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7

優希がそっと手を挙げ、少し迷いながら尋ねた。

「じゃあ……いくらくらい、一緒に貯めるんですか?」

健太は一瞬驚いたような顔をしてから、苦笑した。

「うーん……それは二人次第かな。

優希と七海さんに任せるよ」

「要は“冷たいお金”を使うってことだよね?」

と、私——七海が言った。

「冷たい……お金?」

優希は首をかしげる。

「それって、何ですか?」

「冷たいお金っていうのはさ」

健太は椅子にもたれながら、穏やかに説明し始めた。

「毎月の支出を全部引いたあとに残るお金のこと」

「……まだ、よく分からないです」

優希は正直に言った。

すると健太は、さすがデザイン部のエースらしく、

難しい話を噛み砕くように説明した。

「例えばね、給料がこれくらいあるとして」

「家賃、食費、交通費……そういう必要なお金を全部引く」

「それでも残ってて、生活に影響しないお金」

「それが“冷たいお金”」

「なくなっても、普通に生きていけるお金ってこと」

と、健太は付け加えた。

「あ……」

優希は少し考え込む。

「じゃあ、生活費じゃないお金なんですね?」

「そう」

健太はうなずいた。

「熱いお金じゃない」

「分かった?」

健太が尋ねる。

優希は小さくうなずいた。

「……はい。分かりました」

私は思わず、微笑んでしまった。

「さすがだね、デザイン部のエース」

半分冗談めかして言う。

健太は照れたように笑った。

「いや……七海さんに褒められると、嬉しいな」

話は早かった。

私たちは、ついに動き出すことを決めた。

最初の投資先は、デジタルゴールド。

使うのは、冷たいお金だけ。

生活に影響しない、余ったお金。

三人分を合わせて、

集まったのは 20万円。

正直、私たちの中には

すでに銀行に貯金している人もいた。

でも、みんな分かっていた。

何年も貯めているのに、

インフレで価値が削られていく感覚。

数字は増えても、意味は増えない。

だからこそ、

全部じゃない。

ほんの一部だけ。

私たちは初めて、

「金」を買った。

大きな夢のためじゃない。

ただの、小さな一歩として。

「よし」

健太はスマホの画面を見ながら言った。

「これで 6.6グラム。これが俺たちの金だ」

そして私たちを見て、続ける。

「ルールを決めよう」

「お金は三人でまとめる」

「もし誰かが困って、引き出す必要が出たら」

「できるだけ正直に、透明に、他の二人に伝えること」

少し間を置いてから、

健太は付け加えた。

「ただし、深いプライバシーに関わることは例外でいい」

「うん、賛成です」

優希は即答した。

「私も」

七海がうなずく。

「じゃあ」

健太は言った。

「アカウントのアクセス、二人にも共有する」

「三人で見られるようにしておこう。

不安にならないためにもね」

すぐに共有は終わった。

それから私たちはバーを出て、

交差点で別れた。

私はA方面のバス停へ。

優希はB方面へ。

健太は別の道へ。

それぞれ違う方向へ歩きながら、

でも、分かっていた。

——明日、また会う。

バス停で少し待って、

バスが来て、

カードをタッチして、席に座る。

走り出したバスの中で、

私は反射的にスマホを開いた。

アカウントを確認する。

グラフは安定している。

数字は 20万円 のまま。

不思議と、少し安心した。

……でも、心の奥では思ってしまう。

もしこれが、

いきなり 2,000万円 になったらな、って。

小さく笑う。

無理に決まってる。

金は安定資産。

近道じゃない。

私たちは、ただの初心者だ。

「まあ……仕方ないよね」

「始まったばかりだし」

バスは駅に着き、

私は降りて、

ホームで電車を待った。

待っている間、

なぜか手がむずむずして、

またスマホを見る。

同じ。

2,000万円じゃない。

20万円が、ほんの少し増えただけ。

「はは……」

「投資って、やっぱり忍耐だよね」

電車が来て、

私は乗り、座り、

走り出す。

……また、手がむずむずする。

確認。

同じ。

数分後。

また確認。

そして、また。

気づいた時には、

私はもう電車を降りていた。

「はぁ……」

「投資は我慢、我慢……」

そう心の中で繰り返しながら、

気づけばアパートの前に立っていた。

ドアを開ける。

目に入ったのは、

大人用の靴と——

子どもの靴。

「……え?」

「誰の靴?」

そう思った瞬間、

七歳くらいの女の子が駆け寄ってきた。

「おばちゃーん!」

その子は、私の足にぎゅっと抱きつく。

「え……?」

すると、部屋の奥から声がした。

「帰るの遅いよ、七海」

「お姉ちゃん、ずっと待ってたんだから」

そこに立っていたのは、

ギャル風の女性。

……誰かって?

もう、分かってるよね。

私の姉と、

姪っ子。

でも、ひとつだけ分からない。

——なんで、ここにいるの?

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