12
私たちは、モールへ行く前にいったんアパートへ戻ることにした。
理由は単純だ。
——全員、汗臭かったから。
「このままモール行ってもいいけどさ」
そう言いながら、優希は私をちらっと見る。
「たぶん、マラソンから逃げてきた人たちだと思われるよ?」
私は小さく鼻を鳴らした。
「私は服屋の真ん中で倒れたくない。」
宙は真剣な顔でうなずく。
「私も、べたべたする。」
——満場一致。
アパートに戻ってから、私と宙は順番にシャワーを浴びた。
優希はソファに座り、スマホをいじりながら待っている。
その姿は完全にリラックスしていて、
職場で見る彼女とはまるで別人だった。
準備が終わり、私たちは再び部屋に集まる。
私はシンプルな部屋着——
無地の落ち着いた色のTシャツに、ゆったりした長ズボン。
アクセサリーは何もつけていない。
宙が部屋から出てくる。
……服装が、ほとんど同じだった。
薄いグレーのパーカー。
シンプルな長ズボン。
動きやすくて、実用的。
宙はしばらく私を見つめてから、ぽつりと言った。
「ねえ、七海。」
「ん?」
「服、似てる。」
宙が指さして、私はようやく気づいた。
自分の服を見下ろして、小さく笑う。
「ほんとだね。」
優希は目を細めて、私たちを交互に見る。
「……あ、本当だ。」
そして笑った。
「大小サイズ違いって感じ。」
宙は少し考えてから、静かに言う。
「じゃあ……好み、同じ?」
私は少し黙ってから、うなずいた。
「たぶんね。」
「七海も、シンプルなのが好きだから。」
宙の表情が、少しだけ明るくなる。
モールは昼間で、そこまで混んでいなかった。
子ども服売り場に入った瞬間、優希のスイッチが入る。
「これ可愛い!」
「こっちも!」
「パステルカラー、絶対似合う!」
彼女の手は止まらず、
ワンピースやスカート、フェミニンなトップスを次々と取っていく。
宙は少し後ろに立ち、見てはいるが、前には出てこない。
私は宙の前にしゃがんだ。
「無理しなくていいよ。」
「好きなの、選びな。」
宙は少し迷ってから、店の隅にあるラックを指さした。
無地のTシャツ。
薄手のカーディガン。
飾りの少ないシンプルなスカート。
「あれ。」
優希が近づいて、ラックを見る。
少し沈黙。
「……めっちゃシンプル。」
宙はうなずく。
「着やすいのが好き。」
私は小さく笑う。
「七海と一緒だね。」
優希はついに笑い出した。
「もう、それ遺伝でしょ。」
何着か試着した。
派手なワンピース → 宙は落ち着かない。
シンプルな服 → 肩の力が抜け、表情が穏やか。
最終的に選んだのは、
柔らかいTシャツ数枚、
シンプルなスカート、
そして装飾の少ない無地のワンピース一着。
「これ、楽。」
宙が小さく言う。
「それが一番。」
私はそう答えた。
レジの前に立つ。
カゴの中には、
無地のTシャツ、
シンプルなスカート、
薄手のカーディガン、
そして飾りのないワンピース。
優希はしばらく中身を見つめてから、
大げさにため息をついた。
「……結局さ。」
「前とほぼ同じ服じゃない?」
宙は背筋を少し伸ばす。
「楽だから。」
「それに、着やすい。」
優希は顔を覆う。
「可愛いドレス姿、想像してたのに……」
宙は私をちらっと見て、淡々と言う。
「だって、七海の服もそんな感じだし。」
「おい。」
私は小さくむせる。
優希は大笑いした。
「はい、一本取られた!」
私は鼻を鳴らす。
「悪いね。レースとリボンの人じゃなくて。」
宙は真剣にうなずく。
「だから、私も好きじゃない。」
優希は両手を上げた。
「はいはい。家系には勝てません。」
店を出ると、私たちは自然と学校用品コーナーの前で立ち止まった。
小学生用のランドセルがきれいに並んでいる。
明るい色。
大きなデザイン。
……そして、明らかに高い。
私は一つをじっと見つめた。
「……信じられない。」
「毎月税金払ってるのに。」
「このカバンまで自腹?」
優希は口を押さえて笑いをこらえる。
宙は交互に私たちを見る。
「税金って……なに?」
素朴な質問。
私は宙を見る。
「国に取られて、七海がこうやって文句言うためのお金。」
優希はとうとう笑い出した。
「七海さん、正直すぎ。」
それからランドセルを見て言う。
「あ、そうだ。」
「こういうカバン、姪のお下がりがまだあるよ。」
「え?」
「まだ綺麗。」
「壊れてない。」
「よかったら、家で渡すけど?」
私は数秒、固まる。
「……いいの?」
「いいよ。」
「クローゼットで眠ってるし。」
宙が私たちを見る。
「じゃあ……新しいの、買わなくていい?」
私はうなずく。
「うん。」
「まだ使えるものにしよう。」
宙はほっとした顔をする。
「……よかった。」
私たちはフードコートの方へ歩き出す。
人の足音と、モールのざわめきの中で、
私はもう一度、宙を見る。
今日は——
宙は、無理に変えられなかった。
そして私は、
少しずつ学んでいる。
すべてが新しくなくても、
ちゃんと「始まり」にはなれるんだって。




