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水娘伝(すいこでん)  作者: 文太
第一話 邂逅編
6/110

その五 宋江、晁蓋を助けだすのこと

 次に宋江(そうこう)の意識が目覚めた時、まだ体の節々は悲鳴を上げていた。体も頭もまだ睡眠を必要としていたが右肩を揺さぶる小さく暖かな手の感触と自分を呼びかけるか細い声が彼の目を開かせた。


「宋江様、宋江様、起きてください」


「うう……うん……? 誰……?」


手と声の主は郭清(かくせい)のものだった。目をこすってむくりと上体を起こすと燭台をもった彼女の姿が目に入った。 あたりは既に薄暗い。断末魔のような薄い西日だけが窓から入ってきている。となるとだいたい、三時間ほどねていたようだ。


「どうしたの?」 


「に、逃げてください」


少女の要求は端的で要領を得ない。だが切羽詰まった顔は冗談を言っているようには見えなかった。


「ど、どういうこと?」


体の痛みをなんとか押さえつけながら、取り敢えず寝台の側にある靴を履く。


「あの……」


郭清が何か言いかけたが、途中で何かに気づいたようにハッと顔をあげると周りを見渡した。 少し遅れて宋江もこちらに近づく足音を察知する。


「こ、こっち」


なんだかわからないがただ事ではない。宋江は郭清の手を取ると窓から外に飛び出した。幸い、窓は簡単に乗り越えられる位置にある。音がしないように慎重に窓を閉めると、宋江はそのまま走り出そうとして気づいた。足元は小石が散らばっており、走り出せば簡単に気づかれてしまう。しかたなく宋江はその場にしゃがみ込むと、郭清にジェスチャーで静かにするように言い、燭台の火を消した。


 一体何が起こっているというのだろう。宋江が最初に考えたのが山賊たちが村に押し寄せたということだった。だがそれにしては村は静かでほとんど何の物音も聞こえない。大体、晁蓋(ちょうがい)はどこに行ったのだろう。


「宋江さん、いらっしゃいますかな?」


窓の向こう側、自分がいた室内から聞こえてきた声は村長のものだった。宋江はとりあえず声を立てずにじっと身を潜める。


「そ、村長! いませんぜ!」


続いて聞こえた声は聞き覚えのないものだ。声の調子からして三十歳前後の男のようだ。


「落ち着きなさい。(かわや)か何かかもしれんじゃろ」


そう返す村長の声はひどく平坦だった。


「もちろん探すべきじゃが、最悪見つからなくてもよかろう。晁蓋殿のいる大広間に近づきさえしなければ良い。陳安(ちんあん)様の要求は晁蓋殿だけじゃしな」


陳安……知らない名だ。何者だろう。


「あいつは足を痛めてたし、そんなに遠くにはいけないはずです。気づかれていたとしても逃げられないでしょう」


この声は聞き覚えがあった。晁蓋と自分をこの村まで案内した男だ。


「そうじゃの。ま、念には念を入れても探すとするかの。(てい)(せい)は晁蓋殿の見張りにゆけ。(がく)(りょ)にとお前たち、四人いれば大丈夫じゃろう。わしは明日の朝、陳安様の元に晁蓋殿を連れて行くための荷車を用意しておく」


晁蓋を見張る? 一体どういうことなのだろう。そう思った宋江の耳に今までよりずっと平坦な村長の声が聞こえた。


「残りの者は宋江を探せ、殺してもかまわんじゃろ」


その村長の血も凍るような指示を最後に部屋から人の気配が順次去って行った。全員が部屋から消えた気配がしてから、ようやくホッと息を吐く。


「郭清、いる?」


「は、はい」


既に日は落ちていて明かりなしにはほとんど何も見えないが、ぼんやりと輪郭が見える。


「その、何が起こっているのか、説明してくれるかな」


暗闇の中で郭清がこくりと頷くのがわかった。







 郭清によるとこういうことだった。この村が山賊の被害にあっているのは事実でここ数年、収穫や家畜が奪われ、若い娘が攫われているのは晁蓋や自分が聞いた通りだった。だがこの村に晁蓋を呼んだのは、いや呼び寄せたのはこの村の人間ではなく、その山賊自身だという。


「さっき言ってた陳安というのが親玉の名前です」


「え? 黒勝(こくしょう)って名前じゃなかったの?」


「い、いえ、違いますけど」


出発前に聞いた黒勝という名前は偽名であったらしい。その陳安の要求はシンプルなものだった。晁蓋を捕らえて、俺の元まで連れてこい。さもなくば、連れ去った娘もろとも村は皆殺しにするという。


 村の中で多少議論はあったものの、結局村人たちは晁蓋を誘き寄せて陳安に差し出すことに決めた。既に歓迎の宴で酒に陳安からもらった睡眠薬を混ぜて眠ったところを捕まえたということらしい。


「なるほどね」


村長の話を盗み聞きしてからなんとなく、そんなことじゃないかなとは思ったが……要は自分たちは騙されていたらしい。


(さて、状況は分かったがどうしよう)


逃げる事は難しいだろう。村人達に看過されている通り、自分は足を痛めており、体力も無い。おまけに道も不案内ときている。さらに朝になって日が出なければ進んでいる場所すら不明確だ。第一、無事逃げたところで晁蓋を見捨てた自分があの村でこれまでどおり生活できるかというとそれは難しいだろう。


 となると、晁蓋を救い出すしかないのだろうか。だがこちらの方も相当に困難だろう。晁蓋はどうも大広間というところにいるらしい、ということは分かった。道案内は郭清に頼むとしてもそこには四人の見張りがいる。五体満足でも四対一で勝てるとは思えないのに足を満足に動かせない現状で挑むなど絶望的だった。


(……違う、そうじゃない)


観点が違うのだ。重要なのは見張りではないのだ。


 宋江はちらりと郭清を見た。おずおずと小動物のようにこちらを見上げている彼女。作戦には彼女の協力が不可欠だ。だが、どこまでこの少女を巻き込んでいいものか、迷ってしまう。彼女はこの村の人間である。立場的には自分の敵のはずだ。もちろん実際にそうではないのは今までの彼女の行動が明確に物語っている。そこまで考えて疑問が沸き起こった。


(なぜ、この子は僕を助けてくれたのだろう)


そう、今までバタバタしててその疑問にすら思い当たらなかったが、何故なのだろう。まさか、昼間に桶を運ぶのを手伝ったからだけとは考えられない。もし、今自分ともども見つかれば、最悪、村人に裏切り者として殺されるか、そうでなくてもひどい目にあうのは間違いなかった。何故、そんなリスクをおかしてまで自分を助けてくれたのか………


 だが宋江はその疑問を頭から一旦振り払った。時間は限られている。自分が偶然でなく、意図的に消えたことに気づかれる時間はそう長くない。彼女の真意を一々確認する時間はないのだ。彼女にかけるしかない。


「郭清、お願いがあるんだ」


「は、はい」


郭清が震えた声で、しかしはっきりと肯定の意を示した。








 呂仁(りょじん)はあくびを噛み殺した。あくびの音程度で目の前の男が起きるとは思わないし、起きたとしても身動きできないはずなのだが用心に越したことはない。


 大広間の料理は既に片付けられていた。残っているのは卓と椅子、それとその椅子に縛られた晁蓋という男だ。


「ぐぉー、ぐがぁー」


派手ないびきをかきながら晁蓋は寝ている。卓を挟んで反対側に自分ともう一人。残り二人が広間の出入口に腰掛けていた。


 そのもう一人の男、岳通(がくつう)がぼそりと呟いた。


「あれ、本当に効果あるのかね」


あれ、というのはこの村が晁蓋を捕らえるための道具として陳安からもらった道具、眠り薬と禁気呪(きんきじゅ)と呼ばれる木札だ。眠り薬は効果があったので岳通が言うのは残るもう1つ、禁気呪のことだろう。これは特殊な文様が彫られた木札で気功使いの罪人を拘束するときに使われるものだ。縄に括りつけておくと、その縄で縛られたものは一切、気功の技を使えなくなるという代物だ。が、実物を見るのはふたりとも、というか村人は全員初めてで効果の程もわからない。


「信じるしかねぇだろ」


呂仁はなげやりにそう返した。もうここまで来たら退くことはできない。自分たちは陳安と晁蓋を天秤にかけて陳安につくと決めたのだから。


 幸せそうに寝ている晁蓋の顔を見ると呂仁にはすこしだけ罪悪感が湧いてくる。この男は何の縁もゆかりもないこの村のためにわざわざ遠いところから来てくれたのだ。それをだまし討ちのようにこうして捕らえて差し出すというのは良心がとがめた。それでは、この取引を止めて晁蓋とともに山賊に対抗するか、と言われればそれもできなかった。呂仁には娘がいる。山賊にさらわれてから会っていないが今年で十七になる娘だ。例え、晁蓋が超人的に強かろうが一人で人質を一人残らず確保した上で山賊をすべて倒すというのはいくらなんでも無理がある。娘を殺されたくなければこの男を差し出すしか無いのだ。


(すまん……)


意味が無いことだとは知りつつも心のなかで謝らずにはいられない。そんな物思いにふけっていると入り口の方から見張り役の鄭平(ていへい)の声が聞こえた。


「あん? 郭清じゃねぇか、何しに来た?」


郭清。五年前に流行病で死んだ郭家の生き残りで、今はこの村長の家で住み込みで働いている少女だ。確か、今年で十二になる。


「あ、村長さんが皆さんのために飲み水をって……」


入り口の方を見ると燭台と柄杓の入った桶を持った郭清が見張りの二人を見上げていた。桶は重たそうで、よたよたとしている。


「鄭平、もってやれよ」


「あ、お、おう。ほら貸しな、郭清」


そう言って郭清が持つ桶に鄭平が手を伸ばした時だ。


「うおおおおおおおおおおっっ!!!」


残る一人の見張り、斉信(さいしん)に誰かがとびかかったのが見えた。


「ぐおっ」


襲ってきた何者かは棒のようなものを持っていた。はっきりしないが樹の枝のようなものか。敵の姿はわからなかったが、この状況でこちらを襲う人間には一人しか心当たりがない。


(見つからないっていう宋江ってやつか!?)


そう判断すると同時、自分の横にいた岳通が飛び出した。斉信は頭をおさえているが生きてはいるらしい。


「こいつっ!」


鄭平は既にすりこぎ棒を手に襲撃者に襲いかかっていた。


「ぐっ!」


戦いは鄭平のほうが優勢そうだった。襲撃者は大した力もなさそうですりこぎ棒を思いっきりふっている鄭平から距離をとって逃げているような有り様だった。そこに岳通が加わればあちらは問題あるまい。


「ちっ」


それよりも晁蓋だ。この騒ぎで目覚めたら面倒なことになる。そう思って再度晁蓋を確認するために振り向くと相変わらず寝たままの晁蓋と怯えた顔をした郭清がいる。


「郭清、静かにしろよ」


そう言うと郭清はこくこくと無言で頷いた。呂仁も戸口に向かうと斉信を助け起こす。


「おい、大丈夫か」


「あ、ああ。くそ、コブができてやがらぁ」


大した問題はなさそうでほっとする前方に目をやると、暗くてよく見えないが戦いはこちらに有利に進んでいるようだった。岳通と鄭平の威勢のいい声が聞こえる。襲撃者は既に武器を奪われ、地面に転がされていた。


「おい、お前ら、そのへんにしておけ。晁蓋が目覚めたら面倒だぞ」


呂仁は庭に降りるとそう二人に声をかけた。既に襲撃者はぼろぼろで二人の足元に倒れ伏している。黒い癖っ毛の十五前後の男だ。昼間に見た男で間違いない。


「う……うう……」


「岳通。お前、手ぬぐい持ってたろ。口、塞いどけ。騒がれると面倒だ」


「おう」


岳通は手早くもっていた手ぬぐいで猿轡をかませた。襲撃者、宋江とか言ったか、は多少抵抗する様子を見せたが無理やり顔を固定させると後はされるがままになっていた。


「どうする? 縄でしばっとくか」


「おい、待て。俺にも一発殴らせろ」


岳通がそう言うと同時、復活した斉信が近寄ってきてそう言った。痛みと怒りのせいでぎらぎらと目が光っている。


「やりすぎんなよ」


「どうせ、殺すか、殺されるかするんだろ、構わねえよ」


斉信が近づきながらそう言い、めいいっぱい襲撃者の腹を蹴飛ばした。


「むぐッ」


既にさるぐつわをかまされているためか、くぐもった声がもれた。


「くそっ、この野郎! ふざけやがって」


一発では収まりきらないのか、立て続けに同じ所を斉信は蹴飛ばしている。それを横目で見ながら呂仁は指示を出した。


「おい、鄭平。みんなに知らせに行って来い。もう一人のやつが見つかったってな」


「おう、わかった」


そう言って呂仁の後ろに向かってかけ出した鄭平の前に、突如、疾風のように影が現れた。影はちらりと自分たちの足元にいる襲撃者、宋江を見ると言った。


「よう、中々楽しそうな事やってるじゃねぇか」


そこにいたのは先ほどまで椅子の上で眠りこけ、縛られていたはずの男、晁蓋だった。








 時間は少し遡る。郭清は呂仁が部屋から出たのを確認すると先ほど宋江から聞かされた話を思い出しながら晁蓋に近づいていった。


「郭清。君には晁蓋を助けてほしい。見張り役は僕が四人ともなんとか引きつける。まず、君は水を持って晁蓋のいる部屋に向かうんだ。君が到着したら僕も見張りに向かって攻撃するからその間になんとか、部屋に入り込んで晁蓋を助けて欲しいんだ。どんな眠り薬かしらないけど、さすがに耳か鼻にでも水を注げば起きるでしょ」


 宋江の作戦はほぼうまく行っていた。最後の一人、呂仁が部屋を出た直後に郭清は持っていた水を柄杓で汲むと晁蓋の頭からかけた。が、この程度では起きないらしい。既に表では大勢が決したのか、宋江が殴られている音と彼のくぐもった声しか聞こえない。


(ごめんなさい!)


郭清は覚悟を決めるともう一度、柄杓で水を汲み、晁蓋の顔を上に向けると鼻の中に水を流し込んだ。


「ぶほっ、ごへっ!」


むせながらも晁蓋はすぐに起きた。その口を慌てて抑える。ここで見つかってはだめだ。晁蓋はまだ縛られているし、自分では村の男たちに対抗できない。


「し、静かにしてください、今縄を解きますから」


ぼそぼそと郭清はそう言うと後ろに周って縄を渡航とし始めた。


「お、おい。こりゃどうなってんだ」


「え、えっととりあえず、宋江さんを助けて欲しいです」


郭清はこの荒々しい男に正直に村の裏切りを伝えられず、ごまかすようにそう言った。外では村の男が宋江にさるぐつわをかまそうとしているらしい。


「ちっ、なんだかわからねえが……」


とりあえず、尋常でない様子なのは察したのか晁蓋はぐっと縄に力を込めた。ひょっとしたら自分が何もしなくとも勝手に千切れるのではないかと、一瞬郭清は思ったが


「あん?」


すぐに晁蓋の顔が怪訝な表情になり、それからまたすぐに何かに気づいたように舌打ちを打つ。


「ちっ、禁気呪か。おい、嬢ちゃん。その辺に木の札があるだろ」


ぼそぼそと低い声で晁蓋はそう指示してきた。


「え、あ、はい」


既に後ろに回っていた郭清はすぐに見つけた縄の結び目とは別の場所に木の札がぶらさがっている。


「それを外せ。縄でくくりつけられてると思うが、そっちのロウソクで焼ききるか何かしな」


「は、はい」


郭清は木の札と縄の結び目とは関係無いように見えるその縄をなぜ焼き切れと言われたのか、わからなかったがとりあえず、指示に従う。


(早く……早く切れて……)


庭から聞こえる音は既に村の男達の威勢のいい声と一方的に宋江が殴られる音しかしない。あせりながらじりじりと郭清は蝋燭の炎で焼き切れるのを待つ。幸い、あまり太くもない麻ひもでくくってあるだけだったので縄はあまり時間をかけることもなく切ることができた。


「切れました!」


「よし」


次の瞬間、ばちんとバネがはねるような音がして、何重にもしばっていた晁蓋の縄が一瞬にしてちぎれた。晁蓋は既に外に向かって走りだしている。郭清も慌ててその後に続いた。


「くそっ! 人数集めりゃなんとか……」


「そ、そうか、おい、みんな集まれ!」


郭清が広間の出入口に至った時、村の男たちは既に晁蓋に気づいていて、そんなことを言い合っていた。


 一番近くにいる男、鄭平がじりっと距離をとりつつ、武器である棒を構えている。既に先ほどから大分うるさかったせいか、屋敷に待機していたうちの何人かが集まってくる。元いた人間を含めて、今は七人の人間がいた。


「さーて、何がなんだかよくわかってなかったが、そういうことならわかりやすくていいな。ところで、もう行って良いのか。もっと近くに来て全員が一斉に打ちかかったほうがいいんじゃねえか」


だが晁蓋は余裕たっぷりとそう言いながら逆に包囲されるように歩を進めていく。


「ぐっ、ふざけやが……」


ズンと音がして悪態を尽きかけていた男の体が崩れる。


(え……?)


郭清は驚愕した。一瞬前には、二人の距離はどう見たって三丈(約9メートル)は開いていたはずだ。それだというのにまばたきせぬ内に晁蓋はその間を詰め、一撃を打ち込んでいる。


「ふざけてんのはお前らだろ。人のこと呼び寄せといて、こんな真似しやがってよ……」


怒声とともに晁蓋の(からだ)が動いた。








 晁蓋は瞬時に前に飛び出す。敵は自分の周りにいる四人と宋江の近くにいる二人。まず自分を囲っているうち、前にいた二人の頭を瞬時に引っ掴むと思いっきりその二人の頭を互いにうちつけた。目を回したところに左の男には延髄げりを食らわせて沈める。と同時、その男の体の外側を回ってもう一人の男の背後に回りこんだ。男は未だ、こちらに対応できていない。背骨に掌底を打ち付ける。そして、前のめりに倒れた男の肩にかかとを打ち下ろした。


 これでさきほどまで自分の後ろにいた人間とは今は正対する位置となった。その男たちに向かって走り、棒をふりあげようとした男の腕を止めるために右手首を掴んでそのまま握りつぶす。


「い、いてぇっ、いてえよっ!」


そう叫んでいる間も横にいた男はまだこちらの動きに対応できていなかった。そして自分が手首を掴んだ男が棒を取り落とした瞬間、肘でこめかみを切り裂くように振りぬく。


「このっ!」


そこでようやく、残る一人が自分の横から棒を振ってくるが軽く跳躍するとその棒は自分の足元を通りすぎて倒れかけた男の肩をしたたかにうった。空中に飛び上がったまま、けりを残り一人の顔面に放つ。ぐらりと後ろに倒れた男にそのままのしかかり、そのまま男に自分の体重をすべて載せる。ずんと音がして男が白目を向いた。


 これで残りは宋江の近くにいた二人。今は自分に向かって前後に並んでいた。しゃがんだ際に地面に落ちていた石を拾い上げると下手から投げつける。狙いは違うこと無く前にいた男の脳天にあたった。男が顔をしかめた瞬間、股間をつま先で思いっきり蹴りあげる。悶絶した男を横に避け、宋江とともにいる男に近づくと足を踏みつけて逃がさないようにすると顔、胸元、両肩、水月、腹の六ヶ所を一瞬で撃ちぬいた。


「うし、こんなもんか」


そう言って晁蓋は悶絶、あるいは気絶する七人の男たちを見下ろした。


「さて、どういうことか、説明してもらおうか。そこにいる村長」


そう言って建物の影に隠れている人影に声をかけた。村長の周りにはさらに三人の人間がいる。男が二人に女が一人。女は昼に宋江から聞いた例の村長の妻とやらだろう。どうやら今、到着したところらしい。


「ひっ!」


「逃すか!!」

一足飛びに晁蓋は逃げようとした四人に追い付くと逃げ遅れていた村長の襟首を掴むと乱暴に上空に投げあげた。


「あああああああ!!!」


上空で悲鳴が上がるが無視して、男二人に追いつく。まず一人の足を払い転ばすともう一人の耳を狙って平手打ちをした。パンと音がして男が耳を押さえてその場にうずくまる。


「ぐっ」


残るは女一人。村長同様、襟首を掴んで振り回し、先ほど転ばした男に向かって投げつける。女は声もあげられないまま、立ち上がりかけた男に激突し、そのまま二人で転がりながら二丈(約6メートル)程ごろごろと転がった。それを確認しつつ、耳を打たれた男をおもいっきり蹴飛ばした。彼もまた転がる二人を追う様にすっ飛んでいく。晁蓋もそれを追い、三人を丁寧に踏みつけて走ると、落下していた村長を捉えた。

「えぐっ!」

「あぐっ!」

「うごっ!」


踏みつけた順に三人は潰れたカエルのような声を出す。最後に手に持っていた村長を背中から地面にたたき落とした。


「がふっ!!!」


肺の中から無理やり空気を排出された村長の顔が青くなった。


 晁蓋は村長を再度持ち上げて、周りを見回す。手加減したので、死んでいる人間は一人もいない。悶絶する村人たちの中を縫うようにして先ほど自分を助けてくれた少女が宋江に駆け寄っていった。それを確認すると右手にぶら下がった村長をもちあげる。


「さて、もう一度聞くか。どういうことか説明してくれるよな、村長」


村長は肯定も否定もできずにがくがくと震えていた。


「おい、何、黙ってんだよ。もう一回、鳥の気分になりたいか」


「しゃ、しゃべ、かはっ、しゃべり、ごほっ、ます。しゃべりますから」


「よしよし。嘘だと判断したら指を折ってくからな」


そう言って晁蓋は獰猛に笑った。

先に申し上げておくと原作、水滸伝の108人全員は出てこないです。どんなに出せても50人か60人程度かな、と思ってます。

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