四十三話
横たわるおっさんの元へと寄る。近くで見るとすごい傷だ。何か刃物のように鋭いもので刻まれたかのような切り傷が全身に走っている。それにかなり息も荒い。
「これはひどい......」
思わずそう声を漏らしてしまう。まあ、しかし俺の回復魔法ならば何とかなるだろう。
おっさんの胸のあたりに両手を添えて力を込める。淡い緑色の光が生じるとともにみるみると傷が癒えていく。
おお、流石は俺だ。
傷が完全に癒えるとおっさんはゆっくりと瞼を開いた。
「ここは......?」
それがおっさんの第一声だった。
「知らんが安全な所っぽいぞ」
俺はそう返した。
「お前はあの時の......」
おっさんは眉間にしわを寄せながら考えを巡らしているようだった。
「俺が生きててお前がここにいるってことはやってくれたのか?」
「ああ、そうだ」
「そうか、それはよかっ」
そう言いかけた瞬間おっさんはいきなり吐血した。
「お、おい大丈夫か!おっさん」
俺の魔法でもまだ治せてなかったのか?
「だ、大丈夫だ」
おっさんは苦しそうにそういった。
「俺が魔法で回復させたのにどうして?」
俺はそう言うとすぐにもう一度おっさんに魔法をかけようと手を合わせた。
「いや、無駄だ」
そう言うとおっさんは俺の手を振り払った。
「どういうことだ?」
「お前の回復魔法でも俺は治せない。俺は元から病に侵されていたんだ。病は回復魔法でもどうにもならない」
「そんな」
「俺はあの時、生贄にされていようがいまいがどうせ先は長くなかったんだよ」
「おじさんをどうにか治す方法はないんですか?」
突然後ろからチーロが声を出してきた。
「ない」
おっさんがそう言うと、部屋には重い沈黙が舞い降りた。
「いやあるぞ!」
突然村のおじいさんが声を上げた。
「なんだって」
俺とチーロの声が重なる。
「どうすればおじさんを助けられるんですか?」
チーロが前のめりになって聞く。
おじいさんは険しい顔をしながら話し始めた。
「昔聞いた話なんだが。ここアントベルグの街から北西に行ったところにとても大きな森があり、そこにはミツバチたちにより築かれた街があるそうなんだ。そこで生産されている蜜が万病をも治す薬であると。しかし、その噂を聞いた人間が度々街を襲撃したため、その街のハチたちは一切人間を寄せ付けないよう森に近づく人間を皆殺しにするようになったと言われている。そう言われるようになって以来、人間はその森には近づかなくなり、また恐れを知らずに近づいた者の行方を知るものもいなくなったという。」
人間の欲が招いた悲劇だな。
「えー、そんな危ないんですか?どうしますか?」
チーロが俺の方を見ながら言った。
「選択肢なんかあるわけないだろ。今から行くぞその森に」
「当然よね!」
コークが俺に便乗した。
「そうですよね。じゃあ行きましょう」
いつもよりもテンション低めにチーロが言った。




