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ショッピングモールの中にあるファストフード店で、
私たち三人は注文を待ちながら座っていた。
小さなテーブルは少し狭い。
でも、なぜか落ち着く。
私の隣には宙が座っていて、
手には鉛筆、目の前にはスケッチブック。
自分の世界に没頭するように、黙々と絵を描いている。
向かい側には優希。
椅子にもたれながら、
完全に“仕事モードじゃない彼女”を楽しんでいる様子だった。
「七海さんがいない数日間、正直きつかったですよ」
優希は大きくため息をつきながら言った。
「部長に怒られること増えましたし、
それに山田さんがまた問題ばっかり起こすし…」
私は顔を向けた。
「また山田さん?」
優希は即座にうなずく。
「もう、ほんとに最悪です」
少し気になって、私は聞いた。
「どんなことされてるの?」
優希は一瞬テーブルを見つめてから、
いつもよりずっと真剣な声で話し始めた。
「いつも通りですよ」
「勝手に私のプログラムをいじるし、
会議の場で私のせいにするし、
人前で私をバカみたいに扱うんです」
小さく拳を握りしめる。
「正直、七海さん…
私、自分が何をしたのか分からないんです」
「なんであの人、私にだけあんなに個人的なんでしょう」
私は少し黙った。
「……確かに」
「考えてみると、優希ちゃんにだけだよね」
思い出す。
優希が入社したばかりの頃、
山田はむしろ親切だった。
――いや、親切すぎるくらい。
でも、いつからか。
その態度は完全に変わった。
「正確には分からないですけど」
優希は続けた。
「私が、彼を手伝わなかった頃からです」
私は眉を上げた。
「手伝う?」
優希は声を少し落とした。
「七海さん、知ってますか」
「昔、山田さん、
部長の奥さんに詰め寄られそうになったことがあるんです」
私は言葉を失った。
「……え?」
「はい」
「奥さんが疑ってて」
「山田さん、たぶん私を使おうとしたんです」
「注目を私に向けさせて、
自分の立場を守るために」
一気に理解した。
そして、嫌悪感が込み上げた。
「でも、私は断りました」
「そういうの、関わりたくなくて」
「だから、彼は一人で行ったんです」
私は大きく息を吐いた。
「それなら分かる」
「それがきっかけで、あなたを恨むようになったんだ」
優希は苦く笑った。
「それでも…
まだあの会社、続けるつもりですか?」
私は静かに聞いた。
優希は数秒、黙る。
「正直に言うと…」
「疲れました」
「辞めたいって、何度も思いました」
私は彼女を見る。
「でも?」
「七海さんが言ってたこと、聞いて」
「責任のこととか、
それでも立ち止まらないって話」
「もう一度、考えようって思えたんです」
その時、注文した料理が運ばれてきた。
テーブルの上に並ぶファストフード。
それ以上、言葉はなかった。
宙は黙々と食べながら、
ときどき自分の絵を見返している。
優希の表情は、
少しだけ穏やかになっていた。
食事を終え、
私たちは店を出て駅へ向かう。
「じゃあ、ここで」
優希が足を止めた。
「七海さん、宙ちゃん」
「うん」
私はうなずく。
優希が手を振る。
私たちも振り返す。
「気をつけてね、優希おばちゃん!」
宙が明るい声で言った。
優希は笑って、大きく手を振り返した。
「そっちもね!」
私と宙は駅へ向かい、
ホームで電車を待つ。
やがて電車が到着し、
私たちは並んで座った。
景色が、ゆっくりと流れていく。
――家へ。
その日は、大きな出来事はなかった。
でも、
さっきの会話は、
静かに、私の中に残り続けていた。
「耐えること」
「選ぶこと」
「疲れても、歩き続ける人たちのこと」




