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月蝕 第6夜:決意と祈り


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**1. ミカの「決意」**


ミカは、ハルナの変化に気づいていた。いつも俯き、目を合わせないハルナ。

軽やかな口調の裏に隠された、どこか遠い瞳。夜中にこっそり出かける姿や、時折見せる怯えた表情。

ミカにとって、ハルナはただの友達ではなかった。そして彼女は、ハルナの心の奥に潜む闇を、なんとかして救いたいと思っていた。


「ハルナ、絶対なんかやばいこと隠してるよね……。私、友達として、放っておけないよ」

施設の自室で、ミカはスマホを握りしめ、呟いた。ハルナは勘が鋭い。彼女は、ハルナに怪しまれないよう、慎重に行動することを決めた。

ネットで調べ、渋谷で活動する信頼できそうな個人探偵、田中リョウタに連絡を取った。田中は30代前半、元警察官の経歴を持つ男で、裏社会の情報にも通じていた。


「月見里ハルナ、15歳。彼女の最近の行動を調べてほしい。危ないことに巻き込まれてるかもしれないから……。お願い、絶対バレないように」

ミカは、田中にハルナの写真と簡単な情報を渡した。彼女の声には、友達を守りたいという強い意志が込められていた。

だが、彼女は知らなかった。その決断が、ハルナをさらなる闇へと引きずり込むことになることを。


---


**2. 能力の「限界」**


ハルナは、自分の「禍根異質ネクロスティグマ」に新たな気づきを得ていた。

彼女の力は、画面越しでも発動するようになったが、それは「リアルタイムの本人」の映像に限られていた。

テレビの生中継、ライブ配信、警察署から出てくる瞬間の報道陣のカメラ映像。防犯カメラの今の映像。

そうした「今、この瞬間」の相手でなければ、彼女の視線は効果を発揮しなかった。


「ボク、録画じゃダメなんだ、ね。生きてるやつの目を、ちゃんと見なきゃいけない、かな」

ハルナは、施設の窓辺に座り、スマホで過去のニュース映像をチェックしながら呟いた。

彼女が殺した標的たちの映像を振り返っても、録画されたものでは赤黒いモヤモヤのようなものは一切現れなかった。

それは、クロウの言う、彼女の力が「生の意志」と結びついている証拠だった。


同時に、彼女はもう一つ気づいていた。

「ボク、もう振り返らないよ、ね。過去とか、罪悪感とか、全部置いてく。前に進むだけ、かな」

彼女の心は、どこかで決壊していた。自分の力を「呪い」と呼びながらも、彼女はその力を受け入れ始めていた。

世界の「不均衡」を正すためなら、どんな犠牲も厭わない。そんな覚悟が、彼女の心を冷たく、鋭く研いでいた。


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**3. 追跡者の「影」**


クロウからの連絡は、ますます頻繁になっていた。

「ハルナ、新たに君を追う者が近づいている可能性がある。前にも言ったが、意外な場所に敵は多い。気をつけろ。そして次の標的は急ぎだ」


今回の標的は、裏カジノを運営する女、倉田レオナ。38歳、表では高級クラブの若きママとして知られ、裏ではギャンブル依存症の若者を借金漬けにし、破滅に追い込む女。

彼女は、個人的なライブ配信で自分の豪華な生活を自慢し、フォロワー数は50万を超えていた。


ハルナは、倉田が毎晩配信するライブをチェックした。画面越しに、倉田の派手な笑顔と、計算された仕草。

ハルナの瞳が、画面の倉田に突き刺さる。赤黒いモヤモヤが、彼女の胸から這い出し、襲いかかるように画面に吸い込まれるイメージが浮かんだ。


だが、その瞬間、ハルナは違和感を覚えた。

配信の背景に、黒い影が動いた気がした。まるで、誰かがハルナを観察しているかのように。彼女は咄嗟にスマホを閉じ、心臓が激しく鼓動した。


「ボク、監視されてる……? 誰だよ、ボクのこと追ってるやつ……」


彼女の心に、怒りと好奇心が同時に湧き上がった。

「いっそ、こっちから行ってやろう、かな。気に入らないやつなら、殺してやるよ。どうせ先に殺せばバレない。ボクの力は、止められないんだから、ね」


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**4. 接触**


ハルナは、クロウの指示を無視し、連絡を取らずに単独で行動に出た。

彼女は、倉田のライブ配信の場所――渋谷の高級クラブ――に潜入することを決めた。ダボダボのスウェットにキャップを深く被り、彼女はクラブの裏口から忍び込んだ。


クラブの中は、ネオンの光と重低音の音楽で溢れていた。倉田は、VIPルームでライブ配信をしていた。

もう死ぬだろうが、ハルナは、客席の隅から倉田をそっと見つめた。彼女の視線が、倉田の目に突き刺さる。赤黒いモヤモヤが、彼女の胸から這い出し、倉田に絡みつく。


だが、その瞬間、背後から声がした。

「お前、月見里ハルナだな?」


ハルナは振り返らず、視線を床に落とした。ゾッとした。声の主は、男だった。30代前半、落ち着いた口調。ハルナの心臓が、激しく鼓動した。

「ボクのこと、知ってるって? ふふ、面白い、ね。誰だよ、新たな組織の奴、かな?」


男――田中リョウタ――は、静かに近づいてきた。

「俺は、ただの私立探偵だ。クライアントに頼まれて、君のことを調べてる。ただの素行調査だ」


ハルナの唇に、微かな笑みが浮かんだ。だが、その笑みは冷たく、鋭かった。

「危ないこととか? ボク、そう、ただの高校生だよ、ね。探偵さん、相手を間違ってるんじゃない、かな」


田中の瞳が、ハルナをじっと見つめた。ハルナは、目を合わせないよう、視線を逸らした。彼女の心の中で、赤黒いモヤモヤが蠢き始めていた。

「こいつ、やばい。探偵とか、ほんとかどうか知らないけど、ボクのこと知りすぎてる。殺すべき、かな……?」


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**5. ミカの「心」**


その頃、ミカは施設の自室で、田中からの報告を待っていた。彼女の胸は、不安でいっぱいだった。

「ハルナ、ほんとに大丈夫かな……。私、ただハルナを追いつめるヤバイ奴がいるなら守りたいだけなのに……」


彼女は、ハルナの秘密を暴くつもりはなかった。

ただ、友達として、ハルナが危険な道に進まないようにしたかった。

だが、彼女は知らなかった。田中の調査が、ハルナをさらに追い詰めることになることを。

純粋さが、禊となって、二人の間に突き刺さる。


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**6. 祈り**


ハルナは、クラブを後にした。倉田の死は、翌朝のニュースで報じられた。

「高級クラブ経営者、倉田レオナ氏がライブ配信中に急死。原因不明の心停止」


だが、死のタイミングは、やはり彼女が願った「24時間後」ではなく、わずか1時間後だった。ハルナの力は、彼女の制御を離れ、どんどん加速していた。


「ボクの力、ほんと止められないよ……。お願い、24時間後にしてよ……」

ハルナは、施設の屋上で夜空を見上げ、呟いた。月は、赤く滲んでいた。


クロウからの連絡が届いた。

「ハルナ、よくやった。だが、君を追う者はすぐそこまで来ているだろう。こちらでも対応はして行くが、次の標的は、君自身かもしれない。外に出る時は最大限に気をつけろ」


ハルナの瞳が、月光を受けて鋭く光った。彼女は唇を噛み、笑みを浮かべた。

「ボクを追うやつ? ふふ、面白いね。今度ボクに関わったら、死ぬって教えてやるよ。世界の歪みは、ボクたちが正すんだから、ね」


だが、その笑みの裏には、深い恐怖と覚悟があった。

「ボクは、病気なんだ。けど、ボク、もう止まらないよ。絶対に、ね」


彼女の物語は、闇の底へと突き進む。

半月の夜、彼女の力は、彼女自身をどこへ導くのか。


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