三ヶ森 綾子、6歳です。
三ヶ森綾子は現在危機的状況にあります。
モブなので、何も気にしていなかった、しかし私も名のある家の令嬢…そりゃ危険な目にも会うでしょう!!!
「申し訳ありませんねぇ、私も大金出されちゃ断れませんですよ、へへへ。」
私を小脇にかかえて路地裏へと入っていく。
口は塞がれ腕も縛られ何も出来ない。
それは最近うちに入った使用人だった。
これからはもっとしっかりしよう。
使用人をポンポン採用するの辞めよう、私が三ヶ森家に改革をもたらす。
しかしその前にこの状況を打破しなければ。
絶対、緋堂に帰ったら怒られる。
あれだけ注意されていたのに庭の奥の方に1人で行った私がやはり悪い、怒られても仕方が無い。
結構時間経ったからな…緋堂も少しは異変に気付いてくれるはず。
私が前世を思い出してから1年が経とうとしている。
前世を思い出したのは5歳と言っても大体5歳と10ヶ月頃、6歳と言っても過言ではない。
緋堂が来たのは思い出してから半年ほど後のことつまり、現在緋堂は私の執事を半年やっている。
毎日一緒にいるのだ、何も気づかないことは無いだろうしそろそろ私のことをわかり始めているはず。
どこまでも迷惑をかけてるなぁ。
「誘拐されたのに少しも喚かないしこの落ち着きよう…ホントに6歳なのか?」
いいえ、精神年齢は26歳ですが、何か。
別にこの落ち着きは何故か私が生き残れることに自信があるからだ。どこから出るのかな、この自信。
冷静にこの状況を打破しよう。
まず口が塞がれているので叫べない、手が縛られてるので殴れない剣も握れない。
あと残ってる場所と言えば…。
「ごふっ!」
男はうめき声を出して倒れる。
その衝撃で私は地面に転がった。
受け身の体制をとっていたので全くの無傷だ。
なにが起きたかというと、私が少し身体を捻じって男の背骨に膝蹴りを入れたのだ。
「この、ガキィ…。」
男がぎりっと私を睨む。
私は腕を前に縛られていたため、腕をほどかなくとも口のテープを剥がすことが出来た。
「ガキでも剣士の血を継いでいるのよ、三ヶ森もなめられたものね。」
私は這いつくばっている男を上から見下ろす。
「まあ差し詰め、誘拐して来いと言われただけでしょう?三ヶ森も名のある家、敵は多いし狙われることもあるわ。」
それにしても取れないわね、この腕の縄。
私はガジガジと縄を噛んだり引っ張ったりして緩めようと奮闘するが中々ほどけない。
「黙って聞いてりゃ見下しやがってぇええ!」
男は懐からナイフを出して、私に向かってくる。
「あら、好都合。」
私は、回し蹴りで男の手を蹴るとナイフが中を舞う。
私はそれをジャンプして取り、素早く手を縛る縄を切った。
そして、私が今度は男にナイフを構える。
男はひぃっと悲鳴をあげた。
「みみみ、見逃して下さいいい!」
「三ヶ森の令嬢をさらっておいて見逃してなんて、むしが良すぎると思いません?」
私はざっと男に詰め寄り、男の頭にガッと蹴りを入れる。すると、男は壁に激突しドサリと倒れた。
白目を向いて気絶していた、なんて弱いのだろう。
そもそも、6歳の餓鬼に見逃してくれだなんて情けないにも程がある。
「綾子お嬢様!どこにいらっしゃるのですかっ!?」
遠くから緋堂の声がする。
「ここよー!」
その声を頼りに緋堂が私の居場所を見つけて姿を現す。
「お嬢様、これは…。」
緋堂は男を一瞥して、少し困惑する。
「こいつが私を攫ったのよ。でも、返り討ちにしてやったわ。」
私が強気で言うと、緋堂はどんどん顔を顰めていく。
あぁ、きっと怒られてしまうんだわ。
先に謝れば許してくれるかしら?
「あ、えっと、勝手にフラフラしてしまったのは申し訳ないと思っ「良かった。」て」
私があたふたしながら謝っている途中に、緋堂は私のことをぎゅっと抱きしめる。
「無事で良かったです、本当に死んでしまったらどうしようかと…。」
「ご、めんなさい。」
緋堂は、少し離れて私と同じ高さまで姿勢を低くする。
「もう勝手に何処かへ行かないで下さい。今回は小物で良かったですが、本物の暗殺者だったらどうするのです?6歳の少女が太刀打ちできるわけないじゃないですか。」
緋堂がとても厳しい口調で私に怒る。
確かに私は運が良かったのかもしれない。
私はこくりと一つ頷いた。
「わかったら帰りましょう、今日は一段と美味しいものを料理長が作ってくれていますよ。」
緋堂がニコリと私に笑いかける。
その後、男について一本電話を入れてから手を繋いで私たちは家に帰った。
「それにしても、ホントにお嬢様は6歳とは思えませんね。」
その言葉に一瞬ドキリとしてしまった。
時間が経つに連れ慣れたのか緋堂のことを呼び捨てにする綾子であった。