ」

勝ち誇る天童寺。だがそんな彼女に悠斗は毅然として答える。


「―――断る。確かにうちの学校は維持費が足りなくなり困っていたところをアンタたちの学校が併合案を出してくれた。そのおかげでうちの生徒はほかの学校にバラバラになることもなくなって感謝している。だが、だからと言って俺たちはアンタ等の犬に成り下がるつもりはない。あくまで対等な関係の上での併合だ。そのうえで俺たちは決してあのプリントの案は呑めない!」


悠斗は胸を張ってそう言い切った。その頼もしい後ろ姿に俺たちのリーダーはこいつなんだと再認識させられる。


その迫力に天童寺も思わずうぐっと口ごもる。

そこで今まで黙っていた会長がしゃべり始める。


「一つ勘違いをしているようですね」

「なに?」


俺たちは会長に目を向ける。その顔にはさきほどの友好的な印象は一切見受けられなくなっていた。


「あなたは要件を呑めないと言いましたが違います。これは交渉ではありません。私たちの一方的な命令なのです。それほどに身分に差があるのですよ、私たちは」


最早友好的な態度を消した会長はそこで一旦間を置く。

「とはいっても、私たちがどれほどの権限を持っているか口頭の説明だけではいまいちピンと来ないでしょうから例を出してみましょうか。皐月さん」

「ん」


会長がそう言うと、皐月と呼ばれたボブカットの小柄な女子が眠そうな返事をし、手元にあったパソコンに何かを打ち込み始める。


「あの子は会計の藤原皐月。情報戦のエキスパートでその界隈じゃ有名な人だよ・・・」

矢部が聞いてもいないのに説明を始める。こいつ便利だなー。


「・・・できた。はい」

ほんの数秒で藤原はキーボードを打つ手を止め、パソコンをこちらに向けてくる。


その画面に映っている資料を見て、俺たちは目を見開いた。

画面には東の一年生時の内申書がアップされていた。


「こ、これって僕の成績じゃん!こんなのも見れんのかよ!?」

東が叫ぶが、俺たちも驚いていて東を黙らせるようなことはしない。


会長は東の問いに冷たい笑みを浮かべて答える。

「私たちの権限についてわかりやすく例を出してみただけです。ちなみに他にも皆さん全員の分がちゃんとありますよ?」


「でもその中でもこの人、ダントツで馬鹿・・・」

「んだとコラァー!!お前かわいいからってあんま調子のんじゃ―――ばばばばばば」

藤原に食ってかかる東を今度はキチンと黙らせる矢部。心なしか、先ほどより手際が良くなってるような…。


「それにしても、さすがにこれは生徒が入手できるような資料のレベルじゃないよ・・・」


「もちろんこれだけではありません。重要な資料の閲覧の他にも時間割の変更や修学旅行先の決定権、また階数は限られますが生徒会の一存で臨時休校などもすることが可能です」


「おいおい…。無茶苦茶すぎるだろ…」

俺は思わずひとりごちる。


実際俺たちの母校、いや全国の学校を見渡してもこれだけ生徒会が権利を持っているところはここだけではないだろうか。少なくとも俺は知らない。

そこでふと視線を感じその方向を見ると、藤原の一つ奥にいる未だ一言もしゃべっていないウルフヘアの女子と目が合う。


ほどよく肉がついた健康的な体だが、そこに無駄な脂肪はほとんどない。一目でかなりの身体能力を有していることがわかる体つきだ。


その彼女は狼のような鋭い目つきで、値踏みするかのように俺をじっと見つめていた。


そんな中、天童寺の勢いづいたような声が聞こえて視線を戻す。

「どう?わかったでしょ。私たち生徒会はアンタたちが歯向かっていいような相手じゃないの。理解したならさっさと自分たちの教室へ戻って旧校舎へ移る準備でもしなさい!」


くそ、と俺は歯噛みする。実際今の俺程度じゃなんの対応策も浮かばない。

でも悠斗なら。あいつならなにか策があるはずだ、と期待を込めて俺たちは悠斗を見る。

悠斗はしばらく微動だにせず何事かを考えていたが、やがてゆっくりと口を開く。


「わかった。今日はここで退こう」

「「悠斗!?」」


悠斗なら徹底抗戦してくれると考えていたため俺たちは驚きの声を上げる。

しかし悠斗はだが、とすぐさま言葉を繋げる。


「勘違いするなよ。俺たちは諦めたわけじゃない。絶対にアンタ等の野望を潰せるような策を持ってまた戻ってくる。それまでせいぜい絶対的強者を気取ってるんだな」

悠斗はそう言い捨てるとすぐさま回れ右して生徒会室を後にする。


「あ!お、おい悠斗!」

それを矢部と東は慌てて追いかけていく。

俺も悠斗達を追って生徒会室を後にした。




男子がいなくなった生徒会室で天王寺神奈はこらえていた怒りをついに爆発させた。


「む、ムカつくうう!何なのあの態度!男子のくせに偉そうにいぃ!」

「まあまあ神奈。落ち着いて?」


壁をゲシゲシ蹴り始めた神奈を玲花がなだめる。敬愛する玲花に言われてしぶしぶ神奈は席に戻る。


「でも会長ぉ。会長はあいつらにあんな態度取られて悔しくないんですか~?」

「もちろん悔しいわ。でも編入初日じゃ自分たちの境遇を理解しきれないのもしょうがないでしょ?」


まあ、と玲花は続ける。

「このツケは後々しっかりと払ってもらうけどね」


そう言って笑みを深くする玲花の迫力に神奈は思わず息をのむ。玲花と知り合ってから一ヶ月程度経ったが、彼女の優しい面と時折見せる冷酷な面とのギャップに、神奈はまだ慣れることができていなかった。


さて、と言ってみんなに振り返った時には玲花の顔はいつもの優しい笑顔だった。

「それで、夏帆としては男子を見てどうだった?」


玲花の視線の先には、男子がいる時には一言もしゃべらず腕を組んでいたウルフヘアの女子がいた。


朝井夏帆。健康的な美しさを持つ生徒会の荒事担当の生徒だ。

夏帆は呼ばれると、玲花の方を向いて答えた。


「あれが『三匹の狂犬』か…。皐月が事前に調べていた情報通り中々骨のありそうなやつらだな。これは一筋縄では御しきれないぞ、玲花?」

「もう、大変だって分かってるのに嬉しそうね、夏帆」

「それはもちろん。蓬莱学園は優等生ばかりで平和すぎる。少しくらいはねっ返りがある奴がいなきゃ私の出番がないからな」

「相変わらず血の気が多いわね。生徒をまとめる人の台詞じゃないわ、今の」


そういいながらもどこか余裕のある態度で返す玲花。二人は一年生の時から生徒会に所属しており、他の役員とは一線を画して深い信頼関係にあった。

神奈はそんな二人に憧憬の念を送るが、今の会話におずおずと質問する。


「あの、朝井先輩はあいつらのどこを見てその感想に至ったんですか?確かに木田という男の弁論はなかなかのものでしたが、先輩の出番になるような荒事は起きないように思うのですが・・・」


そう、男子を忌み嫌う神奈でも木田の交渉術についてだけは一定の評価をしていた。

現実問題、今の生徒会と男子側では権力という点で圧倒的に有利である生徒会に軍配が上がる。これ自体は学校のシステムという根本的な問題であるためちょっとやそっとでは覆らない。あんな男子生徒数人では話のもならないし、五組の男子全員の意見として出してもまず通らないだろう。このシステムを打破するには入念な下準備とそのための膨大な時間を必要とする。


夏帆は簡単なことだ、と前置きを入れると語りだす。

「この学園の生徒会への権力集中型システムの変革はなかなかに難しい。やるとすれば時間もかかる。なにより奴らには時間がない。そんな交渉の場にもつけない状況で奴らが打てる手は一つだけだろう」


そこまで言われて神奈もやっとその答えにたどり着く。

「正攻法ではなく、邪道の方法、つまりは荒事もありうるということですね」

「そういうことよ」

夏帆の代わりに玲花がうなずき、皐月に指示を送る。


「これからはできる限り男子には監視をつけます。皐月、夏帆と協力して監視役に必要な子を何人か選抜しておいて。諜報能力もだけど、それと同じくらい荒事にも対応できる人をお願い」

すると皐月は少し誇らしげに言う。


「そういうと思って、もう朝井先輩と適任の人を一人選出してる」

「え、本当?流石、頼りになるわ」

玲花が褒めると皐月は偉そうに胸を張る。「それほどでも、ある」


「でも、一人って言ったわよね?それは流石に少なすぎじゃないかしら」

眉を顰めた玲花だったが、夏帆の次の一言に目を見開いた。


「私たちが選出したのは坂本楓だ」

「ッ!あの『静寂なる刈り手サイレント・リーパー』の坂本さんを!?それなら納得したけどあの娘をよく説得できたわね・・・」


教室の空気が変わるのを敏感に察しながらも、神奈は一人だけ状況が呑み込めずにいた。


「あの、その人はすごい人なんですか?」

その質問には皐月が答えた。


「坂本楓。二年生。風紀委員に属していないながらも、よくうちの学園の生徒が絡まれた時にはどこからともなく現れて相手を撃退する事で有名。あまりにも音もなく現れて相手の意識をすぐさま奪っていくことから付いた二つ名が『静寂なる刈り手』」


「す、すごそうだけど二つ名って・・・」

あきれ笑いを浮かべる神奈に玲花も苦笑で同意を示す。


「どこから来るかわからないんだけど気づけば付いてるのよねえ、二つ名。誰が考えてるのかしら」

ともかく、と夏帆が締める。


「木田たちの監視に関しては既に坂本が任に就いているから心配ない。もうすぐ男子の作戦が報告に上がるだろうさ。…さて、お前は坂本の隠蔽に気づくかな、『中二病』」


そうして夏帆は手元のPCを見ながら獰猛に笑った。

そこには、先ほど生徒会室(ここ)にいた立花の顔が映っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ