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16: 幸せな家族の対照 第3部

ぎこちない日曜の朝

日曜の朝は晴れていた。

空は澄み、風は涼しく、街の公園には運動をする人や、ただのんびり座っている人たちが増え始めていた。

その公園の一角で、私たちは集まっていた。

私、健太、宙——

そして、もう一人の新しい人物。

「七海さん」

健太が半歩前に出て言った。

「紹介するよ。俺の妹だ」

彼は隣に立つ少女のほうを向いた。

「日和」

少女は背筋を伸ばし、少しこの公園には不釣り合いなほど丁寧に頭を下げた。

「高橋日和です」

「はじめまして」

私は少し驚き、反射的に頭を下げ返した。

「七海です」

「こちらこそ、はじめまして」

健太は今度は日和のほうを向いた。

「日和、こちらが七海さんだ」

日和はうなずき——

それから、私を頭の先から足元までじっと見た。

高校生にしては、あまりに真剣な視線だった。

そして、私が何か言う前に——

「ねえ、兄さん」

声の調子が変わった。

「なんで子どもがいる女性に恋できるの?」

公園の空気が、一瞬で凍ったように感じた。

「兄さん、まだ童貞でしょ」

「それ、不公平じゃない?」

「日和!」

健太が慌てて声を上げた。

「何言ってるんだよ!」

彼はぎこちなく宙を指さした。

「この子は七海さんの姪だ!」

顔が一気に熱くなるのを感じた。

「え……?」

思わず、声が漏れた。

「健太さん……私のこと……?」

宙がすぐに私のほうを見た。

「おばさん、どうしたの?」

「顔、赤いよ」

「ち、違っ——!」

私は反射的に首を横に振った。

そして無意識に健太を見る。

——赤い。

お互いに、ほんの一瞬、視線が合った。

長すぎる一瞬。

そして、ほぼ同時に、

二人とも顔をそらした。

沈黙。

気まずさ。

熱。

その様子を、日和は目を細めて見ていた。

……ああ。

処女と童貞。

分かりやすすぎ。

彼女は心の中でそう思った。

「ふーん」

小さく呟き、

日和は宙の前にしゃがみ込んだ。

「こんにちは」

さっきとは打って変わって、ずいぶん柔らかい声。

「宙、だよね?」

宙はうなずいた。

「うん」

「宙です」

日和は小さく微笑んだ。

作った笑顔ではない。

「かわいいね」

「それに、礼儀正しい」

宙は少し戸惑い、私のほうを見た。

確認するように。

「……怒ってる?」

小さな声で聞く。

日和は一瞬黙った。

「……ううん」

「びっくりしただけ」

立ち上がり、今度は私を見る。

「な、七海さん」

さっきほど堅くない声で。

「さっきは、変なこと言ってごめんなさい」

私は小さく息を吐いた。

「大丈夫」

「私も、あなたの立場だったら驚くと思う」

日和は、しばらく私を見つめていた。

疑う目ではない。

もっと……測るような視線。

「兄さんね」

突然、日和が言った。

「面倒くさい人なの」

「おい」

健太が小さく抗議する。

「でも」

日和は振り返らずに続けた。

「そこまで本気で動くってことは」

「あなた、適当な人じゃないんでしょ」

私は言葉を失った。

「……ありがとう」

ようやく、それだけ言った。

宙が私の服の裾を引く。

「おばさん」

「おなかすいた」

空気が一気に和らいだ。

健太が小さく笑う。

「はは……確かに」

日和は鼻で笑った。

「典型的な子ども」

「ちがう」

宙がすぐに反論する。

「もう大きいもん」

日和が眉を上げた。

「へえ?」

「うん」

「一人でごはん食べられる」

私は思わず口元を押さえた。

健太は、ほっとしたように息を吐いた。

少なくとも——

想像していた最悪の空気ではない。

私たちは公園のベンチに座った。

飲み物を分け合いながら、

朝の時間をゆっくり流した。

その日、大きな決断はなかった。

答えも出なかった。

ただ四人が——

少しずつ、同じ空間に立つことを覚えていっただけ。

そして、初めて。

日和は、私の存在を即座に否定しなかった。

それだけで、

十分すぎるほどの「始まり」だった。

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