合同演習会での出会い 後編
千里と雨香くんの戦いは壮絶だった。
本当に13歳なのだろうか、と疑うほど…使う魔法や剣技もハイレベルで動きも早い。
だけれど…それが当時の仁科にすら叶うかと言われると疑問があった。そう考えて、改めてまだ彼らは子どもなのだと思い起こされる。
「千里はね、遊水の家系では随一の実力者だって期待されてるんだ。」
望愛がニコニコしながら言う。
仲良くない、と言いつつも彼のことを好意的には捉えているのだろうか。
「だから凄くプレッシャーで、期待を裏切らないように努力してるんだよ。」
やはり、ライバルキャラとして健在なのでは?と思ったがその後笑みが少し苛立ちを含み始めたことに気がつく。
「でも自分の実力を鼻にかけて、のあのこと見下してくるから凄く嫌なんだ〜。今も剣士科の人が打ち負かしてくれれば良いのにって思ってるよ。」
あぁ、やはり千里ルートのライバルキャラが消失している。天真爛漫…ではあるが、かなり闇深い。
こういった場合、新たなライバルキャラクターが現れるのだろうか。
円香にとっての私のように…。
そこまで考えてから、その不吉な考え方を頭から振り払った。私はまだ悪役令嬢と決まったわけではない。だが、円香にその役目を負われることもしたくない。
どうにか、誰も傷つかない世界を創り上げたい。
ヒロインと誰かが勝手に恋に落ちて勝手にハッピーエンドを迎えてくれれば良いのに。
「そこまで!!」
蒼梧先生の声が響いた。
雨香くんの剣が千里の首筋に突きつけられている。
雨香くんの勝利か!?と喜びの声が上がりそうになったが、後ろに氷の槍が浮かんでいて今にも雨香くんを貫きそうになっていた。
つまり、引き分けだ。
隣では望愛が「な〜んだ。」とつまらなそうに一言呟いた。
千里と雨香くんが離れる。
千里は悔しそうな表情を浮かべていた。
「本日の合同演習会はここまでとする。定期的に合同演習会を行うので、今日よりも更に強くなっているように切磋琢磨すること、以上!」
授業が終わったことで、張り詰めた空気が再び和やかなものとなる。
「綾子ちゃんとまた一緒に練習したいな〜!」
望愛が「ね?良いでしょ?」と私の手を取って同意を求めてくるが、完全なる圧力でしかない。
うん、と言わざるを得ない。
「そうね、良かったら友達と放課後練習しているから来て頂戴。」
「わー!やったー!行く行く!」
望愛がぴょんぴょんと跳ねながら全身で喜びを表現する。そんなに喜んでくれるなら、了承した甲斐があるというものだ。
「確かに、魔法科の人が1人いればかなり練習の質は上がるかもね。」
こちらに近づきながら声をかけてきたのはイルマくんだった。その隣には雫と雨香くんもいる。
「盗み聞きは良くないなぁ。」
「大きな声だから自然と聞こえてきただけだよ。」
からかうように言うと、イルマくんは相変わらず笑顔を貼り付けたまま私の挑発を受け流す。
ぴょんぴょんと跳ねていた望愛は、雨香くんを見て「あっ!」と声を上げた。
「千里と引き分けって凄いねー!今度は勝ってね!応援してるー!」
望愛の声援が雨香くんにとってはかなり謎だったようで、首を捻りながら「ありが、とう?」と疑問系でお礼を返していた。
確かに、普通ならば望愛が応援すべきは同じ科である千里の方だ。
私は再び闇深さを感じられずにはいられなかった。
それから雨香くんが近くを通る千里に気がついて、そちらに近づいていく。
「…今日はありがとう。また手合わせ願うよ。」
雨香くんが手を差し出すと、千里はそれを一瞥してからパンと振り払った。
それを見た私たちはギョッとしてしまう。
「僕は他人と馴れ合うつもりはない。」
千里はそれだけ言うとスタスタと歩いて行ってしまった。
雨香くんは行き場のなくなった手をグッと握りしめてこちらへ戻ってきた。
「…あんなに苛立ったのは久しぶりだよ。」
こんなにも表情に感情が出る雨香くんを初めて見たような気がする。チッと舌打ちさえしていた。
「雨香、次は絶対勝つんだぞ」
雫が雨香の両肩に手を置いて、至極真面目な顔をして言う。それに対して雨香くんも力強く頷いていた。
「ホント、あーゆーことしてるから友達出来ないんだよ。」
望愛が腕を組みながら頬を膨らませる。
それから「あ、忘れてた!」と手を叩いて、はいはーい!と私たちに向かって片手を上にあげて呼びかけた。
「そいえば自己紹介まだだった!魔法科1年Aクラスの東雲 望愛!のあのことは、のあって呼んでね!のあは千里と違って社交的だから、みんなと一緒に練習するぞ〜、おー!」
元気いっぱいに自己紹介をしたあとに、拳を上に突き上げて溢れるやる気を見せつけられる。
確かに社交的ではあるが…果たしてそれを社交的と呼んで良いものなのか、私は少し戸惑うのだった。
千里は仲間にはならずでした!
個人的に望愛なキャラ好きなんですが、まあおそらく好き嫌いは分かれますよね。
毎日更新で1人でも多くこの作品を楽しみにしてくださる方がいれば嬉しいです。
引き続き、出来る限りは頑張ります!
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