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さみしさの贅沢

作者: かげる
掲載日:2015/08/17

生まれた時からずっと孤独だった。

それが生きるということだからだ。

それが悪いことだとは思わない。


なぜみんなはそんなに群れたがるのだろう?

誰かと一緒にいたがるのだろう?

そういつも不思議でしかたなかった。


高校に通っていた頃、僕は一部の人達にあだ名をつけられた。


「ココリコ、目ぇ大丈夫か?」


ココリコ。それが僕のあだ名だった。『ココリコ』という芸名の著名人に顔がそっくりだという理由でそう呼ばれている。最近、テレビ放送でよく見かける。本名のフルネームはたしか、ココリコ•アレクサンドロスとかだったと思う。外国人でほりが深い顔立ち。僕は日本人だからそんな風なあだ名をつけられると外国の人に申し訳ないけれどなんだか嫌だ。


「大丈夫、だと思う」


僕は片手で目をこすりながら、友人Aに返事をした。教室の片隅でステルス性の気を発していたのに、友人Aに気づかれた。長時間、気を発しすぎて僕は疲労していたのだろう。邪気眼すらも半開きになっている。今の僕はきっと死んだ魚のような目をしていたに違いない。(第三の目が半開きだと、ステルス性が弱まる)


僕は掃除道具入れのロッカーの引き戸に背中を持たれかけたまま、おでこに手をかぶせる。


「たいぶ…力を使いすぎたか…」


「おい、なにが『だいぶ…力を使いすぎたか…』だ中二病。そっちじゃなくて、その下の両目! すっげー目が淀んでる」


目が…淀んでる? 淀んでるって、よどむってなんだよ。僕は中二病じゃなくてただ、力を使い過ぎたから疲れているだけだ。


「…と思う」


小さな声でつぶやいたが、その言葉は誰の耳にも届いていなかった。結局、友人Aは素っ気ない態度の僕に飽きてどこかへ行った。





ああ、これが、孤独だよな。


僕はこの時なんだか『さみしさ』を感じた。しゃべりかけた相手に安心感を求めていたからかもしれない。独りぼっちな僕に友人Aがせっかく話しかけてきたのに結局、上手く意思の疎通ができなくて離れていってしまった。


きっと、期待しすぎたのだろう。期待するから傷つく。それなら、なんにも期待しないほうがマシだ。友人にも自分自身にも。


こうして、休憩時間は収束した。

授業の時間なので机と椅子の間に僕は挟まれた。


なんでもない日常。僕は目を閉じて、耳を澄ます。するとこの部屋にある鼓動がザワザワとうごめいているような音が聴こえた。今は活発なその動きも、あと数十年したら弱り果てていずれは止まる。


教室には先ほどまであった雑音はなくなり、チョークのする音や、シャープペンシルの芯が文字を紡ぎ出す音が聴こえる。僕はちゃんとその音に溶け込めているだろうか。ふと、そんな不安を心に感じる。僕はちゃんと人間らしくできているだろうか。


授業が終わり、休憩時間になった。


自分以外のみんなが孤独によるさみしさを嫌い、人に近づきコロニーを形成するのを眺める時間。僕は、自分がとても哀れな人間のように思えてしまう。あんな風に人と繋がれている安心を僕はいままでに感じることが少なかった。家にいる時以外は、誰かに見られているんじゃないかと酷く緊張し、平然でいられなくなる。なんで、こんなに孤独は心細いのだろう。

無駄に目を疲れさせるだけの休み時間。

いっそのこと、掃除道具入れのロッカーの中に入ってしまいたくなる。周りが繋がれているのを見て、辛くなるのは嫌だ。この緊張の糸を緩めるためには視界を塞ぐしかない。誰も見えない世界に逃げ出したい。


僕は感情の高揚によって、大きく跳ね上がった波を抑えられなかった。


席を立ち、僕は椅子を両手で持ち上げる。

邪気眼を持たぬものには…この苦しみの心中を理解でるはずがない。

椅子は頭上。腕から黒煙が噴き出し椅子を禍々しい暗黒色に変えていく。両腕を垂直に上げていたからだろう。なんぜだかあの名セリフを叫びたくなった。


「みんな! オラに元気をわけてくれ!」


周りの友人達の視線が痛々しかった。まるで僕は腫れものみたいじゃないか。いつまでもそうやって見ているがいい。僕は、僕の孤独をみんなに知ってほしかった。ただ、受け入れてほしかっただけなんだ。なのに上手くいかない。教室には、もういたくない。目がショボショボしてきた。


もう、おしまいにしよう。

僕は椅子を思いっきり、投げた。


ガラス窓が割れる音がした。教室には悲鳴が聞こえる。案外、僕の行為に対して関心をもって反応してくれた人がいたことは意外だった。どうせ、すぐ忘れちゃうんでしょうけどね。


「お、おい! なにして⁉」


担任の教師が現場に駆けつけてきた。

僕は割れたガラスから外に出ようとした。

外にベランダは無い。三階から飛び降りようと思ったのだ。だけど、それを友人Jに止められた。腕を掴まれたのだ。


僕は暴走したゴリラかなにかだろうか。

みんなは畏怖の表情のまま、視線をゴリラに向けている。捕らえられた僕は「うほ、うほ」と言いながら抵抗した。でも僕の細い腕ではどうも、振り払えそうにない。


観念して僕は怒られることにした。


「なぜ、こんなことをしたのかなあ?」


狭い一室。僕は担任のβ先生と二人きりになった。容姿端麗で可愛らしいあのβ先生と二人きりだなんて、ドキドキしちゃうぜ。冗談だけど。


さあ、僕はなぜここにいるのでしょう。


「聞いてる? 黙っていちゃなにもわからないでしょ」


β先生が僕に問いただしている。なんと言えばよいのかわからない。なので思ったことを素直に話すことにした。


「話したって、あまりわかりません」


すると、相手はすこし眉間にしわを寄せて困った顔をした。


下校時間になったので、僕は帰った。


ガラガラと玄関の引き戸を開けて、自宅に戻る。いつも通りの「おかえり」がなんだか、温かみを感じて聞こえた。このとき張っていた心の糸が緩み、目元が熱くなる。


この感覚は、安心。

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