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14: 幸せな家族の対照 第1部

静かなアパートの一室。

健太の作業机の上で、モニターが明るく光っていた。

投資のチュートリアル動画が、何度も繰り返し再生されている。

グラフ。

数字。

ファンダメンタル。

リスク管理。

そして、長期的な忍耐についての解説。

健太は背筋を伸ばして椅子に座り、ヘッドセットを耳に当てていた。

その視線は真剣だった。

自分のためだけではない。

——誰かのために、いつか使う知識として。

そのとき、部屋のドアが開いた。

「お兄ちゃん、ご飯食べないの?」

少し苛立った声で、女子高生がドア口に立っている。

日和——健太の妹だ。

返事はない。

「お兄ちゃん?」

「……お兄ちゃん?」

健太は動かない。

視線は、モニターから一ミリも離れなかった。

日和は眉をひそめ、部屋に入る。

椅子の横に立ち——

ぱしっ。

ヘッドセットを無理やり外した。

「お兄ちゃん! ごはん!!」

「うわっ——!」

健太は驚いて振り向く。

「何するんだよ、日和」

日和は睨みつける。

「さっきからずっと言ってるでしょ」

「お兄ちゃん、置物みたいに無視するんだもん」

そう言い捨てて、くるりと背を向ける。

「あ、そうだ」

振り返らずに続けた。

「お父さんとお母さん、下で待ってるから」

———

数分後。

健太はダイニングに降りた。

父は食卓で新聞を読んでいる。

母はキッチンで皿を洗い、日和が横で手伝っているが、まだ少し不機嫌そうだ。

健太は軽く視線を向けただけで、挨拶もせず椅子を引き、父の向かいに座って食事を始めた。

静寂。

やがて——

「健太」

父が新聞を下ろさずに言った。

「例の女の子とは、どうなんだ?」

健太の手が、一瞬止まる。

「……今まで通りだよ」

「変わらない」

そう答えて、何事もないように食事を再開する。

父は小さく舌打ちした。

「健太、お前は動きが遅い」

新聞を少し下ろし、続ける。

「母さんにアプローチしたとき、父さんは早かったぞ」

「無駄がなかった」

母がくすっと笑う。

「もう、あなたったら」

すると日和が、キッチンから口を挟む。

「そうだよ、お兄ちゃん」

少しからかうように。

「取られる前に、さっさと告白しなよ」

健太は小さく息を吐いた。

そして日和を見る。

「やる気がないわけじゃない」

「ただ、焦りたくないだけだ」

日和は手を止めて振り向く。

「え?」

「考えることが多いんだ」

健太は続ける。

「彼女の状況」

「背負ってる責任」

「その先の人生」

母は皿を洗う手を止めた。

そして、静かに——しかしはっきりと言った。

「それで?」

「ずっと、そのままでいるつもり?」

言葉が、空気に残る。

健太は数秒、黙った。

そして、小さく笑った。

迷いの笑顔ではない。

——覚悟を決めた人の笑顔だった。

「進むつもりだよ」

「誰も傷つけないやり方で」

父はじっと健太を見つめ、

やがて新聞を畳んだ。

「……まったく」

「お前は、本当に俺の息子だ」

日和は鼻を鳴らす。

「めんどくさい」

母は何も言わず、

健太の肩を、そっと叩いた。

その食卓にいた全員が、わかっていた。

健太は臆病なのではない。

ただ——

確信のない一歩を、踏み出さないだけなのだ。

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