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精霊の器 - missing fate -  作者: 荻野まっちゃ
第一章  ケイネの森
2/15

Tale.1  モンブランと緊急依頼

本編第一話になります。

いきなり登場人物がどっさりなので、話が落ち着き次第整理したいと思います。


12/11 都合上大きく編集しました。

 貿易で栄える国カーディア。その中でも活気ある港町アダーラ。

 エフィ=バーントシェンナはその町にあるギルド【白い鷲(ホワイトイーグル)】に所属している。

 時刻はもうすぐ午後4時。

 夕飯の惣菜などを買いに、各家の女性陣が市場へと出かけていく頃だ。

 そんな光景を窓から眺めつつ、エフィはテーブルに置いたモンブランをついばんでいた。

 その様子は、さながら小鳥のようである。 


 「おーいたいた!エフィ!」


 突然頭上から降ってきた声に、エフィは一度手を止めた。

 視線を上げると、紫の髪の女性と眼鏡を掛けた少女が立っていた。

 ショウズリの使い手であるルシールと、本の虫と定評のあるシンシアだ。


「あ、またモンブラン食べてる!本当に好きだねそれ」

「いいでしょー。あ、あげないからね?」


 手を伸ばそうとしていたシンシアから、エフィはモンブランをすすすと遠ざけた。

 途端、頬を膨らませるシンシア。


「くれないのー?」

「あげませーん。さっきケトラからショコラケーキ貰ったの知ってるんだから」

「なっ、何ゆえっ!?」


 わざとらしく言う。エフィがため息をつくと、ルシールが苦笑した。


「…唇にいっぱいついてる」

「うそっ」

「嘘じゃないわよ。なんでこんなとこで嘘つかなきゃいけないの」

「ルー姉の言うとおりー」

「むぐぐ…」


 エフィとルシールから一歩二歩と距離を取ったシンシアは、

 勢い良く踵を返して何処かへ行ってしまった。大方また食べ物を貰いに行ったのだろう。

 ちなみに、シンシアはエフィより一つ年が上だ。…あの様子ではとても見えないが。

 モンブランに視線を戻してフォークでつついていると、思い出したようにルシールが言った。


「そうそう、エフィは噂聞いた?」

「?…何の?」

「…口に付いてる」


 エフィは慌てて口元を押さえた。結局のところ、自分もシンシアと同レベルらしい。

 傍にあったナプキンで口を拭いているとルシールは再び笑った。


「まぁ大したことじゃないんだけどね。

 マスターが慌てて飛び出していったから、何かあったんじゃないかな、ってだけ」

「へぇ~マスターがねぇ。

 酔って壊しちゃったお店から賠償金の請求が来た、とかだったりしない?」

「そんな笑い話ならいいんだけどねぇ」


 と冗談のように言いつつ、背負ったショウズリに手を掛ける。

 彼女が緊張したときにする癖の一つだ。

 エフィもそれにつられて、肩から斜めに提げたフランベルジュの鞘を軽く握った。

 その直後、ギルドに出入り扉が音を立てて開かれた。

 驚いて音のした方に目を向けると、鮮やかな夕焼けを背に一つの大柄な影が。

 彼女たちのギルドマスター、ナルセス=ローアンバーがそこにいた。

 騒がしかったギルドのメンバーが静まり返る。

 右手にフォーク左手にフランベルジュという体勢のままエフィもマスターを見つめる。

 ナルセスは一枚の紙を前に突き出すとよく響く声で言い放った。


「御国からの緊急依頼だ!」


 静かだったギルドが騒然となる。

 緊急依頼は、その名が示す通り即急な対応を求める依頼のことである。

 そして今回の依頼主は御国、つまりカーディア王国の女王陛下。驚くのも無理はない。

 問題なのはその依頼内容だ。


「静かにしろッ!」


 いつになく切羽詰ったナルセスの声。

 こんな声はいつも陽気な彼にしては珍しかった。

 それほどの内容なのだろう、今回の依頼は。

 メンバーたちにもそれが伝わったのかそれぞれの武器に手を掛ける音が相次ぐ。


「一度しか言わねぇからよく聴け!

 今からケイネの森にある違法研究所を潰しに行く!

 メンバーはハリー、クロード、アーヴィン、ランダル、ルイザ、ルシール、

 エフィ、グリフィス、んで俺を含めた9人!残りの奴はいつもの警備をしておけ!

 10分後に出発する!」


 それだけ言うと、ナルセスはどかどかと足音を鳴らしながら自分の部屋に戻っていった。

 エフィは息を吐くとルシールに顔を向けた。


「ルー姉、大正解」

「私の勘もたまには当たるもんでしょ?」

「だね」


 言いつつ立ち上がりながら、モンブランにフォークを突き刺した。

 そのまま、大きく開けた口に突っ込む。

 少し粉の付いた手をパンパンとその場で払っていると、

 エフィの肩にぽんと誰かの手を置かれた。


「エフィ、帰ってきてから床掃除だぞ」

「…分かってまふ」


 もごもごと言いつつ振り向くと笑顔のアーヴィンが視界に入った。

 その隣に、彼とは頭一つ分背の低いアンセル。

 アーヴィンはフリッサの使い手でエフィの剣の師匠であり、

 アンセルはエフィと同い年で喧嘩仲間、もといバカップルである。


「ずっりぃの!同い年の癖にエフィだけ行きやがって!」

「…むふん。男の癖に私より背ぇ低い君には言われたかないね。

 それに、このギルドにいるのは私のほうがアンセルよりずーっと長いもん!」


 ずっと、のところを強調してエフィが言うと、アンセルは拳をわなわなと震わせた。


「言ったなこの馬鹿エフィ!」

「馬鹿っていた方が馬鹿なんだよこの筋肉馬鹿!そんなんだから背ぇちっちゃいんだよ!」

「なんだとこの!」

「なによ!本当のことじゃん!」

「おいお前ら!緊急依頼だって言ってただろ!

 エフィはさっさと準備してこい!アンセルも一々突っかからない!」


 その声と同時に、エフィとアンセルの頭上に鉄拳が落下した。

 男も女も同じように扱うのがアーヴィンの特徴である。…今のような場合でも。 

 エフィはアンセルにべーっと舌を出して見せると、フランベルジュを背負い直した。

 彼もまた同じようにやり返すと何処かへ走っていった。

 そこで気付いた。依頼に行くとしても、重要なところを聞いていない。


「アーヴィンさん。ケイネの森の違法研究所って、何の研究してんの?」


 ルシールもエフィに同意してこくこくと頷いたが、

 アーヴィンは唸りながら右手を顎に添えた。


「俺も詳しくは知らないんだ。だが、『精霊の器(セイクレッド)』が関係してるらしいぞ」

「「『精霊の器(セイクレッド)』ぉ!?」」


 エフィとルシールの声がハーモニーを奏でた。

 『精霊の器(セイクレッド)』というのは、その名の通り精霊の力を秘めた武器のことだ。

 四大精霊で魔力を持つシルフ・サラマンダー・ウンディーネ・ノーム。

 彼らは力を認めた人間の武器に自分の魔力を分け与え、

 その武器はシルフなら風、サラマンダーなら炎といったように精霊の力を扱えるようになる。

 だが、精霊は全ての魔力を使い切ると死んでしまう。

 言い換えれば、『精霊の器(セイクレッド)』を創るのは彼らにとって命を削ることなのだ。

 精霊に認めてもらうのは一筋縄ではいかない上に強い精神力も必要なため、

 『精霊の器(セイクレッド)』を使う人はごく稀なのだ。

 とは言っても、各国にあるギルドのマスターたちは、これの使い手であることが多いのだが。

 この【白い鷹ホワイトイーグル】のマスターであるナルセスもその一人だ。

 けれど、今回の依頼はその研究をしていると思われる違法研究所の破壊。

 そして関係者たちの逮捕。

 しかも場所は、凶暴なモンスターが数多く生息するケイネの森。おそらく現場は地獄だ。


「エフィ、ぼーっとしてたら置いてかれるわよ?」


 ルシールの声にはっとすると、出入り扉の前に出発するメンバーが揃っていた。

 いなかったのは考え事をしていたエフィだけ。


「い、今行くっ!」


 ぱたぱたと走りながら、エフィは思考を巡らせた。

 気がかりなことはいくつかあるが、大丈夫だろう。

 ギルド最強の女と名高いハリーやマスターであるナルセスもいる。戦力は言うことなしだ。

 帰ってきたら見事に依頼解決だとアンセルに自慢してやろう。

 向かうは、ここから北に位置する広大なケイネの森。

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