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*アルシオ

 白銀を見つけた看護婦にさっそく母親の事を訊ねる。すると看護婦は小さく首をかしげて応えた。

「え? 先ほど様子を見ましたけどぐっすり眠ってらっしゃいましたよ」

「!?」

 聞いた全員が目を丸くした。


「どういう事だ?」

 リャムカが施設から出て口を開く。

「シルヴィをおびき出すための罠だったのかな?」

 ディランは腕を組んで眉をひそめた。

「それが正解じゃろうな」

「……」

 白銀は小さく舌打ちをする。

 この施設に母を預けたのもセキュリティに安心があったからだ。そのセキュリティをかいくぐって彼らが母を拉致したのであればかなり怖い相手だという事になったのだが……

「とりあえずどうする?」

 ディランが聞いた刹那──

「全員おそろいだな」

 小型艇に乗り込もうとしていた一同にアルシオは小さく両手を広げて笑いかけた。歓迎の証とでも言いたげに……黄色い瞳を白銀は睨み付ける。

「やあ、画面で見るよりも綺麗な白銀の髪だ」

 彼の怒りを無視するように平然と言い放った。

「貴様」

「来てもらうよ。セラフィムの息子」

 アルシオの瞳孔が縦に伸びる。

「!?」

 白銀は体の自由が利かない事に気付いた。こいつの能力は……!?

「! シルヴィ?」

 動かない白銀をナナンは一瞥しアルシオに視線を移す。

「おぬし『影縫い』か!」

「ご名答。気付くのが遅いけどね」

 そう言った瞬間──

「うっ……!?」

 建物の影から大勢の武装した男たちがナナンたちを取り囲む。アルシオは勝ち誇った笑みを白銀に向け目を細めた。

「さあ、おいで」

 右手を上品に白銀に向ける。

「うっ!?」

「シルヴィ!」

 足がゆっくりとアルシオに歩みを進める。ナナンはそれを見ているしかなかった。

「良い子だ。眠れセラフィムの子よ」

「……っ」

 目の前に来た白銀にそう言うと抗う事も出来ずに白銀は意識を失った。倒れ込む白銀の体を支え横抱きに抱える。

「それじゃあもらっていく」

 ナナンたちに言い放ちアルシオは白銀を抱えて飛行艇に乗り込んだ。

 乗り込む間際まぎわ「殺せ」と冷たい視線で部下に命令した。

「……来るぞ」

 リャムカは男たちの殺気を感じ取りディランたちに小声で発する。一斉にナナンたちに銃口が突きつけられた。

「ハァ!」

 ナナンが声を張り上げ両手を勢いよく広げると衝撃波が広がった。

「うっ!?」

「何っ?」

 男たちはそれによろめく。

 それをきっかけにリャムカは近くにいる敵から順に攻撃を加えていった。ディランも銃を取りだし応戦する。

「小型艇に!」

 ディランは声を張り上げ皆は小型艇に走り出した。

「わぁーっ!? こええー!」

 エイルクは頭を抱えて体勢を低くし必死に駆ける。


 小型艇に乗り込みなんとか怪我もなく逃げ切れたナナンたち。

「こええぇ~」

 震えるエイルクにナナンは呆れて溜息を漏らした。

「何言っとる……おぬしはダメージなかろうが」

「無くても怖いもんは怖いの!」

 鉱石で出来ているエイルクの体はレーザーや銃弾カートリッジの武器に強い。最も地位の低いダートでさえその体は強靱なのだ。

 さすがにミサイルなどには耐えられないが。

「で、どうすんのこれから」

 落ち着いた処でディランが話題を振った。

「シルヴィの気配を追う。この惑星はマナが澄んでいるのじゃ。奴らの悪意も遠くからでも嗅ぎ取れる」


 一方──アルシオの乗る小型艇。

「……」

 自分の横のシートに寝かせた白銀を座らせてその顔を眺めた。

 熾天使してんしは天使の階級の最上位に位置する位階だ。そのルシファーは最も輝きを放ち神に愛されていた。

 しかし神が別の者を称えた時、嫉妬でルシファーは狂った。そうして彼は神のサタネルとなったのだ。


 1時間ほどして小型艇はとある建物の前に降りる。白銀を丁寧に抱きかかえアルシオはその白い建物に入っていった。

 まるで地球のローマ時代を思わせる雰囲気。掲げられた紋章が悪魔の象徴でさえなければ美しい建造物だ。

 アルシオが奥に進んでいくと途中で色白の細長い男が隣に立ち同じように歩き出した。

「とうとう手に入れたか」

「ああ」

 甲高く響く足音。色白の男は白銀の顔を確認しアルシオに話を振った。

「こんな場所で召還しても大丈夫なのか?」

「彼らは高次元の存在だ、距離など意味が無い」

 アルシオは半ば呆れたように応えた。

 地球では神、天使、悪魔と呼ばれている高次元の存在。それは他の惑星の人間から見ればまた違った名称を示す。

 その力を利用出来れば……アルシオはそう考え彼らサタニストたちと共にいるのだ。彼はサタニストたちを見下している。神秘的な存在だと思っている彼らを。

 高次元の存在に勝手な解釈を付けて神格化しているに過ぎない。アルシオはそう考えていた。

『そもそも神などいるものか』彼は鼻で笑う。

 しばらく歩くと広い部屋にたどり着いた。地球の大理石に似た祭壇。地面には祭壇の上と手前に魔法円が2つ描かれている。

 異様な雰囲気……それにさして気にも留めずアルシオは白銀を祭壇に静かに寝かせた。

「……」

 白銀の寝顔に目を細める。そしてすっと無表情になり、そこにいるサタニストたちに目を移した。

「奴らが追ってくるかもしれない。さっさと召還を始めよう」

 その時代に見合ったアイテム。召還にはそれが必要だ。

 時には『トカゲの尻尾』のような意味の解らない物もあった。この次元に存在し続けるのに必要な要素。それを並べるに過ぎない。召還時に口にする言葉も必要な要素の1つ。

「……」

 口々に発せられる奇妙な言葉のつづり。声は徐々に力を増していき叫び声になる者もいる。

 タイミングを計ってアルシオは白銀の腕に銀色の刃を走らせた。

「……っ!」

 痛みで目が覚める。

「お目覚めかい?」

「! お前はっ……」

 起き上がろうとしたが力が入らない。

「そこで大人しくしていろ。ルシファーの恋人よ」

「……恋人?」

 眉をひそめる白銀にアルシオは薄笑いで目だけを向けた。

「殺されるとでも思ったのかね? 君は目覚めたルシファーの恋人になるのだよ」

「冗談じゃない……」

 しかめっ面で応えた白銀に鼻で笑って目線を前に戻す。

「彼が目覚めれば君の人の血も消されるだろう。そうすればこれ程ふさわしい相手はいないと思うがね」

「貴様っ」

 白銀はそんなアルシオの背中を睨み付けた。

「ルシファーは両性具有だ。いいじゃないか元セラフィムを抱けるのだから」

「ふざけるな」

「おっと、呼んでもいない客人がご登場だ」

 会話をさえぎるようにアルシオがそう言うと部屋の隅に現れたのは……

「! 権天使か」

 白銀に天界に昇るように交渉に来た3人の人物が憎々しげにアルシオを見つめていた。

「プリンシパリティーズども、そこで眺めているがいい」

「ルシファーを目覚めさせるなど!」

 1人の権天使は歯ぎしりした。それにアルシオは薄笑いを浮かべて発する。

「しかし、もう動けまい。ルシファーの気が充満してきているからな。たかが権天使ごときがどうこう出来るレベルではなくなっているのだよ」


「! ジィちゃん、あれ」

 エイルクはコクピットから見える眼下に指を差した。他の建造物とは明らかに違う造り。

「うむ」

 ナナンは神妙な面持ちで頷いた。

 ディランの操縦する小型艇は建物の近くに着陸。下から見ていたサタニストたちは一斉に小型艇のハッチに武器を向けた。

 しかし……

「……?」

 ハッチが開かない。と怪訝な顔で見つめていると──

「!」

 ハッチがゆっくりと開かれ緊張が走る。しかし誰も出てくる気配が無い。

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