*頬に添えられた手
どうしたものかと当惑していると突然、素早い何かが飛び出してきて仲間たちを打ち倒していく。
「うっ!?」
その緑色の影は一通りサタニストたちを倒し持っていた武器も弾くと立ち止まった。
「こんな動きにも追いつけんのか。情けない」
ニヤリとリャムカが笑う。
「きっきさま!?」
「もうよい。争うのは無駄じゃろう」
ナナンがサタニストたちをなだめるように言いながら出てきた。
「そうそう。みんな仲良くね」
ディランが呑気に言い放ちニコニコと笑う。
「……」
その明るい雰囲気に毒気を抜かれ肩を落とした。
「お師さま」
「うむ、急ごう」
4人は足早に建物に入っていった。
入ってすぐ特殊なレーザー武器を持った男が数人ナナンたちに銃口を向けてきた。
「わあっ!?」
「エイルクそのままじゃ」
「ええっ!? いくらおいらでもこのレーザーは無理だよ!」
「いいから黙っておれ!」
ナナンは何かの言葉を口の中で唱え右手をエイルクにすいと向ける。その動きと男たちが引鉄を引いたのとはほぼ同時だった。
「ぎゃー! ……ってあれ?」
死んだと思って両手を挙げたエイルクの体は鏡のようになり敵の攻撃を乱反射していた。
「……何これ」
ディランがぽかんと見つめているとリャムカが説明した。
「物質の変換だ。一時的に彼の表面の組織を変換した」
「うわ、すげ~」
エイルクは自分の体をマジマジと眺める。
「鉱物がいて役に立ったな」
リャムカは皮肉混じりに応えた。乱反射とはいえ攻撃した男たちはダメージを受けたようだ。うずくまって唸りを上げている。
「とにかく奥じゃ! とんでもないエネルギーを感じる」
キラキラと輝くエイルクを手前にしてナナンたちはさらに奥に走っていった。
「おいらを盾にすんなよ!」
「ここで役に立たないと故郷に送り返すぞ」
「……」
リャムカの一言でエイルクは黙り込んだ。
「……」
鬼だなリャムカ……ディランは彼の後ろ姿を見つめる。
一応その手にサタニストたちが持っていた武器を持っているがこんなものが役に立つのか不安だった。
それでも親友を助けるためディランの目はいつになく真剣だ。
「なんというエネルギーだ……」
権天使の1人は部屋を見回した。
「これはマナ・グロウブの……」
「そう。このエネルギーにより次元の扉は開かれる」
増大していくエネルギーにアルシオは口の端をつり上げた。
「!」
白銀は魔法円の文字と位置に気が付いた。
「シルヴィ!」
そこへディランたちが現れて白銀は「まずい!」という顔をする。
「ディラン逃げろ! そこにいてはだめだっ」
必死に声を張り上げた白銀にナナンはすぐに察した。
「こりゃまずい! 白銀のいる魔法円に入るのじゃ!」
「え? どういうコト?」
「いいから走らんか!!」
首をかしげているエイルクにナナンは怒鳴る。
「!」
駆け足で魔法円に入ってきたナナンたちにアルシオは小さく舌打ちした。
エネルギーの制御と権天使たちの動きを止める事で手一杯なため彼らに攻撃をしかけられない。
「くっ……このままでは我らも危ない」
必死で耐えていた権天使たちは仕方なくその場から消えた。ほっとしたアルシオが次はナナンたちだと顔を向けようとした時──
「うわぁ!?」
「一体何がっ」
「助けてくれっ!」
白銀たちとは違う魔法円にいたサタニストたちが次々に消えていく。
「どういう事……?」
ディランが恐る恐るナナンに訊ねた。
「本来、悪魔は魔法円の外に現れるんじゃ。正しい文字を描いている限り奴らはこの中に入る事は出来ん」
魔法円とは召還者を守るものなのである。
ナナンは応えたあと目の前の黒い渦を凝視した。
「とうとう……ルシファーが」
杖を持つナナンの手が震える。
「ぐ……っ」
リャムカでさえも迫り来る強大な気配に顔をゆがめた。
「……」
白銀の鼓動が大きく脈打つ。だめだ……奴をこの世界に呼んでは。
刹那──
「!」
何かが頬をかすめた。白銀はその感覚に微笑む。
「そうか……解った。ありがとう」
「シルヴィ?」
その表情にナナンは眉をひそめた。