合同演習会での出会い 前編
朝のホームルームの時間に一枚の紙が配られた。
「合同…演習会?」
書いてある文字を読み上げて、それから「んん?」と首を捻った。
「突然のことで悪いが、明日に合同演習会を開くことになった。まあ、その紙は一応のお知らせだ、読まなくても良い。」
読まなくても良いんかいっ!
蒼梧先生の言葉に、私は心の中で独りごつ。
それから紙を机の上にひらりと置いて目を通さずにいた。
どうせ、先生が説明してくれるもの。
「今回、魔法科との合同演習会が決定した。剣士科Aクラスは魔法科Aクラスと取り行う。」
だけれど、どうして急に合同演習会なんて開くのだろう。
そう思っているのはきっと私だけではなくて、周りのみんなも不思議そうな顔をしている。
蒼梧先生はクラスを見回してから「はぁ。」と1つため息をついた。
「何故、合同演習会を開くのか…その意味を考えることが大切だ。君たちは今まで、剣士同士でしか実践演習をしていない。しかし、外に出たらどうだろうか?攻撃の手段は剣だけではない。だから、君たちは剣以外の攻撃手段を持つ者と実践を積むことも大切なんだ。」
先生はひとしきり語った後に腕を組んで「やっぱり難しかったかな?」と首を傾けた。
確かにポカンとしている生徒もいるが、先生の言っている意味を理解できた生徒も中にはいる。
実際、私は先生の言うことが十分に理解できた。
それは、2年前の仁科 実里との一件があったからのように思える。
私は机の上に置いた紙をもう一度手にして"合同演習会"という文字をジッと見つめた。
胸躍る感覚、今から明日が楽しみになる。
私は無意識に笑みを作っていた。
「魔法科ってさ、一時ではあるけどあの仁科に教わっていたわけでしょ?事情をしってるあたしとしては、何だかかなり複雑な気分だな…。」
演習会が行われる鍛錬場へ向かう道中、雫が浮かない顔で言った。
仁科について学園側は公表していないため、生徒たちは単純に仁科が死亡したと思っているわけだ。
だが、私たちは仁科についての真実を知っている。
…その真実は誰にも言ってはいけない。
「確かに複雑ではあるけど…一旦それは忘れよ!鬱々とした気分で対峙したら魔法科に失礼でしょ?」
イルマくんの明るい声かけに、雫は「…うん、そうだね。」と無理矢理にも口角を引き上げた。
「初等部では魔法科との関わりは少しもなかったから、どんな人たちなのか楽しみなんだよね〜!」
イルマくんはスキップをしながら私たちの前を進んでいく。見るからにわくわくしているのが感じられる。
私たち剣士科Aクラスと対峙するのは魔法科Aクラス。
つまり、魔法科の中でも特に優秀な生徒が集まっているわけだ。
おそらく、その中には攻略対象である遊水 千里もいることだろう。
鍛錬場に着くなり、蒼梧先生と魔法科の先生で2人組のペアを組んでいた。
特に心の準備も出来ず、私は自身のペアの生徒と引き合わされた。
「わ〜っ!あなたがペアなのね、初めまして!」
対面直後から伝わる底抜けのない明るさ。
表情もパッと輝いていて眩しさすら感じる。
肩まである薄桃色のふわふわな髪の毛。
ぱちっとした目に可愛らしい顔立ち。
…なんだか、どこかで見たような?
「初めまして、剣士科1年Aクラスの三ヶ森 綾子です。」
「綾子ちゃんか〜!よろしくよろしく〜!」
目の前の女生徒は、私の手を握ってぶんぶんと振った。腕が千切れてしまうわ。
「魔法科1年Aクラス、東雲 望愛だよ〜!」
し、東雲…望愛!?
ライバルキャラだあああああ!!!
まさか、こんなところで出会ってしまうだなんて。
いや、落ち着け、落ち着くのよ綾子。
交流を持ったところで私の悪役ポジションへの道が確実になるわけでもなければ、何か不利になる状況に陥るわけでもない。
だから、今はとにかく冷静さを保つのよ!
「ぼーっとしてどしたの?大丈夫??」
望愛が心配そうに私の顔を覗き込む。
私は「大丈夫よ。」と笑みを張り付けた。
東雲 望愛は一見悪役にはならなそうな性格だ。
実際に、遊水 千里か土乃憂のルートに入らなければ彼女はヒロインの友人として物語は進んでいく。
しかし、天真爛漫・猪突猛進な性格が彼女をライバルキャラときて促進しているのだ。
思い込んだら突き進む…千里や土乃憂を取り返すために見境なくヒロインを攻撃する。
…そう考えてみたら、確かにライバルキャラとして確立しているな。
「では、剣士科と魔法科の合同演習会を始める。」
蒼梧先生が全員に聞こえるように声を張り上げた。
みんな先ほどまで和やかに話していたが、授業が始まるとぴりっとした空気が漂った。
まずは、少しの座学と基本的な動きを学ぶ。
そんなに難しいことではなく殆どの生徒たちは難なくこなしていたが、私のペアの望愛は苦戦していた。
本当にAクラスなのだろうか?
思えば、ゲームの中で望愛の実力に対してあまり語られたことはなかった。
今度はペアとの軽い実践が行われた。
さて、実践での望愛の動きはどうだろうか?
わくわくしながら剣を握り懐に飛び込んでいく。
振るう剣は全て防御魔法によって防がれてしまう。
だが、望愛は一度も攻撃をしては来なかった。
遊ばれているのか?苛立ちが留められない。
私は剣を下ろして「馬鹿にしているの?」と望愛に問いかけた。すると、彼女はとても慌てて「ち、違うよ!」と声を上げた。
「の、のあは、攻撃魔法がちっとも出来ないんだ…。」
望愛が顔を俯かせてしょんぼりとする。
とても申し訳ない、そんな感情が前面に出ていた。
「サポート魔法と地属性の魔法は大得意!!だけど…サポート魔法は3年にならないと習わないし、サポート専門クラスも高等部からじゃないと無いんだ…。」
得意、と胸を一度張ってからまたすぐに気を沈める。
何だか忙しい人だ。
「ごめんね?のあが相手じゃ楽しくないよね。」
このままだとせっかくの演習会が望愛にとって嫌な思い出になってしまう。
私はグッと剣を握ってから首を横に振った。
「逆に言えば、その鉄壁の防御魔法が崩せれば凄いってことよね?」
私がニッと笑いながらいうと、望愛は再びパーっ!と明るい表情を取り戻して「うんうん!」と首を何度も縦に振った。
犬みたい、可愛いなぁ。
結果として、望愛の防御を打ち破ることが出来なかった。かなり強力なサポート魔法…いや、地属性の魔法か。おそらく、土乃憂の力を借りているのだろう。
「へっへーん!望愛の勝ちだー!」
望愛は「やったー!」とぴょんぴょん飛び跳ねている。
…かなり悔しいぞ。
しかし、もしも相対する敵が望愛と同じタイプだった場合、今のままでは攻撃を与えることすらできないというわけだ。
自分の力不足を感じる、まだまだ鍛錬を積まなければならない。
はぁ、とため息をついたところでドン!という音が聞こえた。音の方向を見ると、そこにいたのは千里と雨香くんだった。
どうやら千里の魔法と雨香くんの剣技が衝突したらしい。
「わ〜、派手にやってるなぁ。あれね、のあの婚約者なんだ〜。」
望愛が千里を指差して包み隠さず笑顔で伝えてくる。
えぇ、存じておりますとも。
「でも、あんまり仲良くない。」
あははっと笑いながら言う言葉に、私は「え!?」と驚いてしまう。
それは…ライバルキャラとして成り立つのだろうか。
「良い機会かもしれないな。現時点で魔法科で成績が1番良い遊水と剣士科で成績が1番良い雨香…2人の実演を見ることも大切な勉強になるはずだ。」
他の生徒が蒼梧先生の言葉を聞いていたが、当の2人は少しも聞いていないようにジッと睨み合っていた。
後に魔法科と剣士科ではそれぞれ2人の様子を見て"無口でクール…キャラが被っている"と面白がられていたことを本人たちは知らないのだった。
今のところいいペースで書けています。
いつまた亀更新に戻ってしまうかわからないので、今のうちに書けるだけ書きます!




