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精霊の器 - missing fate -  作者: 荻野まっちゃ
第一章  ケイネの森
4/15

Tale.3  唇は弧を描く

2012.01.18

致命的なミスが一箇所ありました(汗

最後のほうの674年のとこは12年前ではなく8年前です^^;

「アンセル、なんでそんなにイライラしてるの?」


 テーブルの向かい側で頬杖をついているシンシアが言った。

 そう尋ねられるのは当然といえば当然だ。

 アンセルはエフィ達が出て行ってからというもの、落ち着きがない。


「エフィが心配なのも分かるよー?けどさ、ちょっと気にしすぎなんじゃない?」

「黙っとけよ本の虫」

「なんですとぉっ!?」


 シンシアが勢い良く立ち上がるのに合わせてテーブルが揺れる。

 それと同時に彼女がつまんでいたカップケーキが揺られて横倒しになった。

 慌ててそれを立て直す彼女を見つつ、アンセルはため息をついた。

 いくらナルセスが認めるほどの実力があるとはいえエフィは女だ。

 しかも今回の依頼は国からの緊急のもの。

 普通の依頼とは比べ物にならないほど危険でもおかしくない。

 自分と同じ13歳の癖にそんなところへ躊躇もなく飛び込んでいける度胸が羨ましいと同時に、

 同じギルドの仲間として心配だった。

 思考を巡らせつつ前を見ると、カップケーキを再び食べ始めたシンシアが目に入った。

 今の自分の心中からすると、のんびりと彼女らのことを待てる彼女に感心すらできる。


「お前はいつでも暢気だよなぁ…」

「む、褒めてるのか貶してるのかどっちなのかなぁアンセル君?」

「どっちもだよ」


 シンシアの言葉を適当にあしらいながらテーブルに肘をつく。

 その時、ギルドの出入り扉が騒々しく開かれた。


「今帰ったぞ!」

「はぁ、疲れた」

「これしきで疲れるとは鍛錬が足らぬと見えるなルイザ殿!」

「まぁ今回はいろいろあったんだし、大目に見てあげようよ」


 ナルセスたちは帰ってくるなり好き勝手な場所へ散らばり、

 出発前の殺伐とした雰囲気はまるで感じられない。

 少しの間何を考えるわけでもなく彼らを見ていたアンセルは、

 ある事に気が付き椅子から勢い良く立ち上がった。

 それに驚いたシンシアが「にゃっ!」という猫のような声を出す。


「ちょっとアンセル!またケーキ倒れるとことだったじゃない!」


 そう言ったシンシアの声もアンセルの耳には既に遠かった。

 ギルドに多くあるテーブルのひとつに座って談笑していたルシールとハリーに駆け寄る。


「なぁ二人とも、エフィはどうしたんだ?帰ってきてねぇじゃねぇか」

「あぁ、エフィなら直接家に帰ったよ」

「頭をちょっと怪我してねぇ。そこに包帯巻くからって言って。

 それと保護した子が…って、アンセル?」


 思い出すように言葉を綴っていたハリーの前には、既に誰もいなかった。




                    ◇




 ウェインを背負ったまま自分の家に帰ったエフィは、

 普段家で着ている服に着替える前に棚から救急箱を取り出した。

 中を確かめると、包帯は救急箱から溢れんばかりに残っていた。

 これだけあれば自分の応急処置とウェインの分も十分足りるだろう。

 そう考えて救急箱を手にウェインを呼ぼうとしたまさにその瞬間、


「エフィいるかー!って、何だこのチビ!」

「こっ、こっち来るなー!」

「うわっ!何だこれ!?ぎゃあ!」


 勢い良く扉が開かれる音に、どたんばたんという人が倒れる音が相次ぐ。

 同時に、室内にもかかわらず聞こえてくる風の凪ぐ不自然な音。

 エフィは救急箱を近くのテーブルに置くと、音のした玄関に向けて走った。

 そこで見たものは、


「人の家で何してんのよアンセル!」

「いや、お前の家にお邪魔したらこのチビがいて、いきなり吹っ飛ばされて…」

「不法侵入ーっ!!」

「俺の話聞けよ!」


 扉に叩きつけられた格好のアンセルと、半泣きになっているウェイン。

 アンセルが弁解している間にウェインはエフィの後ろに回り、彼女の背中に隠れてしまった。

 怯えているのか背から伝わってくる震えを感じながら、エフィはアンセルを言及する。


「私があんたの話を聞く聞かないの以前に、勝手に上がり込んでくるのが悪いんでしょ!?

 そりゃウェインもびっくりするよ!応戦だってするって!」

「応戦って…風だったぞ!そいつ『精霊の器(セイクレッド)』使いなのか!?」

「ちょっと違うけど説明は後!私とウェインの手当てのほうが先!」

「…俺の手当ては?」

「そんなの自業自得なんだからやらないよ。ウェインこっちおいでー」


 ウェインを手招きしつつテーブルに置いておいた救急箱を手に取る。

 その後をとてとてとついてきた彼を椅子に座らせ、手馴れた手つきで包帯を巻き始めた。

 腕の辺りを手当てしながら、エフィはある事に気が付いた。

 ウェインが纏っているボロ布同然の服の合間から、数え切れないほどの傷跡が見え隠れしている。

 驚いて思わず包帯を巻く手を止める。


「…ウェイン、この傷跡って…」


 ウェインは後ろめたげにエフィから視線を逸らした。


「…シルフを喰った時の傷跡。

 精霊の魔力は人間みたいな小さな器には収まりきらないから、

 それが溢れてくる時に体が裂けるんだよ」

「裂けるって、そんな人形の話してるんじゃないんだから…!」

「俺はこれでもましなほうなんだ。

 他の人はみんな、喰った魔力に耐え切れずに血飛沫上げて死んでったよ。

 大怪我で済んだ人だって、使い物にならないからって森に捨てられた」


 ウェインの口から綴られる言葉にエフィは背筋が凍った。

 止めていた手を再び動かし、黙々と手当てを進めていく。

 二人が口を閉ざしたまま暫く沈黙が流れ、

 やがてその空気に耐えられなくなったようにアンセルが自分の髪をがしがしとかき回した。


「ウェインつったけか?お前、そこに何年居たんだよ」

「8年。」

「8年!?んじゃお前今何歳なんだよ!?」

「12歳」

「は!?」


 口を閉ざしていたエフィも、12歳という単語に勢い良く顔を上げた。

 二人の突然の行動にウェインは驚いて椅子の上で飛び上がった。


「嘘でしょ!?ちょ、一回立ってみて!」

「ふぇ?」

「いいから早く!」


 おずおずと床に立ったウェインの隣にエフィが並ぶ。

 彼が言ったことが本当なら年齢は1歳しか変わらないにもかかわらず、

 ウェインはエフィの肩ほどまでしか身長が無かった。

 アンセルはそれを呆然と見つめ、エフィも隣に立つウェインに目を点にした。


「ウェイン…、君ちゃんとご飯食べてた?」

「あんまり…。ひどい時は1週間に2、3回だけだったり…」


 それを聞いたエフィは手にしていた包帯を放り出して走り出した。

 床に転がったそれを拾い上げつつアンセルは叫んだ。


「おいこら!こいつの手当てほっぽり出して何する気だよ!」

「ご飯作るに決まってんでしょ!

 お情けでアンセルの分も作ってあげるからウェインの手当てよろしく!」


 がちゃがちゃと騒々しい音を立て始めたキッチンを眺め、アンセルは諦めたようにため息をついた。

 仕方なくウェインの手当てを始めたアンセルは、

 自分の前でがちがちに固まっているウェインに気が付いた。

 普段年下に接する機会が少ないアンセルは少し慌てたものの、原因はすぐに理解できた。


「…その、さっきは悪かったな」

「ううん、俺もごめんなさい。いきなりやっちゃって」


 ウェインが肩の力を抜いたのを見て、アンセルは安堵する。

 包帯を巻く手を進めつつ、今さっきの会話の内容を思い返す。

 日常に突然舞い込んできた非日常。

 生きてきた半分以上の年数を苦痛の中で過ごしてきた若葉色の髪の少年。


「お前も苦労してきたんだな…。シルフ喰ったって、どれくらい喰ったんだよ?」

「8年間で50人」

「…!嫌じゃなかったのか?」

「嫌だったよ。けど逃げられなかったんだ」

「…エフィたちが来るまで、か」

「うん…」


 会話が終わってしまい、包帯同士が擦れる音とエフィが料理をする音だけが響く。

 アンセルは今のような状況が大の苦手だった。

 誰の声も聞こえないと途端に不安になってくる。

 何とか会話を続けようと口を開こうとすると、


「あの…」


 ウェインがおずおずとアンセルの服の端を引っ張った。

 包帯を巻く手を止め、ウェインの顔を見る。


「どうした?」

「えっと、その…」

「他に痛いところあるのか?」

「そうじゃなくて…!」


 アンセルの言葉を否定し、ウェインは俯く。

 それを下から覗き込むと彼の顔はほのかに赤らんでいた。

 熱でもあるのかと心配になるが、先に彼の言葉を聞くことにする。


「その…。あの人のこと、何て呼べばいいかなって…」

「ぶはっ!」


 ウェインがつっかえながら言った言葉を聞いた瞬間、アンセルは勢い良く吹き出した。

 堪えようとしたが、含み笑いがどうしても漏れる。

 ちらりと前を見るとウェインの真っ赤に染まった顔が目に入り、ついに耐え切れなくなる。


「…っ、ぶはははははっ!ははっ!」

「わ、笑わないでよ!」

「や、すまん…つい…。くくっ」

「ちょっとアンセル!何やってんの!?」


 キッチンから飛んできた声にアンセルは必死に笑いを堪えた。


「何でもねぇよ、そっちに集中しとけ!砂糖と塩間違えても知らねぇぞ!」


 ようやく笑いの発作も治まり、アンセルは大きく深呼吸した。

 呼び名に困るとは可愛い事この上ないが、ウェインの過去を考えれば当然かもしれない。

 おそらく他人と話す機会などほとんど無かったのだろう。

 

「…まぁ、なんでもいいんじゃねぇかな。

 年もいっこしか違わねぇし、呼び捨てでもいいと思うぜ」

「そっか…」


 どこか物足りなさそうなウェインにアンセルは一つの案を思いついた。

 エフィに対するいいサプライズになるかもしれない。


「呼び捨て以外なら、こんなのはどうだ?」


 にやりと笑いつつ、エフィに感づかれないようにウェインにこっそりと耳打ちした。




                     ◇




「できたよ二人ともー」

「うおっ、うまそー!クリームシチューか?」


 目を輝かせてアンセルが尋ねると、エフィは目をつぶってちっちと指を振って見せた。

 

「残念でしたー。今日の朝買ってきたばっかの魚介類入り、

 私特製クラムチャウダーだよー!」

「いただくぜー!」

「がっつきやがれー!」


 エフィが上機嫌で言うが早いか、アンセルは器を両手で掴み、

 湯気の上がるクラムチャウダーを勢い良く自分の口に流し込んだ。

 エフィはにまにまと笑い、ウェインは呆然とそれを見つめる。

 

「ぶほっ、熱っちいなこれ!」

「あったりまえじゃん、出来立てなんだから」


 それを横目に、ウェインは暖かいスープを一口飲んだ。

 幼い頃から研究所にいた所為で何が使われているのかはまるで分からなかったが、

 ただ素直に、美味しいと思った。

 冷えていた体が中から温まっていく。

 これほど安心できる食事は何年ぶりだろうか。

 そこで、ウェインはアンセルとの先程の会話を思い出した。

 右手に持っていたスプーンを置き、一度大きく深呼吸する。

 

「あの…!」

「ん、どーしたのウェイン?」


 エフィと視線が合う。

 改めてみると綺麗な藍色だなと思い、自然に顔が熱くなる。

 まともに顔を見ていられなくなりウェインは俯いた。

 そして、つっかえながらも言葉を紡ぎだす。


「えと、姉さん…て呼んじゃ駄目、か…な」

「え?」


 エフィが虚を突かれたように目を見開く。

 ちらりと様子を窺うと、エフィがアンセルをきろりと睨みつけているのが目に入った。

 だが、その後にウェインに向き直り、すっと目を細める。

 同時に口元が緩やかな弧を描く。

 エフィは、いつもギルドで見せるような無邪気な笑顔ではなく、

 見ていて安心させられるような優しい微笑みを浮かべていた。


「いいよ。私が君のお姉ちゃんで」

「…本当に?」

「うん」


 快い返事を聞き、ウェインもふにゃりと笑う。

 頬杖をつきながらそれを見ていたアンセルは、危うくスプーンを落としそうになった。

 以前一度、エフィから聞いたことがある。

 彼女の弟は8年前の新暦674年、両親と共に火事で亡くなっている。

 生きていれば、ウェインと同い年ということになる。

 それを踏まえての作戦だったのだが、どうやら目論みは見事に外れたらしい。

 弟と目の前の彼を重ねたのだろうか。だが、そうだとしても…。


――何で会ったばっかのやつに、そんな顔するんだよ…。


 アンセルが抱いた思いは、間違いなく嫉妬だった。

エフィ「こんっちはー!エフィ=バーントシェンナです!」

ウェイン「ウェイン=ヘリオトロープです」

エ「今回から後書きの欄を使って、この物語の紹介をしてくよー!」

ウ「本当は本編で紹介できればいいんだけど、

  設定ややこしい上に作者が文才ないからなぁ・・・」

エ「ウェイン、あんまり言うとかわいそうだよ」

ウ「そうだね。それじゃあ今回の本題に入ろうか」



ウ「てなわけで、今回は俺達の身長を公開したいと思います」

エ「本編でウェインが極度のチビって分かったから

  ちゃんと紹介しないとねっ!」

ウ「・・・」

エ「あ、ごめん。傷ついた?」

ウ「いいから話進めてよ」

エ「うん・・・(拗ねてるなこいつ・・・)

  えと、まずは私の身長ね!今現在156cmだよ」

ウ「俺は132cm・・・て、何笑ってんの姉さん!」

エ「いや、やっぱちっちゃいなぁって・・・」

ウ「いいよ!今から伸びるから!」

エ「あぁはいはいごめんってば!

  ちなみに、馬鹿アンセルの野郎は153cmだよ」

ウ「(相変わらずだな・・・)まぁいいや。

  今回はこのくらいにしとこうよ」

エ「そだねー。それじゃあ、また次回で!」

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