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第六話 世界物語論否定派

さてさて、いよいよ世界物語論肯定派も最終回近くなってまいりました。


 第六話 世界物語論否定派



 次の日

 教室に入るなり真人は、有里に話しかけた。


「あの、橘さん?」

「なに?」


 相変わらず素っ気ないなぁ。


「バイトの話なんだけど、うちの親もぜひお願いしますだって」

「本当ですの?」

「うん」

「わかりましたわ」

「じゃあえっと明後日から、お願いできるかな?」

「はい」


 そこで隣で様子を見ていた夕陽が口を挟んだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。橘さんがなんで真人のバイトの手伝いをするのよ?」

「なんでってうち人足りないから」

「わ、私がいるじゃあない?」

「だって、夕陽は部活の日は来れないじゃない? 夕陽と茜ちゃんが同じ日に来れないのが、うちにとっても苦しいんだよね」

「うっ……」

「ですから、私がアルバイトしてあげますのよ」

「この……」


 うぉぉ。炎が! 炎が見える!


「えと、じゃ、じゃあ橘さん。明後日からからよろしくね」

「はい」


 二日後

 有里の初バイトの日

 有里は花屋の方で舞さんから

 俺は、喫茶店の方で様子を眺めていた。


「じゃあ有里ちゃん。バイトの説明していくわね」

「まかせてくださいな」


 大丈夫かよ。

 その自信が俺には不安にしか思えなかった。

 案の定……


「有里ちゃん。そっちじゃないわ」

「有里ちゃんお釣り間違えてる」


 有里ちゃん有里ちゃん有里ちゃん有里ちゃん有里ちゃん有里ちゃん有里ちゃん有里ちゃん

 その日は舞さんの有里を注意する声が止まなかった。



 店を閉店し俺、真人、有里、舞さん、雄太さんの五人で一つのテーブルに付いて


「……」


 うわぁ。目に見えて落ち込んでいる。


「まぁ誰でも最初はできないものだから」


 真人よ。それでもさすがにミスしすぎじゃね?


「……」

「ちょっとずつ成長してくれたらいいから」


 雄太さん。それはそうだけど……


「……」

「これから、ゆっくりやっていこう?」


 舞さん。優しい! あなたは女神ですか!?


「公太郎……」


 ちょ、真人。何だよその目は。


「……分かりましたわ」

「じゃあ基本的には、水、木、金曜日に来てもらうわね。じゃあまた明日よろしくね」

「……はい」


 舞さんの一言で、その日はそれで解散した。



 有里はインターネットで検索していた。

 検索ワードは「仕事 こなす」だった。

 有里は有里なりに、仕事ができない自分は気にしていた。インターネットに何か書かれていてもそれを実践できなければ意味がないことは分かっていたが、それでも、自己啓発のためにはなると思っていた。

 そこに奇妙なリンク先を発見した。


『世界物語論否定派』


 そう書かれたリンク。

 自分は仕事ができるようになる方法を探している。こんなサイトには用はない。そう思いながらも、ちょっとおもしろそうだな。と思う自分がいた。

 そして、有里は興味本位でリンクをクリックしてしまった。



 真っ黒な画面の中央に『世界物語論否定派』と書かれた画面。画面の下にはチャットで入力するような入力欄と送信と書かれたボタンが移っていた。そこに小さなマスコットのようなイラストの虎が現れた。


「ようこそ。世界物語論否定派へ」


 急にパソコンからそのような音声が流れ出した。


「な、なんですの?」

「おっと、驚かせてしまったようだね。ここは怪しいサイトじゃないよ。決して詐欺とかではない」


 怪しいサイト以外の何物でもない。が、有里は何故かブラウザバックできなかった。


「まだ、怪しんでるね? まぁ、いい。最初はみんなそんな反応をするものさ。ちなみに、マイクを持っていたら、喋ってくれると僕に届くようになっているよ。ないようだったら、画面に下に入力するところがあるからそこに入力してくれ。まずは話をしようじゃないか」


 有里は訝しみながら、そこに文字を入力した。


「このサイトはなんですか?」


 そんな風に入力して送信ボタンを押す。


「はは。最初はみんなその質問をするんだよ。次にあなた誰? みたいな質問が多いかな。さて、質問に答えるならこのサイトは『世界物語論否定派』と言う。どういうサイトかというと、簡単にいうと世界は残酷だ。生きる価値なんてない。物語のように上手く行くはずがない。皆さんにそういうことを教えるサイトさ。君だってそうだろう? 橘有里さん」

「なぜ、私の名前を」


 有里はそうつぶやいた。


「なぜ、自分の名前を知っているのか疑問を抱いているようだね。それはね、君がこの世に希望なんてないと思っているからさ」

「どういうことですの?」

「信じられないかもしれないけどね。このサイトには辿り着けないんだよ。こんな世界を物語のように劇的で感動的だと信じきっているような人間にはね」

「……」


 どうしようどうしよう。

 有里はパニック状態になっていた。

 何かの事件に巻き込まれらのでは?

 詐欺か何か?


「だから、大丈夫だって。僕は君の味方だよ」


 落ち着きなさい。橘有里。有里はそう自分にそう言い聞かせる。

 どうやら、このマスコットのトラとはマイクかチャットでコミュニケーションがとれるらしい。


「私がこの世界がつまらないと感じてはいませんわよ」


 そんな風にチャットで送信する。


「おやおや、嘘はいけない。そんな絶望を自分の中に抱いて、そんな嘘を付いたってバレバレだよ。君はこの世界に絶望している。すべてが上手くいかないこの世界にね。でも、それでいいんだ。それで正しい。君は間違っていない。この世界は物語のように劇的で感動的ではない。断じてね」

「あなた、何が言いたいんですの?」

「そうだねぇ。君はどうしたい?」

「?」

「君はこの世界をどうしたい?」

「私は……」

「そう、君の望みを言いたまえ。この世界なんてどうでもいいだろう? なら、どうしたい? 世界の破滅? 自殺願望? 身の回りの破壊でもいいよ?」

「私は……」

「さぁ。世界をどうしたい?」

「……」

「私は世界などどうでもいいのです」

「ほぉ。ならどうしたい?」

「私は……感情を消したい」

「へぇ」

「世界なんてどうでも構いません。この感情が邪魔ですわ。この感情さえ無ければ……」

「ふむ」

「まぁ、そんなことをあなたに話したところで、どうにもなりませんわね」

「聞き入れよう。その願い」


 その日から有里は感情を失った





「おはよう、橘さん」


 朝、登校すると、隣の席の有里に声をかけていた。こいつも凝りねぇな。嫌われてるっていうのに。


「おはようございます」


 ん? 待て、何か今の声が変じゃなかったか。

 なんだこの違和感は。

 嫌っているなら、もっと有里ならば無視するか突っかかるはずだ。なんだ、今の返事は嫌々返事するでもなく、普通に挨拶したようにも見えるが、そこに感情が一切感じられない。

 どういうことだ?

 そんな疑問を抱きながら俺は今日一日を過ごした。



「おい、ライオン」


 俺は帰宅するなり、パソコンを立ち上げ、世界物語論肯定派のサイトにアクセスした。


「あぁ、まずいことになっている」

「やっぱりそうか」

「うん」

「橘有里が世界物語論否定派のサイトにアクセスした」

「!?」

「何を、どういしたのかまでは分からないが、良くないことを吹き込んだんだろうね」

「それで、どうすればいい?」

「いや、ピンチこそチャンス。これを君の主人公様に解決してもらおうじゃないか」

「解決してもらうというか、解決させるんじゃねえか? この俺が」

「そうともいう。じゃ、まかせたよ」

「了解」


 そういってマスコットライオンは画面から消えた。


「さて、どうするかな」


 そんな風につぶやいて、一人の少女を助ける算段を立てていた。



 次の日

「橘さん?」


 朝、クラスで一番早く教室に到着し、待機しておいた。


「何でしょう?」

「今日、バイトだろ?」

「そうですが……それが何か?」

「いや、それだけ」


 さて。


「いや、今日、F&Cいこうと思ってたからさ。誰がバイトなのかなぁと思ってね」

「そう。それだけ?」

「それだけ」


 それで、その会話は終わった。


「おはよ〜」

「おはよう」


 その会話の後、真人と夕陽が教室に入ってきた。


「よ、おしどり夫婦」


 いつも通り俺が茶化し


「だ、誰が夫婦よ!」

「グハァ」 


 真っ赤にしながら俺を殴る。

 さぁ、この世界を守ろうかね

 脇役らしく、物語みたいに、な。


 有里に言った通り、俺は放課後F&Cに来ていた。


「さぁ、有里ちゃん。今日も頑張りましょうね」

「はい」


 そんな様子を俺は喫茶店の方で、見ていた。


「じゃあ、有里ちゃん先週やったことからやってみた」

「わかりましたわ」



「公太郎、気になるの?」

「何が?」

「いや、さっきから向こうみてるからさ」


 これは失態。こいつよりも有里を心配してはダメなんだ。

 あくまで、こいつが有里の問題を解決する。

 そう言う風に物語を完結させる。それが、俺の仕事で俺の役割だ。


「でも、公太郎。有里さんの様子なんか変じゃない?」

「あぁ、真人も気づいていたのか?」

「うん。なんか。何がどうとは言えないんだけど」


 さすが、主人公。ここまで、気づいていたとは。

 俺はこの異変が世界物語論否定派の仕業だということは分かっていたが、真人にはそれを教える必要はない。

 後は、有里と真人を二人きりにすれば、解決するだろう。次のバイトの日が勝負だな。



 次に有里がバイトに入る日。

 それは俺にとって、勝負の日。

 真人にとっては、ただの平日。

 有里にとっては、おそらく、平日も休日もないだろう。

 そんな感覚はもうないはずだ。

 それくらい、あのサイトの効力というものは大きい。サイトは違でど、種類としては同じの、世界物語論肯定派の効力を受けている俺自身、この効力に抗える気がしない。

 分かっていながらも、その効力に甘んじている俺としては、この現状は良しとするのもありなのかもしれない。

 が、こちらにも、譲れない。否、譲れないってことはないが、譲りたくない想いがあるんだよ。

 だから。

 やってやるよ。

 俺の主人公様がな!


「じゃあ、お客様も引いてきたし、有里ちゃん休憩入っていいよ〜。いつも通り十分くらいに帰ってきてね」

「はい」


 そんな会話が聞こえると、俺は勝負に出た。


「雄太さん。ちょっと進路のことで相談があるんだけど、いいっすか?」

「何で俺なんだよ。そんなもん自分の親御さんに相談しろ」

「他人の方が言いやすいこともあるじゃないっすか」

「そりゃ、まぁそうかもな」

「だから、お願いしますよ〜」

「そうか、じゃあ真人、お前は休憩入っとけ」

「はいよ〜」


 よし、これで準備は整った。

 任せたぜ。主人公。


「んで、相談ってのはなんだ?」

「……」

「なぁに、遠慮すんな。なんでも相談にのるぜ? なんてったって常連さんだからな」

……

……

カンガエテナカッター


「あ、ええっとですねー」

「おぅ」


 おぅじゃねぇ。ちくしょう、こんなことなら将来について考えておくんだった。

 いやいや、落ち着け藤峰公太郎。この程度はアドリブだけで乗り切れる。いや、今までだって、脚本なんてなかったんだ。俺の歩んだ道こそが、脚本だ。俺の後ろに脚本が出来上がって行くだけ。

 ん? なんか意味わかんないこと言ってるな。俺、相当テンパってる。まぁ、いいや。とりえず、無難にこの場をやり過ごすかな。

 もう、真人を休憩に持ち込んだだけで、俺の仕事はもう終わっている。あとは適当に流すだけだ。


「大学の経営学部と経済学部どっちに行こうか迷ってるんですよね〜」

「ほう」

「こういう喫茶店みたいに、なんか本屋を経営してみたいなぁとも思っていたりもするんですけど」

「ふむふむ」

「でも、経済について学んでみたいとも考えていて」

「ふむふむ」


 そんなことを話しながら、俺は三十分くらい時間を潰していた。

 いつの間にか真人が喫茶店の方に戻っていたが、それに気づかないくらい熱中して話していた。

 さて、明日から元通り。

 だからさぁ、真人。

 その罰の悪そうな顔は見なかったことにしていいかなぁ……。



「ダメだったようだ」

「みたいだね。こちらにも情報は届いているよ」

「だが、どうして?」

「わかりやすく言うなら、真人の主人公力が世界物語論否定派の力に劣った。と、いうことだろうね」

「なるほど、わからん」

「あれ?」

「まぁ、なんにしても、真人は失敗したと、そういうことだな」

「そういうこと」

「そうか、それで、どうする? というか、どうしたらいい?」

「う〜ん。君が解決すれば?」

「おいおい。そんな主人公みたいなこと俺ができるわけないだろ?」

「それもそうだね」

「あっさり、肯定すんな!」


 そこは、もっとお茶を濁して発言しろ。


「たしかに君は主人公になれない。

「つまり、みんなに気づかれる気づかれることなく、有里の事件を解決してほしい」

「……」


 それはつまり、俺が主人公のような行動をしろと?


「だが、有里に惚れられてはいけない。君は真人のクラスメイトのポジションを壊すこと無く、橘有里に好かれるこのとない方法、つまり、考えうる最悪な方法で有里の事件を解決してほしい」

「ま、マジ?」


 それはつまり、現実に嫌気がさしている有里に物語に引き戻すために、人として最悪の方法でこの世界が物語のように劇的であることを教えろということか。

 それ、何てムリゲー?


「じゃ、頼んだよ?」

「ちょ、ちょっと」


 そういって、画面からマスコットライオンが消えた。


「おいおい」


 はぁ、やるしかないか。

 まずは、作戦を立てないとなぁ。


 俺が主人公みたいに女の子を助けるとか……

 ナイワー



みなさん。どうでしたか? 第六話 世界物語論否定派 楽しんでいただけましたでしょうか?

次回は最終回になります。最後まで引き続き楽しんで頂けたらと思います。

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