十六話
体が勝手に動く。
最初の一撃のまま何度も拳を叩きつけた。
奴の悲鳴が森に共鳴する。
このままやれば倒せるんじゃないか?
一瞬奴を殴る手が止まる。
鞭のようにしなった奴の前足が俺の腹を打ち付けた。
内臓が圧迫され胃から内容物が飛び出しそうになる。
打ち付けられた勢いのまま近くの木に激突する。
背から腹にかけて貫くような鋭い痛みが走る。
くそ、油断した。
奴は森全体に響き渡る甲高い雄叫びを上げる。
「てめぇ。絶対許さない」
横になる俺に向かって前足が振り下ろされる。
やばい死ぬ。
「グビリコ、危ない!」
俺の目の前に雲の壁が現れた。
振り下ろされた前足は雲の弾力によって跳ね返される。
奴がバランスを崩す。
「今です。攻撃を決めてください!」
俺は腕を構えると渾身の力で電気の光線を放った。
太陽のように辺り一面を照らしながら。
光線は奴を貫いた。
ガラスが砕けるかのような音が響く。
黒煙が辺りを包み込む。
やった。全身の力が抜けその場に座り込む。
すると
黒煙からピンピンしたアシダカグモの黒光りする目が現れた。
うわっ!
「やったと思ったか?俺も魔法で防がせてもらったよ。物凄い威力だったなおかげで魔力がなくなっちまったよ」
「そうか、じゃあもう一発撃てばてめぇを倒せるってことだろ」
「そうは.....させない」
そう言うと奴は
こちらに攻撃する隙を与えんと前足を鞭のように振り回し始めた。
これはやばい。飛んでくる前足を躱し続ける。
やっぱやばくないわ避けるのは俺の得意分野だ。
しかし、このまま避け続けてもこちらから攻撃を仕掛けられなければどうしようもない。
奴の前足を何とかしなければ。
「グビリコ!剣を使ったらどうでしょうか!」
チーロが叫ぶ。
剣?なんだそれ?
「村でもらったとか言ってたあれですよ。背中に背負ってるそれ」
あ、完全に忘れてた。
魔法があまりにも便利すぎて頭の隅にもなかった。
奴の攻撃を躱しながら剣を取り出す。
剣を構え、電気を纏わせる。
奴の攻撃を躱しながら間合いに入る。
そして奴の前足ごと体を切り裂いた。
辺りに白い閃光が走る。
悲鳴と共に奴の胴と足が切断される。
今度こそやったな。緊張の糸が切れる。
「こ、この俺が人間.....ごときに負ける?.....だと」
「そうだ、お前の負けだ。」
「ふざけるな。あり得ない!グレートゴキブリ様に認められたこの俺が」
「お前はグレートゴキブリの手下なのか。ならば奴の目的、お前が何をしようとしていたのかを吐いてもらおうか」
「断る。お前らごときに話すわけなかろう。ただ一つ忠告しといてやろう。調子に乗るなよあのお方はお前らごときが敵う相手じゃない」
「そうか、話すつもりはないか。まあお前みたいな雑魚に期待はしてないからいい。それよりもお前が連れ去った人達や討伐しに来た人たちはどうした?」
「食った.....」
森の暗闇よりも暗い沈黙が落ちた。
背筋が凍るような笑みを浮かべながら奴は静かに消滅していった。




