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*エイルク

「お師さま。こいつがどうかしたんですか?」

 久しく見せなかった厳しいまなざしでカーセドニック人を睨むナナン。杖を拾い上げカーセドニック人に杖の先を突きつける。

 それは逃がさない事を強調していた。

「こやつじゃ『マナ・グロウブ』を持っておったのは」

「!? なんですって?」

 見た処ダートの少年らしいが表情は硬く解りにくい。だが焦っているのが見て取れた。

「何故、逃げた」

「べ、別に逃げてなんかないよ……」

「嘘をつくでない。わしの姿を見たとたん逃げたじゃろう」

「あんたが前においらに酷い事したからだろ!」

「お師さま……何をしたんです?」

「む……」

 ナナンはギクリとする。そういえばこの少年からどうやってマナ・グロウブを奪ったのだろう? その内容をリャムカは聞いていない。

「あまりに驚いてな……ちょいとこやつの足を地面に貼り付けてたまを奪っただけじゃ」

「……お師さま」

 リャムカはあちゃ~と頭を抱えた。有無を言わさず球を強奪するとはお師さまらしくない事をした。

 時々こういう無茶をするからリャムカは目が離せないのだ。

「あなたはスナイプを導く老師の1人なのですよ。それを自覚なさってください」

「わかっておるわい! ちゃんと手加減したからこの者はいま生きておるのだ」

「まったく……呆れて者が言えません。処でお前エイルクと言ったか、何故マナ・グロウブを持っていたのだ?」

「……」

 少年は黙り込み視線を泳がせた。それにナナンはイラつく。

「もうよい。リャムカ行くぞ」

「はい」

その言葉にホッとしたエイルクだったが……

「のわっ!?」

 リャムカに首根っこを掴まれズルズルと引きずられた。

「えっ……ちょっ……?」


「あいてっ」

 エイルクは床に投げられ頭をさする。

「……」

 目の前の少年(だと思う)に白銀とディランは眉をひそめた。

「さてと」

 ナナンは言いながらイスに腰掛ける。

「……ジィさん。なんだこいつは」

「カーセドニック人だ」

「そんな事解ってる」

 リャムカの言葉に白銀はさらに眉間に縦じわを刻んだ。

「エイルク。マナ・グロウブを手に入れた経緯、話してもらうぞ」

「!」

 それに白銀とディランはダートの少年を凝視した。

「……」

 自分を見つめる多くの目に仕方なくエイルクは口を開いた。

「散歩してたら、たまたま見つけたんだよ」

 散歩と言えば聞こえはいいが彼はこの街から出て行こうとしていたのだ。

 上級層の多いこの街に最下層であるダートの彼がいるには辛すぎる。両親を早くに亡くした彼は上級層のおこぼれをもらって生きていた。

 食べ物には困らないがダートである事は屈辱を受ける以外に何も無い。そんな街外れで見つけた珠……美しく色を変えるその珠に少年は魅入られて家に持ち帰った。

 家といってもただ捨ててあった板を囲っただけの貧相なもので見ようと思わなくても中が見えてしまうほどの造り。

 どうやってこの球を売りさばこうか考えながら寝床について朝──目覚めると……

「2つになってたってぇ!?」

 ここまで話を聞いていたディランが頓狂とんきょうな声を上げる。

「初めの球はどれくらいの大きさじゃった?」

「えと……」

 エイルクは考えながら手を動かす。思い起こした大きさと一致した時、止まった手にナナンはあごに手をあて溜息を漏らした。

「ふむ……まとまるにはまとまったがいささか大きかったのかもしれん。自然と分裂してしまったのじゃろう」

「で、2つあってもう1つはどうした」

 白銀が静かに問いかけるとエイルクは頭をポリポリとかいた。

「それがさ……」

 1つ持って売りに行こうとした時にナナンに見つかり球を奪われ、仕方なくもう1つを売ろうかと家に戻ったら無くなっていた。

「……」

 一同はあっけにとられる。

「じゃあ……そのもう1つをあいつらが盗ってったって事?」

 ディランの言葉にナナンは頷いた。

「そうとしか考えられんの。しかし大きな1つだったものが2つに分かれたのじゃ。エネルギーは普段出来るモノより多少、少ないかもしれん」

「それでも危険なエネルギー量に変わりはないんじゃないのか?」

 白銀の言葉にナナンは両腕を組んで黙り込んだ。

「お師さま。これではどうにも動けませんな」

 やはり情報が少ない。

「うむ。ああ、エイルクもう良いぞ」

 ナナンはちょいちょいと手の甲で帰れと示す。

「……」

しかしエイルクはナナンをじっと見つめて帰ろうとはしなかった。

「どうした。もういいんじゃぞ」

「いやだ」

 エイルクの声に白銀は眉をぴくりと動かした。

「あんなトコに戻るくらいならあんたたちについていく」

「おいおい……」

白銀は呆れて少年を見やる。

「ガキを連れ歩くほど俺たちは暇じゃない」

 立て。と白銀はエイルクの腕を掴もうとした。しかし彼はそれを激しく拒否すると声を張り上げてまくしたてる。

「おいらが見つけた球であんたたちが困ってるんだろっ? だったらおいらにもその責任を取らせてくれよ!」

 おいらだって役に立てるよ! 言った少年に白銀は目を据わらせる。

「ここから出たいから言ってるんだろう?」

「うっ……」

 ディランは声を詰まらせたエイルクに小さく笑いかけしゃがみ込む。

「君の気持ちは解るけどね。危険なんだよ。命が無いかもしれない」

「どうせここにいたって同じだよ。死んでないだけで何も出来ない」

 少年は肩を落とした。生まれる前から決まっている地位に彼らに為す術はない。それから逃れるためには故郷を捨てる他は無いのだ。

「どうせ……おいらがいなくなっても誰も泣いちゃくれない」

「お前いくつだ?」白銀が尋ねる。

「カーセドニック年数で12」

「連邦年でいえば15だな」とリャムカ。

 白銀はため息を吐き出しエイルクを見下ろすと腕を組んで発した。

「後悔するなよ」

「いいの!?」

 喜ぶエイルクをよそに白銀とナナンそれにリャムカは何かの気配に反応した。

 突然──近くに今までに無い気配が現れたのだ。この気配は……すでに船内にいる。どこからともなく出現した気配。ナナンはその気配が何なのかを知っている。

近づいてくる3つの気配。

「えっ?」

 開かれたドアにディランは驚いてそちらに振り向いた。そこにいたのは3人の男。輝くような容姿。少し人間離れしているほどに……

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