執事と出会う
「来年から通う学校よ、楽しみね〜。」
比較的に温和でのんびりとした母である三ヶ森 雛子が私の手をきゅっと握る。
ここ鳳来学園が物語の舞台である。
そして私は来年からここの学校に通うことになる。
モブはモブらしく目立たずひっそりと生きたいところなのだけど、まあ一つ上の従兄弟がアレだしなぁ。中々に多い頻度で会うので仲は良いし、学校で疎遠になることはないだろうな。
とりあえず上手く友達を作って楽しい学園生活を送り第二の人生を謳歌しよう。
学園入学回避とか別にしませんよ、だってモブだもん。ヒロインポジ狙いでもないですよ?だってめんどくさいもん。
そして学校を一目見てから家に帰った時、見知らぬ少年が経っていた、見ためからして中学生か高校生かそのくらい。
「今日からこの人を綾子の執事として雇うことになった。」
父の三ヶ森 重之が私にいつもの如く柔らかく笑いながら言う。
「初めまして、綾子お嬢様。本日よりお嬢様の執事を務めさせて頂きます、緋堂 朝日と申します。どうぞ、よろしくお願い致します。」
緋堂さんが私に深々と頭を下げながら言う。
私は急なことにすこし混乱しながら
「えっと、三ヶ森 綾子です。こちらこそよろしくお願いします。」
と私も頭を下げた。
「これはご丁寧にありがとうございます。」
緋堂さんは頭をあげニコリと笑った。
自室に戻り、ベットにゴロンと横になる。
「お嬢様、折角のお洋服がシワになってしまいます、ベットに横になるのでしたらお洋服をお着替えください。」
そう言って緋堂さんが私に服を差し出す。
それを私が受け取ると緋堂さんはくるりと後ろを向いてドアに向かった。
「着替えが終わりましたらお呼びください。」
そう言って彼は部屋を出る。
いやぁ、よく出来た執事だなぁ。
しかしここまで世話をされると何かひっかかる。
まあ前世はド庶民なので未だに慣れていなかったのに更に重なると…。
「着替え終わりました。」
そう私が言うと彼はガチャリと扉を開けて入ってくる。そして私の脱いだものを畳み始めた。
以降、沈黙が続く。
中々に気まずい。辛い、会話が欲しい。
そもそも、これから一緒にいるなら彼について知るのも良いかもしれない、試しに会話をしてみよう。
「緋堂さん。」
「はい、何でしょうか。」
緋堂さんがこちらを向いて首を傾げる。
そういえば、ちゃんと顔見たの初めてかもしれない。
緋堂さんの顔は中々に整っている。
美形素晴らしいなぁ…目の保養ってやつよね。
「緋堂さんとお話しようかなぁ、と思って…。」
私がそういうと緋堂さんは、なるほどと言うようにコクコクと頷く。
「何をお話しましょうかね?」
「えっと、緋堂さんのこと知りたいなぁって。」
緋堂さんはうーんと悩む。
「私のこと、ですか。」
「歳とか!今までどんな家に仕えてた、とか!」
「歳は15です。今までは色んな屋敷を渡り歩いていました、こうして誰か1人にお仕えするのはお嬢様が初めてですね。」
緋堂さんは、少しだけ不安そうな顔をする。
「心配しないで!私、自分のことは自分で出来るもの!迷惑かけないようにするわ!」
「うーん、それはそれで私の仕事が無くなってしまうのですけどね。」
緋堂さんが苦笑いで私に返答する。
確かに私が何かをするといつもメイドさんやら何やら多くの人に怒られる。
なぜだ、良いではないか。
「何かあったらいつでも私にお申し付け下さい、お嬢様のことは私がしっかりと守らせて頂きます。」
緋堂さんがニコリと笑う。
なんとも頼もしい執事だろうか。10歳くらい離れているけどなんだか優しい兄が出来たような気になる。
精神年齢的には私の方が上だけど何だか嬉しい。
緋堂 朝日、彼が私の人生において大きな影響を及ぼすことをこの時の私は知る由もない。
ハイスペックイケメン執事の登場。