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1章 1 登校初日

 ゴールデンウィークが終わった翌日、俺たちは編入蓬莱学園へと続く坂道を登っていた。


「いやあ、連休が終わった次の日ってどうしてこんなだるいんだろうねえ」

隣を歩いていた東がおもむろにぼやいた。

俺は東にジト目を向ける。


「お前は連休明けだろうがなかろうが毎日だるそうにしてるだろ」

「いや、そうだけどさあ」

東は渋面をつくる。

「さすがにゴールデンウィーク明けともなるといつもの五割増しでだるいんだよ」


「その割に今日は時間通りに登校するんだな」

東は遅刻常習犯なのだ。

「てっきりお前のことだから『初日から遅刻する俺、かっけー』とか考えてると思ったぞ」


「まあ僕もそれは少し考えたけどさ」

「少し考えたのかよ」

「でもさすがに学校の雰囲気も分からないうちからそれはフレーバーな選択じゃないと思ってね。今回はやめといたよ」

「珍しく正しい判断だな。あと、フレーバーじゃなくてクレバーな」


俺のツッコミを東は気にする様子もなく、俺たちと同じように登校していく生徒を眺めた。そして目を細めてつぶやく。「それにしても本当に女子ばっかりだねえ」


見渡せば、周りを歩く生徒はすべて女子。目に見える範囲には俺たち以外に男子生徒はいなかった。事前に説明は受けていたが改めてこう見るとやはり驚く。

「まあ男子は俺たちのクラスだけしかいないから三十人。対して女子は一学年に四十人のクラスが四つあるから全校生徒合わせると四百八十人いるからなあ」


「ん?」

そこで東は疑問の声を上げる。

「そう考えると、なんで僕達のクラスって他のクラスと比べて十人少ないの?確かに僕達の前いた学校は三十人制の学校だったけど、併合したら蓬莱高校のほうに合わせて一クラス四十人になるんだから普通僕達もそっちに合わせるでしょ」

「なんでも当初は蓬莱高校からテストクラスに入る子を募集したらしいんだが、めちゃめちゃ不人気で誰も立候補しなかったらしい」

「マジかよ・・・。人気なさすぎでしょ僕達・・・」

東は苦笑いを浮かべる。


「一応募集はずっとかけるらしいが途中から立候補がいきなり出るとは思えんからなあ」

「なんだよー。そしたら結局女子校きてもクラスは前と同じなのかよー」

東は分かりやすくがっかりする。が、すぐに元気を取り戻す。


「まあでも、こんなに女子がいれば違うクラスでも一人くらいは僕の魅力に気づいちゃう女子が出ちゃうかもしれないよね。いやー参っちゃうなあ。僕だけ先に彼女できても恨まないでよね立花!」

「お前はいつもポジティブだなー」


そんな話しているうちに校門をくぐる。校舎の大きさと立派さに俺たちが閉口したのは言うまでもない。学校内に入り、教室へ向かう俺と東。教室は学年ごとに階数が決まっており、一年生が三階、二年生が二階、三年生が一階となっているらしい。教室は階段に近い教室から一組、二組と連なっており、俺たちテストクラスは新設された五組という扱いになるため階段から一番遠くに位置していた。そのため五組の教室に行くためには必然的に一組から四組の教室の前を横切らなければならないようだ。


俺たちが二階に上がると、教室前の渡り廊下には何人かの女子が談笑していた。

その光景を見て東は口笛を吹く。

「ヒュー。やっぱり有名なお嬢様校だけあってどこぞの令嬢って感じの子が多いねえ」

「確かに俺たちみたいなやつらとは気品みたいなものが違うな」

東に同意しつつ廊下を通り抜けようとする。


すると突然今までおしゃべりしていた女子が一斉に黙り込み、廊下がしいんと静まり返った。


あまりの急な変化に俺と東は一瞬足を止めかける。そこにさっきとは一転したひそひそ話する女子の声が聞こえてくる。

「みて、また男子が来たよ。ほんとここの廊下通るのやめてくれないかな」

「ほんとー。あんなのが廊下通るとか何されるかわかったもんじゃなくて落ち着いて話も出来ないよ…」


その内容は俺たち…というか男子を忌避、軽蔑する内容がほとんど。俺と東はついに足を止め顔を見合わせる。


「なんだよこれ…、立花、これ一体なんなんだよ」

「噂には聞いてたけど、ここの女子の男嫌いは想像以上みたいだな」

「…僕、いわれのない悪口とか大嫌いなんだよね…」

「わかってる。俺もそうだ。けど初日に女子相手に暴れるのはまずいだろう。ここでやらかしたら延出高校全体の沽券にかかわる」


元々俺も東も優等生の部類ではない。中学のときには俺と東ともう一人、木田悠斗とでかなりやんちゃしていた。だが俺たちももう高校生。そういうものからはいい加減足を洗った。


俺たちは先ほどより速足で再び教室へ歩き出す。女子の話し声はまだ聞こえる。

「ねえよく見たらあの二人って中学の頃見たことあるよ。確かここらへんで有名な不良だった…」

「ああ、それなら私も知ってる。『三匹の狂犬』でしょ?え、もしかしてあの人達が…」

「嘘!ちょっとあり得ない!そんな人たちとこれから一緒に過ごさなきゃいけないの!?」


(また古い事をよく知ってるなあ)

俺たちが通っていた中学は地元でも有名な不良校で日々喧嘩が絶えなかった。絡まれない日の方が少ないような毎日で俺たちはカツアゲや喧嘩を吹っ掛けてくる奴らを片っ端から返り討ちにしていった。今思えば余計目をつけられるだけなのだが、当時はそれでみんなビビッて襲ってこないだろうと真剣に思っていたのだ。結局喧嘩は中学卒業まで絶えず行われ、残ったのは異常な喧嘩慣れとこの不名誉な通り名だけだ。


以前速足で歩くが階段から五組の教室までの距離は想像以上に長く、歩いている間ずっと女子の声が受聞こえ続けるのはこっちのメンタルをものすごい勢いでゴリゴリ削っていった。

そしてやっとのことで五組の教室へ着くと足早く教室の中へ入った。


中には俺たちと同じくテストクラスとして編入した前の学校の五組の風景が変わらず広がっていて俺と東は知らず安堵の息を漏らす。

ドアに一番近い席に座っていたクラスメイトの大岡が声をかけてくる。


「おお、立花と東じゃねえか。相変わらず遅刻五分前登校かよ」

「そんなに早く来ても別にすることもないだろ。それより、あの廊下なんなんだよ。ものすごい誹謗中傷の嵐だったんだけど」

それを聞いて大岡だけではなく話を聞いていた他の奴らも顔をしかめる。


「まあお前たちは色々あったし大変だったろうな。まあ俺らも他人じゃあないけど」

「その言い方からして他にも同じようになったやつがいるの?」

「ああ。俺たち全員来るときはそんな感じだった」

「「ぜ、全員!?」」


大岡の答えに俺と東は同時に声を上げる。

全員ということはつまりあの針のむしろみたいな廊下をクラスのやつら全員がくぐり抜けてきたのか。一気にクラスメイトへの親近感が倍増する。

一通り大岡と話したところで、とりあえず入口近くで立ち話を続けるのも邪魔になると思い、とりあえず俺は席に座ろうと黒板に書かれている座席表を確認する。


自分の席に座り、鞄を机の横についているフックにかけると、その右の空いた席に東も座る。こいつ、また俺の隣かよ…。

その時教室の引き戸がガラガラ開き、俺たちのクラスの最後の一人が入ってくる。


入ってきたのはクラス委員長であり実質的な俺たちのリーダーである木田悠斗だった。

悠斗は寝坊したらしく後ろ髪は少しはねており、眠そうにあくびをかみ殺していた。


大岡が俺たちが入ってきたときのように悠斗に挨拶する。

「よう悠斗。こんなぎりぎりに登校なんて寝坊か?ずいぶん眠そうだけど」

「ああ、昨日古本屋で買った漫画のシリーズが予想以上に面白くてな。ついつい徹夜で読破しちまった。ふあぁ・・・」

我慢できずにあくびをしてしまう悠斗に、大岡は苦笑いを浮かべつつ廊下の様子を聞いてみた。

すると悠斗はああ、と合点がいったようにうなずいた。


「廊下の様子が何か変だと思ったけど俺の寝ぼけすぎかと思ってたわ。やっぱりあれは気のせいじゃないか」

「あれを気のせいとか思えるお前も流石だな・・・」


納得したようにうなずく悠斗に今度は俺が話しかけた。

「ああ、新か。おはよう」

悠斗は唯一俺の事を名前で呼ぶ友達だ。


「おはよう、って言ったそばから寝るのかよ」

窓側の自分の席に座った悠斗はさっそく机に突っ伏して寝る態勢に入る。


「だから今日は徹夜して眠いんだって。先生来るまででいいから少し寝かせてくれよ」

「お前、廊下であんなことあったのに、相変わらず図太いな」

「ここは元々女子校なんだから最初のうちはあんなもんだろ。それよりほんとに少し寝かせてくれ」


そういうと数秒もせずして悠斗は寝息を立て始める。そうとう眠かったんだな。

俺は悠斗と話すのをあきらめて自分の席に戻る。東は俺の右隣の席だったらしく、早速俺に馬鹿話を始める。

俺はそれに適当に相槌をうちつつ左側にある窓から外を眺める。


相変わらずの晴れ間で外は明るかったが、遠くからは大きなどんよりとした雲が近づいてきていた。

その雲は俺の不安を表しているようで少し、不気味だった。


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