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cioce shake -クロックシェイク-  作者: 清木
上位争奪試験編
3/16

泉条涼也

 

 

 目を開けると水気を含んだように黒ずんだ、木製の天井が見えた。次いで、その中央でぐるぐると不愛想に回り続ける羽根つきの灯り。

 視線を横へそらせば、朝日を中継する窓ガラスが見える。段々と様々な情報が脳内を駆け巡る。


「夢か……」


 随分と古い記憶が引っ張り出されてきたものだと、少年は自嘲しながら堅いベッドから身を起こす。

 狭い部屋の中、洗面所へと向かい、コップに突っ込まれた歯ブラシを口にくわえてから、木の匂いに鼻をひくつかせていた。


「やっぱり、まだ慣れないな」


 少年は目の前の大きな鏡を覗く。栗色の髪は今日も外にハネているし、赤い瞳もいつも通り気だるそうだ。

 彼の名は泉条涼也せんじょうすずや。この、狭い部屋に住み始めてから一か月が経った。

 歯を磨き終えると、乱雑に顔を洗い、濡れた顔もそのままに黒い制服を羽織った。ワイシャツを着たまま寝るスタイルは朝の準備時間を短縮するのだ。

 さていくか、と部屋の扉を開ける。


「おっはよー!」

「おう、おはよ」


 部屋を出て早々に、何者からか挨拶が飛んできた。かなりの声量で鼓膜に大ダメージを負いそうなものだが、突発的なその声より先に耳を塞いでいる辺り、毎朝のことなのだろう。

 涼也を待ち伏せていた者の名はレナン=スティグナー。周りからはレナと呼ばれている女子だ。長い金髪に青い双眸、気さくな性格で男女から共にそこそこの人気を誇っている。


「またワイシャツ着たまま寝てたでしょ? しわしわじゃん!」

「睡眠時間を三十秒ほど引き延ばす為の些細な犠牲だ。やむを得ないだろ」


 呆れるような話だが、生憎レナンはバカである。


「うぅん、これは意見が割れそう。三十秒じゃなくて一分だったら私もシャツ着て寝るんだけどなー」

「一分てお前、それは幾らなんでも話しが良すぎるだろ」


 などとくだらない会話の中、不意に発砲音が鳴り響いた。一つでなく、三発、四発と、朝からけたたましい音が耳に触る。

 だが、これは事件などではなく、日常であった。


「やってるねー。発砲訓練」

「ああ、俺らも早く魔導軍に入らねえとな」


 道の途中、備えられた運動場で、銃を構えている集団が見える。見渡せば、そこら中に区切られた運動場が存在する。

 運動場と言うよりは訓練場であり、涼也たちはとある学園で、とある軍への入隊を目標としているのであった。


「資格試験いつだっけ?」

「最速で二か月後だな」


 魔導式軍隊。齢十五から取得できる「魔導士」の資格があれば入隊可能。彼らの通う学園は魔導軍本部直轄の、言わば魔導軍へ入隊するための学園である。

 故に魔導士の資格を取ることは卒業までの絶対条件だ。


「今日も頑張るか」

「無難にほどほどに怪我しない程度に頑張ろー!」

「そんな心構えだから、クラスでも最低ランクの成績なんだよ」

「座学じゃ上の方だしー! 寧ろそれに関しちゃ涼也のが心配だしー!」

「ぐ……言ってはならんことを」


 互いに目から火花を飛ばしてる風ににらみ合っていると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。直後、涼也はレナンに足払いをかましてから地面を強く蹴った。

 地面に倒れ伏したレナンをそのままに、涼也はすさまじい速度で走り去っていった。


「やっべぇ! 遅刻する!」


 全速力で駆けながら、鐘の音を数える。五秒間隔で一つ鐘が鳴る。八回鳴れば、始業開始。


(あと六回……間に合うか!?)


 魔法が日常となってからは、やはり肉体を強化する魔法も存在し、つまり今、涼也は自動車より速く走っている。

 前を見れば既に校舎が見える。見えてから次の鐘が鳴った頃に、校門を走り抜けていた。


(あと三回!)


 学校指定の革靴は走りづらいため、昇降口に入る手前で、自分のクラスの窓に向けて放り投げた。「いてぇ!」という声が聞こえた気がするが涼也は気にしなかった。

 階段を跳躍で軽々と越えて、また越えて、残す鐘が二回になった時には彼の教室がある三階の廊下に到着していた。


「よし! いけた!」


 最後の鐘が鳴る直前で、教室に足を踏み入れ、素早く着席。涼也の席は窓際の一番後ろという学生の大好きな席であった。

 最後の鐘が鳴り終わり、同時に教官が現れる。なんとか遅刻を免れた涼也は息を整えながら窓の外を見た。

 先ほどまで一緒に登校していた金髪の少女が泣きながら校庭を走っている姿を見て、少なからず罪悪感を感じた。

 そして、これから彼女に起こることを想像して、同情するしかなかった。


 



   

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