第七話 主人公 藤峰公太郎
ついに 世界物語論肯定派も最終回です。
ここまで、お付き合いいただきありがとうございました。
第七話 主人公 藤峰公太郎
「橘さん、ちょっといい?」
「なにかしら」
相変わらず、無愛想な声だな。まぁ、感情が消されているもんだから当たり前だけど。
「これ」
「……」
俺はポケットから便箋を取り出した。
そう、俺が用意したのは作戦というのは手紙だった。
ラブレターっぽく渡せば多少なりとも、何かしらの反応があるかと思ったものがだが、有里の反応は相変わらず、無反応、無表情だった。
「……」
「え、えっと。家でよんでほしいかな」
演技だよ? 別に、こんなモブキャラみたいなことして恥ずかしいわけじゃないからね?
「わかりましたわ」
「よ、よろしく」
さて、ここからが、勝負だな。
有里の部屋。
かわいらしい模様とは裏腹に有里の表は無表情。
部屋について学校の宿題を済ませたのに、カバンに入れた公太郎にもらった手紙を開けた。
『現実に絶望してんじゃねぇよバーカ』
大きな文字でそう書かれていた。
その手紙を見た瞬間に、有里はその手紙を破っていた。
なんでその手紙を破っているのか理由は自分でも分かっていなかった。
「おい」
「なんだい」
「そちらの情報に、有里の行動の情報が入ってないか?」
「どういうことだい?」
「今日、有里に手紙を渡した」
「へぇ。なんでまた」
おい。
「とりあえず、行動してみた的な?」
「ふぅむ。とりあえず、検索してみるよ」
「頼む」
「……」
さて、これでどうですか
「あぁ、手紙捨ててるね」
どうやってこれ、知れてるのかね。盗撮でもしてるの?
だが、捨てたか。よし。これで、次のフェイズにいくことができる。
誰にも聞かれないように、作戦を実行しないとなぁと思っていたら、思いのほか早く、その機会が訪れた。
場所としては、例の自動販売機。
まともに話したときと同じようにカフェオレを自動販売機から取り出しているところに遭遇した。
感情をなくしても、好きなものが変わらないんだな。
それを確認すると、なんというか。
人間ってそんなに単純じゃないなって思う。
と、同時に、俺は感情を失って変わらないことがあるだろうか? とも思う。
なんにしても、有里というキャラクター性に『カフェオレ好き』というものがあるんだろう。
公式ファンブックとかあれば、好きなもの『カフェオレ』って書かれるんだ。かわいいヒロインじゃないか。
ちなみに俺の好きなものはない!
水曜日
有里がバイトの休憩に入った時点で俺は舞さんや雄太さんの目を盗んで、休憩室に向かった。
F&Cの休憩室はちゃんと休憩室として一部屋与えられている。
そこへは割と出入り自由で常連客でしかない俺でも普通に入ることができる。
その部屋にはジュースの種類が少ない水の入ったペットボトルがいくつか置かれてある。
その水は自由に飲んでいいらしい。ちなみに、俺も真人から「ん〜 別に飲んでいいよ?」と許可をもらっている。
「よっ」
「…………」
相変わらず反応はない。が、俺が入室したことは気づいたようだ。
そこで、俺は買ってきた前もって買っておいたカフェオレを有里に向かって投げた。
「きゃ」
カランコロンと缶カフェオレが転がった。
決まらねぇな……
「なんですの?」
「俺のおごり。どう?」
最初は訝しんだものだが、なんだかんだで俺の渡したカフェオレを飲み始めた。
「……」
「どう? おいしい?」
「……なんのつもりですか?」
おい、会話のキャッチボールしようぜ。おいしいかどうか聞いたんだから、美味しいかまずいか答えろよ。なにがなんのつもりだよ。会話のドッチボールかよ。
「いや、実は俺女の子に缶ジュース奢るのが趣味なんだ」
「また、そうやって適当なことを」
ど、どうして適当なことだと分かった!?
「まぁ、飲みなよ。それ、いつも飲んでる奴でしょ?」
「……」
有里は訝しんだようだが、結局飲み始めた。
俺は俺で、買っておいた缶コーヒー微糖を開けて飲み始める。
「不思議だよなぁ」
「……何がですの?」
「そのカフェオレ。いや、このコーヒーもだけどさ。このコーヒー、雄太さんの入れてくれたコーヒーと比べてクソまずいぜ?」
「……一から作ったコーヒーがどこでも飲めるわけないでしょう」
否定しようにも否定できないらしい。それだけ勇太さんの実力を認めているということだろう。
まぁ、肯定しないあたりは素直じゃないというか……
「でも、このコーヒー飲んじゃうんだよなぁ」
「……」
「そう、だから俺達はお金を払ってこの安いコーヒーを買う、またはお金を払って一から作ったコーヒーを飲む。それが、この世界の常識ってなってる」
「……何が言いたいんですの?」
「だから、別に価値が低いから価値がないってわけじゃないってことだよ」
「?」
「お前がアルバイトでミスしたからといって、ましてや人生がうまく言ってないからといっていちいち絶望してたらダメだってことだよ」
「……」
「大丈夫だよ。心配ない。ここには雄太さんや舞さん、真人もいる。どんなお前でも受け入れてもらえるさ」
「……」
「大丈夫さ。俺がお前の物語を支えてやる」
脇役としてな。
「だから、有里は物語のヒロインとして輝いていてほしい」
「……」
「さ、そろそろ俺は帰るわ」
「……あの…………」
「ん?」
「ありがとう。もう大丈夫」
「そうかい?」
そりゃ、なによりだよ。
朝の登校中、もう俺の中でお馴染みになりかけてるリムジンが俺の前で止まった。
「公太郎さま〜」
そう言って、有里はリムジンから飛び出し俺に抱きついてきた。
ちょちょちょ、ちょっと!?
「え?」
いきなり有里が俺の胸に飛び込んできた!
訳がが分からない!
「私、公太郎さまのヒロインになりますわ」
ええええええええええ!
そう言う意味で言ったんじゃないんだけどなぁ。
「だって公太郎さま言ってくださったじゃないですか! ヒロインとして輝いてほしいって。ですから、私公太郎さまのヒロインになりますわ」
なってほしいのは真人のヒロインだよ!
「いや、それは……」
そんなふうに口ごもっていると有里は強引に俺の手を引っ張りだした。
「さ、公太郎さま。リムジンでお送りしますわ」
「いや、それはちょっと」
「いいではありませんの。ほら、早く」
「いや、ちょ、引っ張るなって分かったから。乗る。乗るから」
「♪」
はぁ、非物語論否定派の洗脳から解けたのはいいけどまさかこうなるとは……
これ、あのライオンに何て言われるんだよ。どうなるんだろ……
はぁ……
「さぁ、公太郎さま。行きますわよ」
あああああ。どうすんだよこれ。
これから大変だよ。
そんなことを言いながら一人の女の子は俺に惚れるのだった。
「へぇ。それで紅。公太郎の様子はどうだい?」
「えぇ。一人目は順調に進んでいます」
「そう。それは上々。じゃ、これからも頼んだよ」
「はい」
そういうと画面上のマスコットのようなかわいらしいライオンが画面から消えた。
藤峰公太郎
それは、赤井紅が脇役としてサポートする主人公の名前だった。
自分の役割を突き詰め、それに従い行動する男の物語。
その物語のヒロインが本日、決まった。
ここまで、読んでいただきありがとうございました。
感想待ってます。
このあと、あとがきが続きます。裏話等を各予定なので、物語とは関係ありません。興味のないひとが次回作を待っていただければと思います。




