五十六話
茶色く輝く人の三倍はあろうかという巨大な肉体に空を突き上げるかのように伸びる角。こいつが例のカブトムシか。
「そうだ、俺が勇者だ。」
俺は堂々と言い放った。
「そうか、ならばその力を示してみろ」
奴の視線が鋭くなる。
「いいだろう」
俺は剣を構える。
「お前何をしている」
「は?何をってお前が力を示せって言ったから構えたんだが」
「お前何を言っている。力比べと言ったら相撲だろう」
「え、戦うんじゃないのか?アントン話と違うぞ」
「いやまあ、俺も詳しいことは知らなかったし。こいつと遭遇するのは初めてだから...」
「ま、いい相撲すんだろやってやろうじゃねえか」
「その意気だ。では始めようか。ルールはただ一つ先に倒れたほうが負けだ」
俺と奴は四股を踏み、互いに向かい合った。
いやーよく見るとこいつほんとでかいなー。体格差何倍だ?勝てるか?いざ向き合ってみると不安がこみ上げてくる。
「では行くぞ!」
そう言うと奴は勢いよく体を発進させた。俺も同時に奴に向かって体を前進させた。
奴と俺の体がぶつかり合う。
その瞬間鼓膜を揺らす轟音、空を切る風が生じた。
お、重い。奴のあまりの力の強さに俺はどんどん押される。踏ん張る足で地面が抉れる。
どんどん押し込まれる。
力では勝てないどうする?
奴は今度は上から俺の体を押しつぶそうとしてくる。体が後ろに反り返る。このままだと負ける。
「おい、グビリコ!力で勝てないなら頭を使うしかねーぞ」
アントンが野次を飛ばしてくる。
頭を使う?
あたま、アタマ、頭を使う。
そうか、頭突きか!
だがこの態勢でどうやって?
「グビリコ!もっと体をうまく使って」
今度はコークが野次を飛ばしてくる。
体をうまく?
この状況でできるのは......
わかったぞ!
あえて一瞬力を抜く。そこでよろけた奴の顔面に頭突きをすればいいんだな。
きっとそうだ。
そうと決まれば。
俺は体の力を抜いた。すると奴の体はこちら側によろけてきた。
俺はより後方に反り返る体に力を入れ。ばねのように勢いをつけて奴に頭突きをした。
不意を突かれた奴はとっさに体を起こし、顔を押さえる。
「おい、気ぃ抜いてんじゃねーぞ!」
俺は渾身の力を込めて奴の胴体目がけて張り手をした。
すると奴の体は後方へとよろけた。
「おい、お前卑怯だぞ」
奴はそう言うが俺はそんなのお構いなしに顔面に飛び蹴りを食らわせてやった。
そして奴の体は地面を揺らしながら倒れこんだ。
「おーグビリコが勝ったー!」
チーロが喜びの声を上げる。
「あれって相撲なの?」
コークが何か言っているが関係ない。俺はルールは破ってない。
「おい、お前は倒れた俺の勝ちだぞ」
俺は奴を見下しながら言った。
「......」
奴は何も言わなかった。
しばらくの沈黙の後奴は口を開いた。
「我の...負けだ」




