その九 宋江、楊志に首飾りをつけるのこと
宋江が黄泥岡の事をどんな風にとらえていたかはわからない。しかし、楊志にとってはその単語は禁句に等しい代物だった。特に滄州で宋江に牢から助け出された一件以降は、ますます楊志はその単語を胸に封じ込めていた。
なぜならその単語は宋江と自分にとってのある事実、すなわち彼らが本来軍人と山賊という敵同士であることを最もよく思い出させる単語だったからだ。
黄泥岡とは二人の間に横たわる冷たく暗い現実を象徴する言葉でなのだ。
「なんでそんなこと言うの」
宋江はただ単にその現実を持ち出しただけだ。二人でこのことは話さないようにしようという風に決めたわけでもない。そういった観点からは宋江の言うことは責められるべき言動ではないはずだった。それでも楊志は宋江を責めずに居られなかった。
「ごめんなさい」
それでも宋江は謝ってくれた。だからと言って楊志の気持ちが晴れるわけでもないが。
「でも、進むにしろ、退くにしろ、この問題は有耶無耶で済ませてはいけないと思ったんです」
宋江の説明は主語も目的語も無く、ひどくわかりづらいものだった。だが何にせよその言い訳は楊志にとってあまり意味のあるものでもなく、右から左へと聞き流す。
「楊志さん、本当にごめんなさい。謝ってどうにかなるものではないと思ってますけど、黄泥岡であなたの仲間を殺したこと、謝らせてください」
「でも、あなたがやったわけじゃない」
「そうです。でも僕も無関係ではありません」
楊志の反論に宋江は頑強に言い返した。
「あなたは卑怯だわ」
少しだけ沈黙を挟んだ後に楊志は呟く。
「今更、そんなことを言われても私にはあなたをどうしたらいいかわからないのに」
罪人として断罪するには親しくなりすぎた。でも笑って許せるほど小さなことでもない。臭いものには蓋をしよう、というわけではないが、このままひっそりと楊志は忘れて行きたかった。それこそ笑って許せるほどの年月が経つまで。
「僕で償えることでしたらなんでもやります。その……命をとるのだけは少し待って欲しいですけど」
「だから、そんなこと、私はもうできないってば」
軍人としての義務を果たすのなら目の前の男は罪人で、でもそもそも発端となっている奪われた財宝事態がそもそも汚れたもので、けれども、自分はそのために軍人として再起の道を絶たれて、それでも彼が愛しくて。
いくつもの事柄がぐるぐると頭を駆け抜ける。
もっと違う形で彼とは会いたかった。例えば、山賊に襲われていた彼を偶然通りかかった自分が助けるとか、普通は男女が逆だろうけど、彼は農民で自分は軍人だし。それで宋江が御礼に来てくれて、それで自分も彼に段々惹かれて行って。
思わずそんな埒も無い夢想をする。
「もう少し別の形で楊志さんとは会いたかったです」
だから、宋江がもらしたその言葉に楊志ははっと彼の顔を見上げた。
「今、すごく後悔してます。元々、黄泥岡の事に僕が関わったのはそう深い理由でも無いんです。ただ単にそんな無茶をしようとする仲間が心配で……多分、その仲間たちに置いて行かれたくなくて、でも、そのせいで、楊志さんはこんな状態になってしまいました」
「そんなこと言われても困るわ……」
せめて宋江が悪辣な人間であったら、それならばここまで思い悩むこともなかっただろう。だが実際には違った。彼は少なくとも自分が今前接してきたごろつきまがいの軍人や鼻持ちなら無い役人達に比べればずっと高潔な人間だった。
「楊志さん」
宋江はまるで臣下の様に楊志の目の前にひざまづいた。
「僕に機会をくれませんか」
「機会?」
「楊志さんが今回失ったもの。何としても取り戻します。全部は無理かもしれませんけど、だからそれができたら僕を許してくれませんか?」
失ったもの。
ふと楊志は自分が今回何を失ったかを考えた。失ったものは多いようで突き詰めると意外と少ない。部下を失ったが、部下はそもそも軍人なのだから、戦うこともその結果死ぬことも、覚悟しているはずだ。少なくとも建前上。指名手配となった件は今まさに秦明の力を借りてなんとかしようとしている。索超の真意はいまだ、わからないのだからこれも失ったと断ずるのは早計だろう。とすると、残りは仕事と出世の道くらいだろうか。
でも、楊志はそこで黄泥岡の直前に索超に問われたことを思い出した。どうして自分は軍人として出世したかったのか。結局、その問いに自分は答えられないままだった。
宋江はああ言ったが自分だって軍人になろうとした理由も出世をしようとした理由も確たるものがあるわけでもない。親から言われた道を歩んだだけだ。仲間を心配して計画に加わった宋江のほうがよほど動機がしっかりしている。
そう、父親から言われただけだ。でも、禁軍時代に任務を失敗してから、もう親と会ってない。だからその後、禁軍に戻りたいと思っていたのは指示を受けたわけでもなんでもなく自分の欲求から生まれた望みのはずだ。もう父親とはあってないはずなのに。
そこまで考えて楊志の頭に繋がるものがあった。
(ああ、そうか……)
自分は両親に、より正確に言えば父親にもう一度認められたかっただけなのだ。
楊志の家系は代々軍人を輩出してきた家系だった。母から生まれた子供は自分ひとりだったが、父親には他に二人妾をもっていて、楊志が七歳の時に弟が生まれた。
父親は男子を授かったことを喜んでいた。そしてそれ以降、露骨とも言えるほどに父親が自分と過ごす時間は短くなっていった。やはり軍人たるもの、男子でなければならない。そんな思いが彼にはあったのだろう。楊志は父親の気を惹くために必死に勉強や稽古に身を入れた。そうして成果をあげたときだけ、父は自分に眼を向けてくれた。だから必死に出世しようとしていたのだ。
一度繋がってしまえば、湧き水のように後から後から自分の心の中に眠っていた幼い頃からの情景と自分の過去の心情が次から次へとよみがえってくる。
自分の器の小ささに気づいて楊志は小さく苦笑した。目の前には宋江が少し不安げな調子でこちらを見上げている。
その事に気づけたのも彼のおかげと評するのは少し、過大評価しすぎだろうかと楊志は思った。多分、自分は薄々このことに心のどこかで気づいていたのだろう。そして禁軍に戻ったくらいで自分と父親の関係が決して好転しないことも。
今、この場でそれを認めることができたのは、宋江の優しさがあったからだ。自分が敵だと知っても、罪人に転がり落ちても決して自分を見捨てなかった彼に父親以上の信頼をおけたからだろう。
「楊志さん?」
自分が笑ったことが不可解だったのだろう。宋江が不思議そうに声を上げた。
「ごめんなさい。なんでもないの」
そう首を横に振ると楊志は言葉を続けた。
「うん、わかった。許します」
今度は屈託無く楊志は宋江に答えた。
「え?」
「もう、今回無くなったものはほとんど返してもらってるもの。まあ、索超の件とか、指名手配の件とかが残ってると言えなくも無いけど」
楊志はそう言って自分の胸に手を置いた。
「私はもう、あなたからたくさんのものをもらったわ。それでもう、いいの。私、十分幸せだわ」
「い、いいんですか?」
「ええ」
宋江が確認するように尋ねるが楊志は再度はっきりと頷く。
「とはいえ、まあ残った困りごともあるからそれが解決するまではお願いね」
「はい、もちろんです。楊志さんのためにがんばりますね」
宋江が朗らかに笑う。
「うん。ありがとう」
彼の言葉がうれしくて、楊志は思わず微笑んだ。心の中が暖かくて少しどきどきする。
「ああ、それとですね」
と、そこで宋江はおもむろに懐から小さな箱を取り出した。
「これを受け取ってもらえませんか?」
「なに、これ?」
楊志は訝しげな顔つきで、その箱を受け取る。
薄く小さな箱だった。高さは一寸も無い。楊志の手のひらにもすっぽりと納まる程度のもので、重さもほとんど感じなかった。
「開けていいの」
「ええ、もちろん」
宋江はにこやかな顔つきのまま、頷く。
蓋を開ける。楊志の目に飛び込んできたのは薄緑色の翡翠だった。
「これ、ひょっとして、玉?」
おずおずと口に出して確認する。宋江は笑顔のまま、こくりと頷く。
(お、落ち着きなさい。落ち着くのよ、楊志。これは何かの間違いよ、きっと。だって、宋江がこんな高価なものを私にくれるなんて、そんな幸せ極まりない事件がそうそうおきてたまるものですか。で、でも、幻とかじゃないみたいね。えーと、ということは……)
「わ、わかった! あれでしょ! 私から誰かに渡して欲しいってことね。うんうん、わかってるから! で、誰に渡せばいいの?」
かなり自信を持って楊志はそう発言したが、宋江はその言葉にむくれて見せた。
「さすがに女性への贈り物を人伝いにさせるほど根性無しじゃないですよ」
「そ、そんなこと言ったって今ここには私しかいないわよ」
「ええ、だから」
宋江はそっと自分に近寄るとその箱から翡翠を取り出し、楊志の手にそっと握らせた。
「これは僕から楊志さんへの贈り物です」
「だ、だって、そんなこと言われても……」
いいんだろうか、自分みたいなのがこんなものを受け取ってしまって。女らしいことなど何一つできず、軍人としても中途半端で、彼に頼ってばかりの自分が。
「本当は楊志さんの仲直りのために買ってきたものなんですけど」
自分が黙っていることに不安になったのか、宋江は手を離してしゃべりはじめる。
「でも、やっぱり初めてのことになるから、そんな不純な動機で渡すのは辞めようと思って、だから、仲直りした上で渡したかったんです」
だが宋江の声はほとんど右から左に抜けていくだけで、楊志はその言葉に反応できないままだった。
「えっと……ひょっとして、ご迷惑、でしたか……」
悲しそうに俯く、宋江を見て楊志はようやく我に返る。
「ち、違う! 違うの! そんなことない! 全然無い!」
うれしい。うれしいのに、自分それをどう表現していいのかわからなかった。くやしかった。情けなかった。こんなに自分の胸は幸せでいっぱいなのに、楊志はそれを宋江に伝えることができなかった。そのせいで宋江を不安にさせてしまうなんて。
笑おうとした。笑うだけではとうてい今の幸せを表すにはたりないけれど、何万分の一でもいいから伝わって欲しいと思って。でも笑えなかった。顔の筋肉が張り付いたように動かない。それでも無理に動かそうとした時、頬を水滴が伝っていくのを感じた。泣いていたのだ。
「楊志さん?」
宋江の驚きの顔に慌てて、楊志は顔を背けると、乱暴に顔をぬぐった。
「違うの!? 悲しくなんかないよ! 本当なのに! あれ? なんで? なんで止まらないの?」
ぬぐっても、ぬぐっても、涙は後からあふれてきてしまう。どうして止まってくれないんだろう。自分は笑いたいのに。幸せなのに。
「大丈夫ですよ、わかります」
宋江はいつものように優しく落ち着かせるように自分に語りかけてくる。
「あ……く……」
幸せで胸が一杯で。でも、まるでそれが自分の喉を押しつぶしてしまうような息苦しさを同時に感じる。何より、自分の喉から無様な声しか上げられないのが楊志には苦しかった。
「よ、楊志さん? し、深呼吸してください。深呼吸! 息吸って吐いて!」
慌てたように宋江は自分の肩をつかんで軽く揺さぶってくる。
「はう、あ……」
楊志は宋江のその言葉にはほとんど反応しないまま、手を伸ばし、ぎゅっと彼の体を抱きしめた。
「楊志……さん……?」
宋江の戸惑ったような声があがる。それは驚くだろう。自分でもなんでこんなことをしたのか、わからないのだから。けれど、そうせずにはいられなかった。
やがて、宋江の手がおずおずと自分の背中に回る。宋江の暖かい手が自分の堅くなってしまった体を氷を溶かすようにやわらげてくれる。徐々に楊志の体から緊張がほぐれていった。
「あ、そ、宋江?」
ようやく意味のある言葉を言えるようになるまで回復すると、楊志は彼に呼びかけた。
「ええ、ここにいますよ」
宋江の手が赤子をあやすように自分の頭を撫でてくれる。
「うん……うん……ありがとう、宋江。私、うれしい」
ようやく、ようやくこの一言が言えた。
「すごくうれしいの。うれしいって百万回言っても足りないくらい、うれしくて幸せなの」
「はい」
「本当よ。今まで感じたことが無いくらい幸せ。すごく幸せでうれしくってさっきまで声も出せないくらいだったの」
「はい。僕も楊志さんにそう言ってもらってうれしいです」
二人は互いに耳元で囁きあう。
「宋江、しばらくこのままでいい? 私もう幸せすぎてどうしていいか、わからないの。本当に幸せすぎて頭がおかしくなりそう。ねえ、いいでしょ?」
「僕はかまいませんよ」
宋江はそう言って少し彼の手に力を込めてくれた。
「ありがとう」
楊志は対抗するように宋江よりももっと強く彼をかき寄せた。
どれくらいの間、そうしていたのか、わからない。宋江を抱きしめているうちに少しずつ、楊志の興奮も収まり、冷静になっていく。すると今度は現在の状態への気恥ずかしさがでてきた。
「あ、ご、ごめん。宋江、その、もういいわよ」
「そ、そうですか……」
そういいあって二人の体がゆっくりと離れる。夕暮れの風が二人の火照りを冷まして言った。
「あの、改めていわせてもらうわね。ありがとう。うれしいわ、宋江。あなたからこんな素敵なものをもらえて」
「ええ、泣くほど喜んでもらえるなら僕も買った甲斐がありました」
宋江のその少し冗談めかした物言いに楊志は少し頬を膨らませる。
「あなた、意地悪だわ」
「いやー、魯智深さんとかの気持ちが少しわかる気がして」
「どういう意味よ、それ」
「そこは言わぬが花ということで」
くすりと宋江が笑う。それに対して楊志はますます顔を膨らませていった。
「ま、まあ、そんなことよりどうです。つけてみてくださいよ。正直、女の人にこういうの買うの初めてだから、似合ってるか少し不安で……」
「あ、う、うん……えっとどうやってつけるのかしら?」
「首飾りらしいですから留め金をこうやって」
「うん、こう? 中々うまくいかないわね」
なれない作業に楊志は悪戦苦闘する。
「……もしよかったらやりましょうか?」
自分が予想以上にてこずってるのをみて宋江がそう言ってくる。少し迷ったが楊志はこくりと頷いた。すると、宋江は自分の背面に回りこんでくる。
「髪、少し持ち上げてもらっていいですか?」
「う、うん……」
宋江がすぐ後ろにいるということがひどく落ち着かない。多分、彼が何をやっているか自分の視界には入ってこず、それでいてすぐ近くにいるというこの状況がそうさせるのだろう。宋江がその気になれば、その手を自分の体のどこにだって持っていけるのだから。そして一度触れられたらもう自分は彼には抗えないことが楊志にはわかっていた。どんなに弄ばれようと、どんなに乱暴にされようと自分は彼の成すがままに堕ちていくだろう。それは期待なのか、恐怖なのか。自分でもどちらか判然としない心の動きに惑わされながら、楊志は息すらできずにいた。
だが幸か不幸か、宋江にはそんな気配はまるでない。
「長さ、このくらいで大丈夫ですか?」
「へひゅっ!? ご、ごめん、な、なんですって?」
突然、掛けられた声に心臓が跳ね上がり、変な声を上げてしまう。
「あ、ですから紐の長さ、これくらいでいいのかなって」
「あ、う、うん……い、いいんじゃないかしら?」
適当に返事をして、とにかくこの場をなんとかやりすごしたかった。これ以上、この状態が続けば、
自分のほうが何をしでかすかわからなかった。
「はい、できましたけど、どうでしょう」
そう言ってようやく宋江が離れる。ほっとした安堵とやりきれない物悲しさがない交ぜになる。
(というか、不公平よ)
自分は一々彼の言動に一喜一憂しているというのに、彼はほとんどいつも落ち着いたままだ。
その考えには楊志の誤解と思い込みも若干混ざっていたが彼女の心中の考えを訂正するものもいない。
「ちょっと上過ぎましたかね?」
正面に回った宋江がそう言ってきてようやく楊志は自分の胸元を見下ろした。
翡翠は楊志の鎖骨のすぐ下辺りにぶら下がっていた。傍目からでもよく見える。
「う、ううん……大丈夫、だと思う」
実際はどうだかわからなかったが、少なくとも宋江にもう一度調整してもらうという選択肢は無しだ。宋江が背後にいるのは恐ろしく精神を消耗する。
「へ、変じゃない?」
「ええ、変じゃないです。とはいえ、選んだのは僕だから少し、贔屓目が入ってるかもしれませんけど」
「いいの。宋江から見て変じゃなければそれでいいから」
「あ、あはは……ありがとうございます。そう言ってもらえると、ちょっとうれしいですね。少し、恥ずかしいですけど……」
宋江は赤くそまった頬をかく。
そしてその宋江の返答を聞いて、楊志は自分が何を口走ったか気づかされた。さりとて自分の前言を撤回することもできず、羞恥に顔をそめることしかできない。
「と、ところでね、宋江!」
「はい、なんでしょう!」
強引に話題を転換させる。宋江も何故か居住まいをぴしりと正す。顔はまだ赤いままだ。
「あ、えっと、あの……」
とはいえ、何か話題があったわけでもなくしばし楊志は宙に視線を惑わせる。
「そ、そう! あれよ! えっと……わ、私も、あの、宋江にもらってばっかりじゃあれだから何だから何か、欲しいものとか無い?」
急場しのぎにしてはいい話題ではなかろうか、と軽く自画自賛しながら楊志は宋江に語りかける。
「えーと、欲しいものですか。いえ、特には無いですけど……」
「そ、そうなの?」
「というか、そんなお返しだなんて気にしないでください。僕があげたくてあげたものなんですから楊志さんが負担に思う必要は無いですよ」
「あげたくて……」
宋江の使った言葉をふと繰り返す。
「あ、あの、それじゃあね……もし、私が宋江にあげたいものがあったら受け取ってくれる?」
「ええ、それはもちろん」
「じゃ、じゃあ、そのね、あのね」
所在無げに自分の指先を弄びながら、楊志は次に言う言葉の準備をする。
「あ、あの……」
「?」
「ご、ごめん。やっぱ、なんでもない……」
だが、結局、楊志は次の言葉を言えずに居た。それを言うためには人生の今まで出した勇気を全部集めてもまだ足りなかった。おまけに宋江はなんだかあまりにも無邪気な顔をしていて、なんだかそれを前にして自分の『贈り物』の中身を言ってしまうと、自分がひどく汚れた人間に落ちてしまうような気がした。
「と、とにかく、その、いずれ、お返しをあげるから、ま、待っててね」
「あ、えーと、はい。期待してていいんですか」
「き、期待!? あの、えっと、私、その……いろいろ小さいし、初めてだから、あ、あんまり期待されても困るんだけど……」
「え?」
「こ、この話はまた今度! いいわね!」
楊志は叫ぶようにそう言い渡すと逃げるように足早にその場を去っていった。