17: 幸せな家族の対照 第4部
小さなテーブルと縮まる距離
私たちは公園の端にある小さなカフェを選んだ。
それほど混んでおらず、大きな窓の向こうには木々が並んでいる。
朝の陽射しは柔らかく差し込み、眩しすぎることはなかった。
丸いテーブルを囲んで座る。
宙は私の隣。
日和は向かい側に座り、健太はその間——
安心できる配置でありながら、どこかぎこちない。
メニューが運ばれてくる。
宙は迷いなく指をさした。
「パンケーキがいい」
「飲み物は?」
「ホットチョコレート」
健太が小さく笑う。
「堅実な選択だな」
日和は横からその様子を観察していた。
「……よく一緒にカフェ来るの?」
私は首を振る。
「ほとんど来ない」
「おばさん、人多いところ嫌いだもん」
と宙が淡々と言う。
私は横を見る。
「ちょっと」
「本当でしょ」
宙は平然としている。
日和が小さく笑った。
短い、でも初めての硬くない笑い。
注文が一つずつ届く。
皿が並び、甘い香りとコーヒーの匂いがテーブルを満たす。
最初の数分は、フォークとスプーンの音だけ。
誰も急いで話そうとはしなかった。
やがて、日和が口を開く。
「な……七海さん」
顔を上げる。
「なに?」
「……仕事、何してるの?」
健太が反射的にこちらを見て、少し緊張する。
私は落ち着いて答えた。
「プログラマー」
「へえ」
日和は小さくうなずく。
「兄さんもコンピューター相手だと面倒くさい」
「面倒くさいって何だよ」
健太が抗議する。
「考えすぎ」
即答。
宙がパンケーキを刺しながら、突然会話に入った。
「おばさんも面倒くさいよ」
「ちょっと」
「でも」
宙は続ける。
「仕事してるとき、すごく集中する」
日和は宙を見る。
「よく放っておかれる?」
宙は首を振った。
「ううん」
「おばさん、ちゃんと帰ってくる」
「疲れてても」
私は一瞬、言葉を失った。
日和も同じだった。
彼女はカップを見つめ、ぽつりと言う。
「……兄さんも同じ」
健太が振り向く。
「日和?」
「兄さん、疲れてる」
視線を上げないまま続ける。
「でも平気なふりする」
小さく息を吸う音がした。
日和は顔を上げ、まっすぐ私を見る。
「……怖いの」
「兄さんが、他の人にばかり向いちゃうのが」
私はうなずいた。
「分かる」
「でも」
静かに続ける。
「私は誰かを奪っているわけじゃない」
「ただ、たまたま道が交差しているだけ」
日和は長い間、私を見つめていた。
「……話し方、変」
やがてそう言った。
宙がうなずく。
「うん」
私はため息をつく。
「ごめん」
でも、日和は薄く笑った。
「悪い意味じゃない」
「ただ……正直」
健太はテーブルを見つめたまま、気づかないうちに小さく笑っていた。
宙はホットチョコレートを一口飲む。
「じゃあさ」
突然言った。
「また一緒にごはん食べてもいい?」
日和が目を見開く。
「は?」
宙は真っ直ぐ見た。
「あなた、悪い人じゃない」
私は危うく飲み物を吹きそうになった。
日和は二秒ほど黙り、
大きく息を吐いた。
「……この子、正直すぎ」
「でも」
私のほうを見て続ける。
「まだ、賛成したわけじゃない」
私はうなずく。
「大丈夫」
「ゆっくりでいい」
日和は私を見つめ、
小さく繰り返した。
「……ゆっくり」
小さなテーブルの上に、
約束はない。
大きな決断もない。
ただ一つ、変わったことがある。
私たちはもう、
完全な他人として座ってはいなかった。
それだけで——
今日は十分だった。




