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*マナ・グロウブ

 生まれついてのエナジー・ブレインである彼らの意識に流れ込んできたのは……

『惑星の拒絶する意思』

 彼らは愕然とし争い合った自分たちを恥じた。そうしてこの惑星は無人となったのだ。

 閑散かんさんとする宇宙港に降り立つと、老人は懐かしい空気を静かに味わった。それでも星の拒絶する意思は伝わってくる。嘆きたい気分になるが彼はそれをぐっとこらえた。

「強烈だなこりゃ」

 白銀は濃いむせかえるような霧の中にいるような感覚で一瞬目がくらむ。普通の人間には感じる事の出来ないエネルギー、しかし確実に存在する力。

「慣れたかの? お前さんには少々つらいかもしれんな」

 そう言って白銀に目線を移すと老人はビクリと体を強ばらせた。拒絶されている自分とは違い、彼の周囲には淡い色をしたマナが取り巻いていた。

 あの時から全てを拒絶してきたはずの『スナイプの意思』が彼だけには違う意思を表している。

 白銀はそれにはまったく気付いていないようだが。

「で、ジイさん。どこの火山に放り込むんだ?」

 聞かれてハッと我に帰った。

「あ、ああ。ここから南に20km程行けば大きな火山がある。そこじゃ」

「じゃあ車がいるな。そこで待っててくれ」

 白銀は宇宙船の中に消えた。

 その間、老人は何かを考えているようだったが車で来た白銀を見ると溜息混じりに発する。

「遅いのぅ」

「うるせぇな……早く乗れよ」

走らせる車の中でナナンはぼそりと問いかけた。

「スナイプはどうじゃ? 白銀」

「ああ、いい処だな」

「クックッ……こんな星がかね? 廃墟ばかりだ」

 老人はそれを聞いて苦笑した。

「確かにな。でもいい処だぜ」

「……ありがとう」

 火山近くまで来ると車では無理そうだった。2人は歩いて火口付近まで近づく。歩みを進めるにつれ足下から熱が伝わってきた。

 噴火はしていないようだがいつ火を噴くとも限らない緊張感が辺りを満たしている。

 斜面を登る。途切れた部分が近づいてきた、あそこが火口だ。登り切った処で灼熱の溶岩が2人を迎える。のぞき込むと吸い込まれそうになる。

「さすがに熱いな。ジイさん早くしろよ」

「……」

 取り出した『マナ・グロウブ』を老人はしばらく見つめた。

「! 何を……」

 老人はそれを白銀に差し出した。そして静かな眼差しで白銀を見上げる。

「お前さんが放り込んでくれ。わしではダメなようじゃ」

「!?」

 いきなり何を言い出すんだこのジイさん。と白銀は驚いてナナンを凝視した。

「な……っ」

 どうやら本気のようだった、少しもその手を引っ込める気配は無い。

「なに……言ってる。自分でやれよ」

「わしではだめなんじゃ、星がそう言うておる。お前さんでなければ星は納得してくれん」

「納得ってなんだ? ただ放り込むだけじゃ壊れないのか?」

 しぶっている老人に白銀は再び問う。

「ジイさん。はっきり言えよ!」

「これは膨大なマナを蓄えている。と言ったな。それを放り込むのだ、星自身もただでは済むまい」

 白銀はその言葉に愕然とした。

 それはつまり──

「この星が崩壊するって事か? そんな事をあんたはするためにここに来たのか。それを俺にやれって言うのか!?」

「お前にさせるつもりは無かったのじゃ。だが、星はお前を望んでいる」

「星だって? 星なんかに意思なんてあるものか! 俺はゴメンだ。人様の星を破壊するなんて!」

 拒否する白銀に老人は必死に訴えた。

「他の星はそうかもしれん。だがこの星だけは、スナイプだけは違うのじゃ! お前さんでなければ星はこれを壊してくれないと言うのじゃ。壊さずに再びこれを吸収すると言うんじゃよ! 頼む……」

 すがる老人に白銀は大きく肩を落とした。

「だったら吸収させればいいじゃないか。それでそいつは消えるんだ、あんたの望んだ通りだろ」

 俺には理解出来ない、星を崩壊させるなんて。

「違う! わしの望みはこの球の破壊じゃ。2度と再びこの球が生まれないようにするのじゃ」

 老人は大きくかぶりを振った。白銀はその言葉に眉をひそめる。

「ちょっと待てよ……なんでこの星の崩壊とその球が関係あるんだ?」

「『マナ・グロウブ』はこの星で生まれる……スナイプの大いなるマナは際限なく生み出され、周り切らなくなったマナが固まり出来上がるのじゃ」

「! そんなカラクリが……」

「お前さんは伝説としてしか知らんじゃろう。だが、こいつは確実にこの世を波乱に導く……これ以外にもまだあるかもしれん。もうこれ以上こいつを増やしてはいかん! 増えれば増える程、波乱は拡がっていく。この宇宙全体を覆い尽くすかもしれんのだ」

 決断が迫られていた。

「……」

 白銀は老人から球を受け取る。

「悪い気は発してないぜ。それでも放り込むのか」

 優しく包み込むマナが体に流れ込んでくる。これを放り込む……?

「それは持つ者の善し悪しで決まる。お前さん、それを永遠に持つつもりか?」

 色んなモノを引き寄せる球体、そんなものを持っていればどうなるか解らない訳じゃない。

 だが、こんな球と引き替えに星が1つ消えるかもしれないと思うと躊躇して当たり前だ。そんな白銀の頭の中に静かな声が響き渡る。

『早く投げなさい、あなたが気にする事ではない。これは私の責任でもあるのだから』

「えっ!?」

 振り返る、誰もいるはずなどないのに今のは……?

「どうした。星の声でも聞いたかの?」

「ジイさん……」

 老人の顔を見て、おもむろにマナ・グロウブを火口に投げ入れた。溶岩の中に消えていく球を見つめたあと白銀は老人を連れて急いで降りる。

 こんな処でのほほんとしている場合じゃない。早く逃げないと星が! その途端、地面が小刻みに震えだした。

 ハンドルをとられながら宇宙船まで車を走らせコンテナにそのまま乗り込む、駆けだしてコクピットまでの間に揺れは大きくなっていた。

「ジイさん座ってベルトをしっかり閉めろ!」

「こ、こりゃ凄い揺れじゃな……」

 その間にも、地面が船を飲み込もうと音を立てて割れ始めている。エンジンを目一杯ふかして飛び立つ。

 なんとか飛び立っても油断は出来ない。必死に速度を上げて惑星から離れようとするが、崩壊を始めた星はその重力を強めていく。

「チッやばい……ジイさん姿勢を低くして衝撃の準備しろっ衝撃波が来るぞ!」

 重い音が船全体に響く、後ろから突き上げるような激しい衝撃が何度か襲ってきた。しばらくするとそれも消え静かな空間が拡がる。

 もう大丈夫だろうと速度を落としコクピットを惑星に向けた。

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