総理の一日
いつの間にかこの国は、好感度が全てになってしまった。
「鯖定食一つ」
宮本一文総理大臣。今日の朝食は鯖定食。と、この注文と同時に記者が一斉に詰めかける。
「鯖定食だ…」
「総理!それでもあなた国の代表ですか!?」
記者が宮本にパソコンを向ける。そこにはこんなアンケートが記されていた。『総理に朝食べてほしいものランキング』一位は鮭定食だ。
「国民の期待を裏切って恥ずかしくないんですか!?」
宮本は呆れていた。政策に対しての不満はいくら言ってもらっても構わないが、食事にまでいちゃもんをつけられたくない。しかしこんなのが日常茶飯事なのだ。全ては好感度。総理大臣になった以上、国民の期待に応えなければならないのだ。
これは午後のひとこま。会議が終わり休憩中のこと。
「火」
「はい」
一服しようとしたその時だ。休憩室に記者連中がやって来た。
「おぉ!マイルドセブン8ミリだ!」
一人の記者のその一言に他の記者陣も沸いた。一体何がそんなに嬉しいのか。
「総理、箱は?」
呆気にとられた表情でいる宮本に、記者は容赦なくポケットに手を突っ込む。
「おい!」
宮本のポケットからおもむろにタバコケースを取り出した記者は一変、落胆の表情と化した。
「ソフトだ…」
ため息と共に一人の記者がパソコンを向ける。『総理に吸っていてほしいタバコランキング』一位はマイルドセブンライトボックス。ボックスかソフトかでも違うようだ。ソフトは七位である。
「あのね、私が何を吸おうが構わないじゃないか。私は三十歳の頃からマイセン8ミリのソフトなんだよ。何だよ吸っていてほしいタバコって?だったら吸ってほしくないが一位でいいじゃないか」
「タバコは吸わないでほしい…二十四位ですね」
そう言い残して記者達は項垂れて去って行った。まるで心が休まる瞬間がない。しかし明日は休日だ。一日中家にいれば面倒なことにもならないだろう。
午後十一時。帰宅してテレビをつけたその瞬間、いきなり扉が開いたかと思えば記者の群衆。
「頼む!…あぁ、天気予報」
いつものアレだ。首相官邸ならまだしも、何で自宅まで知ってるのだか。
「一位はバラエティですね」
「ニュースじゃないのか。わかったから出ていってくれ」
自宅にいてもこれだと明日はどうすればいいのか。たまの休みくらいは静かに見守ってもらいたい。好きなものを食べて、好きなものを見て、好きなことをしていたい。何も悪いことはしていない。