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日常の中の非日常 中編


「うー…ん、わからない。」


私たちは現在、昼休み中に図書館で調べものをしている。

結局、釘を刺されようがなんだろうが調べることはやめない。


こっちだって気になるものは気になるのだ。


しかしいくら調べてもわからない、いやそもそもこの図書館が広すぎる。

本がありすぎてわからない!情報も少ないから的を絞ることも出来ない。


「せやから、本で調べるなんて無駄やって()うたのに。」


弥助が、つんっと口を尖らせて言う。

本というモノが得意でないらしい彼は最初から図書館で調べることに反対だった。


「書物を侮っちゃいけないよ、あたしはこういう作業嫌いじゃないけどね。」


雫が真剣に本を読みながら弥助の意見に反論する。

この空間には弥助以外に本を調べることに反対な人はいなかった。


それゆえに、弥助には分が悪い。

とは言っても少しも進展していないことに変わりはなかった。


そんなときに、がらりと図書室の扉は開く。

その扉を開いたのは、エミリーちゃんだった。

一瞥してから、何食わぬ顔で本棚に姿を消していく。


「待って!」


自然と体が動いた。

彼女なら何か知っている…そんな気がしたから。


私はエミリーちゃんの肩をぐっと掴む。


「エミリーちゃん、何か知ってるんだよね?知ってるなら教えて!」

「ちょっと、急にどうしたの?」


急な私の行動にイルマくんが戸惑いつつ声を上げる。

ただ私の脳裏にニヤリと笑ったエミリーちゃんの表情が浮かんだだけだった。


ただそれだけのことなのに、何かが私を動かした。

直感…なのかもしれない。


無表情でじっと私を見つめていたエミリーちゃんは、私の手を払い本棚へと向かった。


「私の国では有名な話。」


そうして一冊の本を持ってくる。

その本は魔物についての本だった。


「ジュ(獣)族が進化した高位の魔物・・・それがシュギュ(珠獣)族。より強いモノの魂を喰らう魔物。シュギュ族は人間に化ける、そうして人間を喰らって人間のように暮らす。」


エミリーちゃんは、パタリと本を閉じた。


「それだけ…悪いことは言わない、もう関わらないのが身のため。」


そう一言だけ言い残して、本を私に押し付けて再び本棚の奥へと消えていった。

とりあえず、私たちはこのことを八花さんに知らせなければならないと使命感を持って彼女の元へ向かった。




八花さんのもとへ向かった私たちだが、そこはまるでお通夜のように暗かった。


「あの…八花さん?」


私が声をかけると、八花さんはとても悲しそうな表情から少しだけ微笑を浮かべてこちらを向いた。


「やあ…。」


そう言った彼女は明らかに辛そうだった。


「何か…あったんですか?」

「きっと放課後、休校の指示が出されるはずさ。」


まるで私の質問の答えになっていなかった。


「私たち、わかったことがあるんです。」

「もうこの件には関わるな。」


キッと八花さんは私たちを睨み付ける。

その鋭い眼光に私はびくりと身体を震わせた。


「出ていけ」とドスの効いた声で言われ、私たちはその場を後にする。


八花さんの言う通り、私たちは明日からの休校を言い渡された。

そうしてそれと同時に「虧月楼」の一人が新たに犠牲になったことも告げられる。


これで4人目…犠牲者は増えていく一方だった。


「明日からしばらく会えないかもしれないし、稽古して行こうよ。」


イルマくんの提案に、私達はそれは良いと了承して練習場へ向かった。

最近は事件調べをしていて満足に剣を振っていなかったので、久々の稽古に私は胸を躍らせる。


「はっ!!」

「まだまだっ!」


練習場へ行くと稽古をしている声が聞こえる。先約が居たようだった。


練習場に入り、先にいた人たちを確認すると、それは海ちゃんと梓さんだった。


その側の木陰になっているテーブルでは、円香と真斗が教科書を広げて教え合いながら勉強を進めている。


円香が一番早く私達に気づき手を振った。


「あれ、みんなも練習?」


海ちゃんが私達に尋ねてくるので、コクリと頷く。


「梓さんまで剣の稽古なんて、熱心ですね。」

「俺もまだまだ未熟だからな、天龍寺の跡継ぎが剣も出来ずどうする。」


梓さんは、あれからも良くうちに来てお兄様に指南して貰っている。

たまに私も手合わせをするが、その剣術はメキメキと上達している。まあ、毎日毎日剣を振るっている剣士科の人と比べるといけないが。


「海里さん、ぜひボクと手合わせしてくれませんか。」

「ずるいっ!あたしもお願いします!」

「せや、抜け駆けはズルいで、わしともお願いします。」

「おれもお願いします!」


矢継ぎ早に言われて、海ちゃんは困ったような顔をする。


「わかったわかった、順番に雨香くんから。」


ここにいる人達で会うのはこれが初めてでは無い。

うちに呼んだり、こうして放課後にこの練習場所で会ったり…中々の頻度であってたりする。


ちらりと円香たちの方を見ると、真斗がガリガリと何かを書いていた。

それは、高等部で学ぶような内容のものだった。


「やっぱり真斗は天才だよね。」


そういうと、真斗はバッと顔をあげて勢いよくぶんぶんっと首を横に振る。


「ぼぼ、僕が天才だなんてっ、そそ、そんな、おこがましい!!!」


ちなみに真斗はまるで変わっていない。

初対面のあのまま、不良とかかけ離れすぎ感は未だに顕在だわ、


「今日はなにしてるの?」


私が問いかけると、真斗は「えっと…」と説明に入る。


「魔法原理を科学に応用出来ないかと調べているんだ。僕みたいに魔法を使えなくても科学のチカラで使える様に出来ないかなって。魔道具ってあるでしょ?それを応用して…。」


一旦スイッチが入ると止まらない。

そんな時は聞き流せば良い。

真斗は本当に天才なのだ、既にいくつかの発明をしていて科学研究者の端くれだ。

こんなのゲームには描かれてなかったけど…裏設定とかなのかな?


「おい、綾子。」


梓さんが私に声をかけてくる。


「俺と稽古をしてはくれないか?」

「はい、私で良ければお願いします。」


私はニコリと微笑んで剣を手にする、もちろん練習用のものだ。梓さんともこうして良く手合わせをする。


梓さんは本当に変わったと思う。

他人を見下すことをしなくなったし、むしろ思いやれるようになった。やはり、伸びた鼻を折ったことが何よりの効果だったようだ、流石お兄様!


しかし、絶対もう攻略とか無理だろうなぁ…ごめんなさい未来のヒロインさん。


「それでは行くぞ。」

「はいっ!」


梓さんが、ぐっと近づいて来て剣を振る。

まだまだ剣筋は荒い部分がある。

それでは隙を作ってしまうというものだ。


「まだまだ荒いです、よっ!」


私は、その隙を見てグッと突きを入れる。

梓さんはそれをヒラリとかわして追撃をしてくる。


それを私は全て受け止めて、剣をギンッと弾いた。


「終わりですっ!」


喉元に向けて一気に剣を突くが、梓さんはそれをザッと後ろにバク転で回避する。


「ふっ、まだだっ!」


瞬時にぐっと詰め寄ってきて、ザッと斬りつけてくる。私はそれをギリギリのところで横に回避した。


「梓さん、また強くなりました?」

「いつの日か、綾子にリベンジするために日々鍛錬を積んでいるのだ。」


ふっと梓さんは艶やかに笑う。

あのときの餓鬼感がまるで嘘のようだわ、おっと失礼。


そうしてまた、詰め寄ってきて素早く剣を振ってくる。


「でも、まだまだですよっ!」


私は無詠唱で『神道綾瀬流 俊絢爛(しゅんけんらん)』を発動し、素早さを2倍上げる身体強化の魔法をかけて瞬時に梓さんの背後へ移動し、首筋に剣添える。


「私の勝ちです、梓さん。」

「また負けてしまったか…それにしても奥義を出すのはズルくないか?」


私は剣を下げると、梓さんはこちらを向いて困ったようた顔をして告げた。


「全然ズルくないです、奥義も防げずどうしますか?」

「…参ったな。」


梓さんは、自身の力不足に少し肩を落として頭をガシガシとかいた。


「また新しく無詠唱が出来るようになったのだな。」

「最近、無詠唱で出来る奥義が増えたんです!それに、もう少しで新しい奥義が完成しそうで。」


奥義は元々ある流派を人に教えて貰うことも当然多いのだが、自身で新たな奥義を考えることも良くある話で。

私は、最近初めて自分で考え始めたところだったりする。


「完成したら、俺に見せるのだぞ。」


私は梓さんの言葉にコクリと頷いてから、ヘラリと笑った。


「暗くなってきたから、そろそろ帰ろう。」


そう海ちゃんがみんなに声をかけて、みんなは帰る支度を始める。

帰る頃には、既に辺りはかなり暗くなっていた。


何だか、周辺には不穏な空気が漂っていた。


「それにしても、この事件の犯人は誰なんだろう。」


真斗が不意にそれを言葉にする。

私たちはシュギュ族ではないか、という仮説を立てるところまで辿り着けた。

ただそれが人に化けているとしたら、またそれはそれで犯人探しは困難を極める。それから、本当にシュギュ族だという根拠探しも。


ただ、どうも引っかかるのだ。

1人だけ異様に少なかった血の痕。


「…誰かいる。」


そんな考えを巡らせているときに、海ちゃんが神妙な顔つきで呟いた。

その言葉に一同が歩みを止める。


「だ、誰かって、誰なの!?」


円香が顔に恐怖の色を浮かべる。

この中でそういうものに耐性が無いのは円香と真斗だ。


真斗も顔を真っ青にしているが、円香の肩を引き寄せて怖いなりにも守ろうとしているのが見えた。


「まあ、考えられるのは一つだよね。」


イルマくんが、練習用ではない剣に手をかけた。口元はニヤリと笑っているが、顔には焦りの表情が見える。


微かな気配が瞬時に私たちの真上に移動する。


「みんなっ!上だっ!」


海ちゃんの声にみんなが上を向く。

氷の槍がバババババッと降りそそいだ。


無詠唱、やはり相当手練れな魔術師か。


私たちはバッとそれを避ける。

円香と真斗の元に降り注いだ槍は、弥助とイルマくんと雫が一斉に奥義を発動して退けた。


前方にフードをかぶった人が立っている。


その人物はニタリと笑って再び攻撃をしてくる。炎、水、雷、氷…あらゆる属性を弾のようにして打ち込んでくる。


それに対して、海ちゃんの『三ヶ森流 八の舞 暴風剣』と私の『神道綾瀬流 舞姫』と雨香くんの『華京吹雪(かけいふぶき)流 いの型 紫陽花』の奥義を駆使してそれを全て防ぐ。


海ちゃんは暴風剣によりぶんっと剣を一振りすることで生まれる竜巻を生み出して攻撃を防いだ。

私は、舞姫によって踊るようにいくつもの弾を切り落としていく。

雨香くんは、刀をいくつもの出現させそれを何度も一気に打ち込んでいた。


全てを打ち落としたあとに、私はフードの人に一言告げる。


「フードを取ってもいいんですよ、先生(・・)


すると先ほどまでの笑みを消して、フードに手をかけてそれをバッと取った。


「!?」


みんなは驚いた顔をする。


「どうして…だって、貴方は…死んだはずでは!?」


誰が発した言葉なのだろうか、しかしその言葉に対して口の端を吊り上げる彼は確かに生きているのだ。


「どうして俺だとわかった、三ヶ森 綾子。」


私だけをじっと見つめて彼はそう問いかけてくる。


「簡単なことです、貴方が甘かったんですよ…仁科 実里先生。」


この事件の犯人は、3人目の被害者であった仁科 実里である。

彼はこの学園に務めて5年目であり、28歳と若いながらにその実力を買われて魔法科では2番目に権限を持つ先生であった。


きっと彼はこの学園に来た頃からシュギュ族であったのだろう…人間として慣れた生活をしていたところからみると、人間として生きているのはそこそこ長そうだ。


「ふっ、まさかこんな子供に見破られてしまうとは、どこで気づいた?」

「貴方は魔法科で1番実力のある先生、それならば簡単にやられるわけがない。だというのに争った形跡も無く、ましてや他の人より血のあとが少ない。最初は連れ去られたのかもしれないと思ったの…でも、その血は自分で作り出したものだったら…自演だとすれば納得がいく。」


仁科先生は、パチパチと拍手をする。


「まあ、犯人だと決めつける根拠に完璧とは言い難いが合格点はやろう。」


確かにどこかの探偵を気取ろうと思ったら無理があるのは間違いない。ほぼほぼ直感で、こうして実際に先生が現れなければ答えには辿り着けなかった。


辺りが静まり返り、聞こえるのは先生の拍手の音だけ。しかし、それも止まり静寂だけが残る。


「決めた、あんたを喰らうよ。」


仁科先生はニヤリと笑って私を指差した。


ながぁぁぁあい!笑

前・後編で終わらせるはずが・・・。

もう少しお付き合い下さい。


ちなみに八花さんは篤也さんの一個下になります、うわおまだ高校生!

しかし実力は天災級です、ただ学校に通っていないので学は無いです。

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