二話
村を出て数時間程、まばらに木の生えた草原のようなところを歩いていた。
村を出てみたもののどうしたものか?この世界の事なんて何もわからないのに魔王討伐だなんて。それに人間の体にもまだ慣れてないんだぞ。
まずは俺の魔法がどんなものなのか確認してみるか。勇者なんだから色々すごいのが出せるだろ。
とは思うもののどう確認すればいいんだ?
村でも腕に力を込めたら勝手に出たが、自由には扱えなかったぞ。そんなんでいいのか?
いやダメだ一応勇者だし。自由にかっこよく魔法をきめて見せたい。
「おいおい人間さーん。こんなところで一人で何してんのー?俺たちも混ぜてよー」
低く不気味な声が背後から聞こえてきた。
おいおいこんな時に敵の登場かよ。タイミング考えろよ!
背後を振り返ると村で遭遇したものより一回り小さな、だがゴキブリにしては大きすぎる奴らが三匹程こちらを見上げて立っていた。
幸い俺は人間にしては体格に恵まれている。こいつらなら全員大した労力も無しに踏みつぶせるかもしれない.....
気持ちさえ整えば。
「おい黙ってねーで返事しろや」
一匹が右側の腕二本を振りかぶりとびかかってきた。
俺に攻撃を当てようなんて百年早い。人間の攻撃を何度も躱してきたんだぞ。あの時までは.....
俺は華麗なステップで躱す。
当て損ねた奴の拳が地面を抉る。
おお、流石はゴキブリの筋力だ。見惚れてしまう。
いやいや、そんな場合じゃない。今は俺は人間なんだあんなの食らったらひとたまりもないじゃないか
「何避けてんだ!おいてめーら同時にやっちまうぞ」
三匹が同時にとびかかってくる。
しかしそんな遅い攻撃俺には当たらないんだなー。
当て損ねた三匹が互いにぶつかりあい、金属音が辺りに響き渡る。
そろそろ心苦しいがこいつらを倒さなければな。
村の時のように手に力を込めれば適当な魔法を放てるだろう。
両腕に力を集中させる。
「ってーな。てめー何しようとしてやがる。止めろ!」
またも三匹がとびかかってくる。こいつらやることがワンパターンだな。しかし、間に合うか?魔法は一向に出る気配がない。
「危ない!」
な、なんだ!?
頭上から火炎の球が降ってきてゴキブリ達を焼いた。
ああ、仲間たちよ.....
奴らは炎に焼かれながら力なく倒れていった。
「大丈夫ですか?」
そういいながら頭上から一組の男女が舞い降りてきた。
金髪の優しそうな雰囲気の少年に黒髪の気の強そうな少女。
彼らは降りると同時に奴らを踏みつけた。
その光景を見るとどうしても背筋が凍り付いてしまう。
「おーい、返事してよ!」
女の方が甲高い声を上げる。
「あ、ああ大丈夫だ。助かった」
「良かったです」
男の方がにこやかに言う。
「でも何でこんなところに一人でいるんですか?」
「魔王を倒すために村を出て道に迷ってしまって.....」
「えーっすごい奇遇ですね。僕たちも魔王を倒すために旅してるんですよ」
「そうなのか」
「じゃあどっちが早く倒せるか競争しましょうよ。負けませんよー」
いや、魔王はそんな簡単に倒せるもんじゃないだろ。こいつ頭お花畑か?
「じゃ、僕ら急ぐんでさようならー」
いやいや、ここは仲間になる流れじゃないのか?それに俺迷ってるって言っただろ。助けてくれよ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。魔王なんてそんな簡単に倒せるもんじゃないだろ。競争なんてゲームみたいなこと言ってないで一緒に倒さないか?魔王」
「えーお兄さんビビってるんですか?魔王って言ったってただのゴキブリですよー。僕らならすぐに倒せますよー」
「いやいや、そんな簡単に倒せたら魔王になんか成れないだろ。多分ゴキブリの中でもすごく強い奴なんだ。名前もグレートゴキブリだし。何かがグレートな奴なんだよ。二人だけで行くのは危険だ。一緒に行こう。そ、そうだそれに俺は勇者なんだ。魔王って勇者がいないと倒せないだろ?な?」
「お兄さんが勇者?あの程度のゴキブリ三匹に手こずってたのに。一人が怖いからって嘘が必死すぎですよー。まーでも確かに魔王というくらいだからすごく強いんでしょう。二人で行くのは危険かも。じゃあお兄さんもついてきていいですよ!」
「そうだよな、そう来なくっちゃ」
なかなか手ごわい奴だ。だがこれでこの世界に詳しい奴の仲間になることができた。あとは何とかなるだろう。
「ちょっと!何二人で勝手に決めてんの。あんたこんな得体の知れない男を仲間に入れようとしてんの?」
また面倒だな。せっかく仲間になる流れだったのによー。
「お、俺は怪しい奴じゃないぞ」
「怪しい奴は皆そういうんだよー。何か怪しくない証明でもしてみてよ」
怪しくない証明?この世界に来てまだ一日もたってない俺にそんなことできるのか?




