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Expansion-エクスパンション-  作者: 河野 る宇
◆第1章~ストライダー
3/18

*ナナン・セリオル

 女は周りに無数の光る球体をちらつかせた。あれが一斉に襲いかかってきたらさすがの俺もヤバいな。と白銀は苦い表情を浮かべる。

「仕方がない……」

 つぶやいた瞬間──無数の光る矢が彼に向かってきた。

「!?」

 舗装された地面は大きく砕かれ風が舞い、激しい攻撃に土煙が視界をさえぎる。

「……」

 煙が風に運ばれ女が白銀のいた場所に目をやる。

「! さすがね」

 彼の周囲1mには円形に形作られた線が描かれ攻撃が当たらなかった事がうかがえた。

 その右手は、スラリと女性を思わせる手に変化している。防御していた腕を降ろし白銀は女を睨み付けた。

「ライナ、俺に敵わない事くらい知ってるんじゃないのか?」

「……」

 女は冷や汗を流す。確かに勝てない相手だと知っていた。それでも勝算はあったのだ。

「あなたは優しすぎるのよ」

 その言葉に白銀は口の端をつりあげる。

「なるほど。俺の甘さを狙ったか」

 だが女はそれでも男には勝てなかった。この先戦ったとしても結果は負けだ。傷を負ってまで負ける勝負はしない。

 ライナは諦めて自分の船に歩みを進めた。船に入る直前ライナは白銀に目を向けてつぶやく。

「出来ればこんな再会の仕方、したくなかったわ」

 でも……女は次の言葉を飲み込んだ。彼なら解ってくれるだろう。

「……ライナ」

 もちろん白銀は彼女の行動を理解した。自分は狙われているのだと気付かせるための攻撃だと。

 飛び立つ宇宙船を見送って白銀は自分の船に戻る。

「誰だ?」

 コクピットに入ると知らない老人がそこにいた。見た処、地球人ではなさそうだが。

「ナナン・セリオルじゃ」

「ああ、依頼人か。ちょっと待っててくれ」

 白銀はひと息つくためにイスに腰掛けた。乾いた喉を水分でうるおす。

 そんな青年に老人はおもむろに話しかけた。

「お前さんの彼女か?」

 白銀は不機嫌そうに答える。

「元彼女だ。そもそもなんだって俺が狙われるのか……」

 これ以上の詮索はお断りだ。白銀は話題をふった。

「で、何を倒せばいいんだ?」

「おお忘れとった。自己紹介がまだだった。わしはナナン・セリオル。スナイプ人じゃ」

「スナイプ人か。どうりで」

 独特の容姿は地球でいう爬虫類に似ている。彼らは生まれながらにして特殊な力を持つとされ、白銀たちの言葉で言えば『エナジー・ブレイン』だ。

 平たく言えば霊能力者や超能力者である。

「スナイプなら自分でなんとか出来るんじゃないのか?」

「こんな老人にかね? 冗談も休み休み言え」

 確かにかなりの高齢には見えるが……緑の肌と白く長い髪を見やる。

「すまんね。スナイプの見た目の年齢はわからないもんで」

 個々の区別だってつかない。スナイプ人から言わせれば人間の区別の方が付きかねない。

「それで何を倒せばいいんだ」

 再度、聞き返す。いつまでじらす気なんだこのジジイ。と白銀は急かすように語気を少し荒げた。

「とても難しいモノじゃよ。お前さんに手伝って欲しいんじゃ」

 そう言うと老人はおもむろにバックパックに手を入れた。

 そこから出てきたものは──

「なんだそれは? 随分変わった波長を……」

「お前さんにこれを『倒す』のを手伝って欲しいのじゃ」

 それは直径15cm程の淡い色を不定期に変える不思議な輝きを放つ球体。

「……」

 見たことも無い輝きに白銀は目を奪われそうになる。囚われそうになる意識から白銀は我に帰ろうと頭を振った。それを見た老人は安心したように小さく溜息を吐き出す。

「これはこの世にあってはならぬモノじゃ」

「一体なんなんだ。これは」

「わからんのか? お前さんともあろう者が」

「……?」

 言われて再びまじまじと見つめる。意識を奪われないように、自我をしっかりと持ちつつ。

 伝わる波長がいつも森の中で感じるソレに似ていると思った。

「お前さんなら解るはずじゃ。いつもマナを感じていたろう?」

「マナ?」

 思い出そうと目を細める。どこかで感じた感覚……マナ、大いなるマナの──

「! まさか『マナ・グロウブ』!? しかしあれは……っ!」

「この世に破滅をもたらす球。わしはこれを破壊したいのじゃ」

「破壊……」

 白銀は息を呑んだ。伝説とも言うべき『マナ・グロウブ』が目の前にある。これを手にすれば全てが思いのままと伝えられるエネルギーの集合体だ。喉から手が出るほど欲しがってるヤツはごまんといる。だが……

「これはあってはならぬもの。お前さん欲しいのか?」

 ひょい、と俺の前に差し出した。

「……っ」

 気軽に手渡そうとして白銀は少し体を強ばらせる。

「壊すならどこでも出来るだろ」

 青年は喉を詰まらせた。

「これを何だと思っとる。膨大なマナを蓄えたモノじゃぞ。むやみに刺激を与えたらどうなるか考えんかい」

 怒られた、なんで俺が怒られにゃならんのだ。ふてくされてジジイの言葉を聞く。

「向かって欲しいのは我が故郷スナイプ星。その火山にコレを放り込む」

「なんでそれが俺にしか出来んのだ。そんなの自分でやれよ」

 するとまた老人が怒り出した。

「出来ないから頼んどるのだろうが! ここまで来るのに必死だったのじゃ! 波乱をもたらす球は色んな物を引き寄せる。何の関係もない者たちを巻き込む訳にはいかんのじゃ!」

 いい加減にしてくれ、俺が怒られる道理はない。

「俺だって関係無いぜ。巻き込むなよ」

「関係ない訳なかろ」

「何故だ」

 しれっと応えるナナンに白銀はぶっきらぼうに問いかけた。

「ここまで知ってしまった以上、無関係ではなかろうが」

「……」

 しばらくの沈黙──

「しまった! 騙したなジジイ」

「フフン、じっと聞いてるお前さんが悪い。さあ後戻りは出来んぞい」

 ゴーゴー! と俺を急かせるこのクソジジイ、宇宙に放り出してやろうか。白銀は本気で殺意が芽生えそうになった。

 なんてこった。とんでもないモノに関わっちまった。変な組織には狙われてるし、この先どうなる事やら……

 頭を抱えて向かった座標は『惑星スナイプ』──そこはすでに無人の星。

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