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*幻想の住人たち

「! なんだ……? 一体何が……」

 ふと白銀が我に返った。

「シルヴィ気が付いたか!」

 ナナンが嬉しそうに声をかける。白銀はすぐに状況を把握した。

「ディラン俺に代われ!」

「ばかやろっ無理に決まってんだろ。それより迎撃の方やってくれよ!」

 白銀はすぐに操縦席の左斜めにあるレーザー砲の席に座り、敵の小型艇に照準を合わせた。

 敵の小型艇3隻はかなりのテクニックだ。こちらの攻撃が致命的にならない。白銀ははがゆい気持ちだった。

「!」

 ナナンは焦る白銀の右肩に手をやり静かに彼につぶやく。

「落ち着けシルヴィ。ゆっくり深呼吸するんじゃ。意識を画面に集中して……目を閉じてもいい。レーザーが敵の船に向かって行く軌道を想像する」

「……」

それを聞いた白銀はまぶたを閉じてゆっくり長く呼吸して集中を始める。レーザーの発射ボタンを押した。

 それは綺麗なを描いて追ってくる小型艇の1隻に当たる。

「次……」

 つぶやいて白銀は再び発射ボタンを押した。そのレーザーもまた鮮やかに敵に当たる。

「……最後」

「やった! さすがシルヴィ」

 ディランは動きの止まった3隻の小型艇から全速力で遠ざかった。

「よくやったの」

 ポンポンと2回ナナンは白銀の肩を軽く叩きコックピットから出る。

「はあ……」

 白銀はホッとしたように背もたれに体を預け深いため息を漏らした。


 船はとりあえず近くの惑星に向けて自動操縦にし3人はリビングルームへ──温かいコーヒーを傾け一息つく。

「で、あいつらが言ってたのって何……?」

 ディランは改めて白銀に訪ねた。

「……」

 白銀は重い口を開く。

「お前も悪魔くらいは知ってるだろう?」

「そりゃまあ」

「じゃあ、奴らが崇拝している奴も知ってるよな?」

「確か……ルシフェルだったっけ?」

「俺の親父はそいつが堕天した後に奴がいた位階いかいに置かれた。だから奴らは親父の血を持つ俺の命を欲しがってる」

「ちょ……っ。ちょっと待って! それって……」

 ディランは突然、空想の世界に入れられたような混乱を覚えて頭を抱えた。とにかく落ち着こうと深呼吸を繰り返す。

「それってさ……お前が天使の子供って事?」

 白銀は否定も肯定もせずにディランから視線を外した。それで彼の言っている事が真実だと解る。ディランは唖然と白銀を見つめた。

「いや……えと。それって凄いな。何が凄いのかいまいちわかんないけど。とにかく凄い」

 変な感心の仕方をしたディランに白銀は苦笑いを浮かべた。まだ混乱しているのだろうか、それとも完璧には理解し難いのか目がうつろだ。

「同じ位階である親父の血。その子供の俺を生け贄にする事で奴の封印は解かれる」

 もともと天使には実態は無いとされる。罪を犯す事により肉体が現れるのだと……人を愛した事もまた罪なのかもしれない。

「それって、シルヴィの親父さんが天国にいるから息子のお前で間に合わせる……ってやつ?」

「……まあそんなとこ」

 ディランの理解に多少悩むが白銀は答えた。

「俺は天界にとっては『罪の証し』だ。その張本人は何をしているやら」

 白銀は薄い笑みを浮かべて皮肉混じりにつぶやいた。

「天界にはいばらの牢獄があるという……罪を負った天使が未来永劫、そこでいばらのトゲに血を流しながら罰を受ける」

 さぞ美しく、悲しい光景だろう。ナナンはそう言って目を伏せた。

 それに白銀は怪訝な表情を浮かべる。

「じいさん……あんた何者だ? 俺の事もまったく驚かないし。まるで昔から知ってるみたいな言い方じゃないか」

「……」

 白銀の言葉にナナンは視線を外して語り始める。

「遙か昔、ある天使が人間になりたいと1人のセラフィムに一緒に神に懇願してほしいと頼んだ。そのおかげでその天使は人間として転生する事が出来たが……神はそれは罪だと言わんばかりにその者が転生を繰り返しても記憶を消す事はなく……」

 ナナンは一端、言葉を切り白銀に顔を向けた。

「ある日、子供を連れた男女が現れて『子供を頼む』と言った」

 それ以来、影から見守り続けてきた。それを聞くと白銀は呆れたようにナナンを見てため息を吐いた。

「なるほどね、あんたは『身内』だった訳か……上手く騙されたよ。知らないフリして近づいて面白かったか?」

「すまぬ……言えなかったのだ。親父殿が天界に連れ去られる事を止める事も出来ず、そんな不甲斐ない自分を知られるのが怖かった」

「じいさん1人が止められるなんて思っちゃいないさ。向こうは天使様だからな。人間に何が出来る。だったらなんで俺に近づいた」

「アレを見つけた時、お前さんしか頼れなかったんじゃ……本当にすまん」

「勝手な!」

 するとリャムカが腹立たしげに白銀を睨み付けた。

「お師さまは苦しんでおられたのだ。貴様にそこまで責められる事ではない」

「やめろリャムカ」

「しかし、お師さま……」

「勝手に師匠と弟子ごっこでもやってろ」

「なんだと!?」

「ああっ! もうっいいから。みんな落ち着いてよ。ケンカしたって仕方ないだろ。そんな事よりこれからどうするかだよ」

「む……」

 ディランの言葉でようやく3人は現実に戻ってきた。冷めたコーヒーを傾けて4人はしばらく沈黙。

「……」

 白銀は自分に起こった事をゆっくりと巻き戻る。いつかは来ると予想していた事だ。だが現実に起こるとどうしていいのか解らない。

 母親から聞かされていたとはいえ半信半疑ではあった。

「お前はどうするんだ? ディラン」

「どうするって聞かれても……戻る訳にもいかないだろ」

 事の経緯から、どう考えても連邦内部にもサタニストがいる事は間違いない。ディランが戻ったとして、捕まって人質にされる可能性が高い。

「何か策でもあるのか? シルヴィ」

 ナナンが何か思い詰めてるような白銀に気が付く。

 白銀はしばらく黙っていたが「とりあえず俺を狙ってる組織は『メナス・オリオール』という名前だという事は解っている。まずその組織について調べてからだな」

「メナス・オリオール?」

 その名前にリャムカが反応した。

「どうしたリャムカ。何か知っておるのか?」

「はい。お師さまが私の前から姿を消されたあとお師さまを探している時にその組織が随分ざわついていた事があります」

「ざわついていた? どういう事じゃ。詳しく教えてくれんか」

「私もちゃんと聞いた訳ではないので詳細は解りませんが……その惑星の政府と何かもめ事があったそうで」

 一同はため息をついた。その程度ではなんの情報も得られた事にはならない。

「1つ疑問があるんじゃが。確かに白銀の血があればルシフェルを復活させる事は出来る。しかしじゃ、白銀の血だけでなく膨大なエネルギーも同時に必要なはず。そんじょそこらのエネルギー量では無理なのじゃが」

 それにディランが応えた。

「あいつらシルヴィを無傷でなくとも良しとしてたよね。それってつまり、その膨大なエネルギーを確保してる。って事なんじゃないの?」

 さらにリャムカが「私がその組織に強い印象を持ったのは、我らが故郷に関係しているような事を聞いたからです」

「どういう事だ?」と白銀。

「うむ。『スナイプが存在しているのは、我々の偉大な計画のためなのだ』とか、殴り倒してやろうかと思う発言を政府の人間から逃げながら叫んでいたのだ」

「偉大な計画? 膨大なエネルギー……」

 モヤモヤしていたものが白銀の頭の中で徐々にはっきりと形を成していく。

 それが1つにつながった時──

「マナ……グロウブ、か」

「馬鹿な! 奴らがそれを手に入れたじゃと!?」

 声を荒げて狼狽ろうばいしたナナンだったがすぐに気を取り直した。

「考えられない事ではない。じゃが……スナイプはそのためにあった星などでは断じて無い!」

 白銀はそれに溜息をついて発する。

「当たり前だろ。奴らが自分の都合のいいように解釈してるだけに決まってる」

「そうじゃな……うむ」

 解ってはいる事だが、第三者にあえて言ってもらえた事でナナンやリャムカは安心した。あの限りなく優しい意識を持つ麗しの故郷が悪魔のためだなどと誰が思いたいだろうか。

「リャムカ、それを聞いたのはどの星なんだ?」

「うむ。カーセドニックだ」

 白銀の問いかけにリャムカは腕を組んで応えた。ディランは少し語気を強くする。

「! あそこは銀河連邦の勢力圏外じゃないか……」

 人類統合組織『銀河連邦』は他の星の政府と交流や交渉を続けながら勢力を拡げている。しかし中には地球人を敵視している惑星も存在し『カーセドニック』はその最たる星である。

「じゃが逆に身を潜めるには、打って付けの星じゃろう」

「そういえばカーセドニック人が地球人嫌いなのにはちゃんとした訳があるらしいよ」

 ディランがぼそりと言った。

「私も聞いた事があるが。地球人は柔すぎて嫌いなんだとか」

「そりゃそうだろ……あいつら半鉱石じゃないか」

 白銀は呆れた。確かに地球人は他の惑星人に比べればかなり軟弱な体をしているだろう。リャムカやナナンのスナイプ人だって地球人よりも相当強靱な体なのだ。

 特にリャムカは精神的にも肉体的にも鍛え抜かれていて、ちょっとした鉄板なら軽くへこませる事が可能だ。

 だからといって地球人を鉱石のような体を持つ奴と比べられても困るというものだ。そのためかどうか解らないがカーセドニック人にはいくつかのランク付けがされている。

 王政で王の血筋は地球で言うオリハルコン、その次の地位がダイヤモンド。

 つまりは硬い者順な訳だ。こうなるとその人間は一生、産まれながらに地位が決まってしまう。

 正直オリハルコンは実在の鉱石ではないが王の血筋の体は他の鉱石とは違い特殊な構造物なので地球に当てはめるとオリハルコンとなる。

 オリハルコンがダイヤより硬い訳でもない。柔軟性があるためダイヤと闘っても勝てる。らしいが……長年続いてきた王政に誰も逆らうはずがなく、今となっては事実かどうかも定かではない。

 一番低いのは「ダート」だとか。土塊つちくれと呼ばれてあまり良い待遇は受けない。

「ふむむ……そこにはわしとリャムカで行こう。2人は船で待機していてくれ」

「解った。何かあったらすぐに知らせてくれ」

 白銀はそう言うと船は惑星カーセドニックに向かった。

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