表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

15: 幸せな家族の対照 第2部

休日は、健太にとってまだ「休日」とは言えなかった。

自分の部屋で、彼は再びモニターの前に座り、投資の勉強に集中している。

チュートリアル動画は流れ続け、グラフとファンダメンタルの解説が途切れることはない。

日和は何度も部屋の前を行ったり来たりしていた。

そしてついに、音を立てずに部屋に入る。

健太の背後で立ち止まり、

まっすぐ伸びた背中を見つめる。

本来なら遊ぶはずの休日——

それが、勉強で埋め尽くされている。

「お兄ちゃん……」

日和はベッドに腰掛けて呼んだ。

返事はない。

「お兄ちゃん……!!」

少し声を強める。

「何だよ、日和」

健太はようやく答えたが、振り向かない。

「俺のスマホで遊びたいなら、勝手に使え。静かにしてくれ」

「スマホじゃない」

日和は即答した。

「オンラインゲーム、一緒にやりたいの。ランク上げようよ」

立ち上がり、健太の背後に近づくと、

甘えるように背中から抱きついた。

「日和、一人でやってて」

健太は一瞬だけ視線を向ける。

「今、忙しい」

「ふん……!」

日和は頬を膨らませ、健太の腕を何度も引っ張る。

「やろうよ。ねえ、やろうよ。お兄ちゃん」

引っ張って、

また引っ張る。

健太はため息をつき、

日和の額を指ではじいた。

「いたっ!!」

日和はすぐに後ずさる。

「お兄ちゃんひどい! 私を叩いた!」

そのとき、廊下から足音が聞こえた。

「何を騒いでるんだ?」

父がドア口に現れる。

「お父さん!」

日和はすぐ駆け寄った。

「お兄ちゃんが私に暴力振るった!」

父は健太を見る。

「本当か、健太?」

「邪魔された」

健太は淡々と答える。

視線はモニターのまま。

「父さんがゲームに付き合ってやって」

「日和?」

父の声色が一気に厳しくなる。

日和は身体を強張らせた。

「集中している人の邪魔は良くないと、分かってるな」

「ゲームなら、父さんとやれ」

そこへ母も入ってきた。

「お母さんも一緒にできるわよ」

優しく声をかける。

「ほら、日和」

「お父さんとやろう」

「お母さんとやろう」

二人で順番に説得する。

「やだ!」

日和は首を強く振る。

「私はお兄ちゃんとやりたいの!」

「この家族で一緒にゲームしたいの!」

「それがいいの!」

「日和」

母が落ち着かせるように言う。

「お兄ちゃんは今、勉強中よ。邪魔しちゃだめ」

「やだ! やだ!」

健太が立ち上がる。

椅子が小さく音を立てた。

「日和」

いつもより強い声。

「何よ!」

日和も叫び返す。

父がすぐ前に出る。

「ほら、だから怒らせた。出るぞ」

「でも!」

日和は目に涙を溜めて健太を見た。

「なんでお兄ちゃんは家族じゃなくて、他人ばっかり見るの?」

空気が止まる。

「その女の人、他人じゃない!」

日和は続ける。

「なんでそんなに必死に助けようとするの?」

「日和」

父が低く言う。

「そんな言い方をするな」

「さっきまで応援してたでしょ?」

母が静かに付け足す。

「もう違う!」

日和は激しく首を振る。

「お兄ちゃんが誰かに取られたら、この家族は壊れる!」

「私は嫌!」

健太は長い間、妹を見つめていた。

そして、静かだがはっきりと口を開く。

「日和」

「人を助けることは、悪いことじゃない」

「家族を捨てるつもりもない」

「ただ、困っている人を見て見ぬふりをしないだけだ」

父は小さく頷いた。

「健太のやっていることは、間違っていない」

「でも……!」

日和は拳を握る。

「その女の人、絶対お兄ちゃんを騙す!」

再び、沈黙。

健太は深く息を吐き、

父を見る。

「父さん」

「日和が知らないから不安なら……」

父は腕を組む。

「……答えは簡単だ」

日和を見る。

「なら、明日一緒に行け」

「え?」

日和は勢いよく顔を上げる。

「七海に直接会え」

「どんな人か、自分の目で見ろ」

母も頷く。

「憶測で決めつけるより、その方がいいわ」

日和は黙り込む。

拒絶と戸惑いが入り混じった表情。

健太は妹を見る。

「無理強いはしない」

「でも、恐れだけで俺は止まらない」

日和は唇を噛み、

視線を逸らした。

その章は、ひとつの事実を残して終わる。

衝突は、まだ終わっていない。

そして——

避けられない出会いが、

静かに近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ