*ディラン
「スナイプ星が……」
老人はか細くつぶやいた。
「……」
『球を生み出した責任』
星はそう言った。
己自身でも止められないモノにさえ責任がともなう。それがこんな結果にもなるのか。と、白銀は大きな輝きを放ち崩壊してゆく星を見つめた。
惑星は消滅は免れたようだがもはや人が住める星ではなくなった。白銀は小さく溜息を漏らしてシートの背もたれに体を預ける。
「とりあえず……残りの金を貰おうか」
切り替えてナナンに発した。
「故郷が消えて泣いておる老人から金を取るとは悪人じゃな」
白銀はふっ……と薄笑いを浮かべた。
「そう言うと思ったよ。こっちもな、前金100万で星をぶっ壊すとは思わなかったね。後の200万よこせ」
実際は仲介料込みなので彼に丸々100万が入る訳ではない。
「そんなものをむやみに持ち歩くと思うのかね?」
「だろうな。近くの惑星に降りるぞ、船の修理や補給もしないと。金を頂いたらジイさんともお別れだ」
「えぇ~?」
とても残念そうにつぶやく老人に目をやったあと肩を落として大きな溜息を吐いた。
「ジイさん……本当に金はあるんだろうな?」
「あ、当たり前じゃ! ちゃんと年金が銀行に入っとる」
年金ねぇ……そんなものスナイプにあったっけか? 半信半疑の白銀に通信が入る。
「ディランか、なんだ?」
<今どこにいるんだ?>
「今? スナイプの近くだ」
<ええっ!? スナイプって原因不明の崩壊を始めたって星じゃないか!>
白銀は苦笑いした。その張本人が自分です。なんて言えない。
<まあいいや、そこからなら『リューシャン』に近いだろ。来てくれよ>
「リューシャン?」
確か銀河連邦の本拠地じゃないか。
<政府がまたお前に頼みたいんだってさ。シエンナ空港にヨロシク>
「……」
用件だけ言って切りやがった。旅費と修理代に金が欲しいのは確かだ。もっとも、口座の方にはかなりの金が入ってはいるのだが。
空港に着くと白銀は船の修理を頼み、あれから連絡のあったレストランに向かう。個人が持つにはデカすぎると言ってもいい船に修理を頼まれた男たちは『この男はどんな金持ちなんだ!?』と呆然とする。
「なんでジイさんまで来るんだ」
「金が欲しいのじゃろ、わしを見張っておかんと逃げるぞ」
「言ってろ」
呆れて止める気にもなれなかった。今回は別に隠しておくような仕事でもないし。それにスナイプ人なら裏の仕事も隠す必要は無いか。
レストランに入ると一番奥のテーブルにディランがいた。白銀を見つけ笑顔で手を振った。
「!」
ふとついてくる老人に目をやる。
「誰この人」
「ん、ああ。気にするな」
「どうもどうも、ヨロシク。ナナン・セリオルじゃ」
「あ、どうも。ディラン・ウォレストマンです」
老人から差し出された手を素直に取って握手を交わす。その光景を白銀は席に着きながら溜息をもらした。彼はお人好しなのだ。
「おぬし、連邦に友人がいるのか。大したもんじゃな」
「別に俺が凄い訳でも、こいつが凄い訳でもねーよ」
「あはは、確かに。たまたま受けたら受かっただけだもんな」
なんだそれは……そんな軽いノリで受けられちゃ連邦だってはた迷惑だ。相変わらずの軽い親友に白銀は心の中で呆れた。
「で、依頼の内容は?」
「そりゃ遺跡発掘。えーとね、『ガースノリティ』だ」
「工業惑星だな」
あそこは数千年前から工業惑星として栄えていた所だ。遺跡にもその手の情報があるだろう。
「立ち入り禁止区域にその遺跡があるんだ。何度やっても起動してくんないんだってさ」
「なるほど。で、今回も俺とお前だけか?」
「いいや、向こうに何人か調査員が待ってるってよ」
という事は今度は本気の依頼か。また腕試しなら断ってやろうかと思ったが。
「いつ出発出来る? 俺はお前の船で一緒に行くから連絡してくれよ。こっち(調査員)はもう準備出来てるんだ」
「そうだな……2日後に港に来てくれ」
「wilco! じゃな」
ディランは伝票を持ってテーブルから離れた。払ってくれるのは有り難い。注文しておいた料理に口を運ぶ。文句は言えないが俺が作った方がマシだと思う程の味だ。
「どうした? ジイさん」
何か考え事をしている老人に白銀は声をかけた。不味くて手が進まないのか?
「ああ、いや。なんでもない」
2人はこらえながら料理を完食した。外に出てジュースを一気飲みして料理の味を消す。
「はあ……不味かった。あそこはあいつがよく行くトコらしいが」
「お前さんの友達は味覚オンチか?」
「それを言ったらあそこの常連はみんな味覚オンチだぜ」
これで流行ってるんだから不思議だ。
約束の日──ディランは港に行き白銀の船に乗る。
「それにしてもデカい船じゃのぅ~」
リビングルームで老人がディランに言った。白銀は進路の調整にコクピットにいる。それまでずっと老人は白銀と共にいた訳だが、残りの金を払うと言いつつ一向に出す気配は無く白銀は頭を抱えていた。
いっそ金は諦めて追い出してやろうかとも考えたのだが、『身寄りがない』とか『老人を足蹴にするのか』とか言いたい放題言われ追い出せずに今に至る。
「まあね~ここがあいつの家みたいもんだから」
コーヒーを傾けながらディランは応える。2人はのんびりと語り合っていた。 老人はお茶をすすり溜息1つ。
「と、いうとご両親は……?」
「それは──」
「そんな事聞いてどうする気だ? ジイさん」
進路の調整から戻ってきた白銀が厳しい口調で老人に低く問いかける。少しの怒りがその瞳から窺えた。あまり聞いて欲しくない事らしい。
「別に、ちょいと気になっただけじゃ。普通気になるだろがその年ならご両親がいたって別段不思議ではないし、親御さん心配しないのかとかね」
「そういう時だけは随分とろれつが回るじゃないか。金の事になると年寄りぶった言い方するくせに」
今まで怪しい奴は色々いたが何が目的なんだ? このジイさん。悪人ではなさそうだが。
「聞きたいっ聞きたいっ聞きたいのじゃ!」
「お、おいシルヴィ。なんとかしろよ」
「解ったよ……」
まったくこのクソジジイ。人の事聞いて何が面白いんだか……白銀は溜息混じりにイスに腰掛けるとゆっくりと話し始めた。
「そんな期待されるような事は無いぜ。親父は行方不明、おふくろは病院」
それだけ言うと部屋は静まりかえった。
「……それだけ?」
「それだけ」と、白銀。
「うん」ディランもうなずく。
「親父殿の行方不明とは?」
「知らねーよ。俺がまだ小さい時にいなくなったってだけだ」
「母上殿の容態はいかがじゃ?」
「さあ」
白銀の表情が少し硬くなった。あまり思わしくない様子だ。
「子供なんか産むからだ」
「! シルヴィ! お前まだ……」
※wilco= I will Complete(「了解」という意味)