甘い言葉に惑わされてはいけません
城から続く大通り――メインストリートには数多くの店が建ち並んでいる。一軒一軒は小さく、内装も所々剥がれていたり汚れていたりするが、品物の質は素晴らしい。商品によっては客によく見えるように店前で呼び込みをしている所もある。
城下町名物のチドル焼きなんかは通りのいたるところでオヤジが汗水流しながら焼いている。こんがりと皮を直火で焼き上げたチキンを食べやすいように裂く。そしてお好みで野菜や果物を平たいパンで挟むのだ。
値段は子どものお小遣いでも買えてしまうほど。庶民的だが、しっかりと肉が食べられるので子どもから大人まで人気の商品である。
「ああ、うめぇ」
カリッとしたチキンの皮と柔らかい肉。口の中で噛めば噛むほど一緒に挟んだ野菜の新鮮さとマッチする。今日は和風醤油ドレッシングをチョイスしたのだが、これがまた良く合う。肉のしつこさが口に残ることもなく、さっぱりとした後味。
ガブリ、ガブリともう二口。
「兄ちゃんずいぶん旨そうに食べるな」
「んあ?」
隣で屋台を開いているオヤジに声をかけられた。日に焼けた肌から浮き出た汗をタオルで拭いている。見るところ昼のピークを過ぎて、今は休憩を挟んでいるところだろう。汗を吹きながらも食材を手際よく刻んでいる。
「これは俺の昼飯だ。やらんぞ」
「他人の店の物を客にたかるか!」
「何だオヤジ、欲しいのかと思ったぞ」
「はん! 欲しけりゃ自分で作るわ」
「そういうのを自画自賛というんだよ」
「自信があるから良いんだよ」
多種多様な店が並ぶメインストリートの先には公共の広場がある。中央には噴水が設置されており、きれいに整備されている。
この広場は昼頃になると屋台が並び、思い思いに人々が休息をとる人気スポットでもあるのだ。普段はただの広場だが、季節によっては催しものをここで開く。デートスポットとしても人気だ。
先程、宰相とのやり取りを終えおおよその場所は把握した。人混みを避けて入った路地裏で頭を抱えてしゃがみこむ。すると、俺の腹がなんとも悲しい音を奏でた。寂しく鳴り響いた腹の音に、俺はようやく足を動かしたのだ。
……宰相を探す前に腹ごしらえだ。
そうして今は通りで買ったチドル焼きを広場の公園で食べている。
「しかし、この国も穏やかになったもんだ」
目の前を子どもたちが走っている。笑い声を上げながら駆け回る姿は無邪気さを伝える。そんな風景を目にしたからか、ふと隣のオヤジが呟いた。
「兄ちゃんも知ってるだろ。この国が戦争でドンパチやってたことを」
「どうしたオヤジいきなり昔話か」
「いや、なんだかふと思っちまった。ワシはもう四十を越えた。今のこの生活が夢みたいでね」
「……これを食い終わるまでは聞いてやるよ」
「兄ちゃん人が良いね!」
「当たり前だ」
そうして、昼時を過ぎた穏やかな日に俺は見知らぬ屋台のオヤジに捕まったのだ。……さて、残り一口でどれだけ話が聞けるかな。
(宰相よ、しばし待たれよ)