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ACT1.残像

三部作の一作目です。三回で終了します。

一瞬。

されど一瞬。

秘められた悲しみと苦しみが、わたしの意識をかすめるとき、それはわたしの記憶に楔となって打ち込まれていく。


「誰なんやそれは?ごっつう可愛い子やんか」

私のスケッチブックを覗き込みながら、加奈子が顔を顰める。

「通りすがりに見た子」

「男だっつーても、あんたの趣味ちゃうな。」

私は苦笑いしてスケッチを閉じた。


べつに彼氏にしたくて描いたわけじゃない。脳裏に焼き付いて離れない残像を移動するかのように描いたまでのこと。だいち、気に入ったところでどうにもならない。


「そいつをどこで見たんや?」

「三池」

「警察に通報せんでええのん?」

「なんていうのよ?『あそこに人が沈んでます。ええ見たんです。幽霊を・・・』って?」

「そうや」


わたしは、真顔でいう加奈子にがっくりと肩を落した。

加奈子という女には常識は通用しないとわかっていたが。

ふと、加奈子のスケッチが目に留まり、わたしは思わず目をそらした。

そこには、わたしが喉から手が出るほど欲している輝きがあった。

それに気付く自分に苛立ち、無言で画材をしまうと教室を出た。


加奈子はすでに次の美術展の為の作品に取りかかっている。高校2年の時初めて出した美術展で入選した加奈子は、大学2年の今、すでに画家としての名声を巷にまで響かせていた。


同じように入選したものの、たいした評価ももらえなかったわたしとは雲泥の差がある。

誰でも精進すればある程度の技術は取得できる。しかし、輝きは天賦の才のもたらすものだ。


それは、人の心に深く楔を打ち込むように残る“輝き”なのである。

「卒業したら画家になるの?」

そんな、久しぶりに届いた友人の、メールへの返信をまだだしていない。 どこかで諦らめきれない自分がいるのだ。


「そのスケッチ、よう見せてくれへん?」


気が付くと傍らに加奈子が立っていた。

「どっかで見たような気がするんや」スケッチを渡すと加奈子がそういった。


微かな輝きが瞳に宿る。

「探したりしないで」


わたしは釘をさした。

しかし加奈子は譲らなかった。


「あんたは手ぇ引いたんやろ?これはすでにうちのもんや。良心の呵責もみんな、うちが引き受けてやるから」


わたしは開いた口がふさがらなかった。

加奈子は何をする気なのだろうか?

足早に去っていく後ろ姿を、わたしはただ不安なまま見送った。


つづく



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