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99.【幕間】人の話を聞かない人たちの話し合い

時間的には、95~98話の間の話です。

「ゴンザレス先生、マヌエラ先生。そもそも、生徒会のメンバーも魔導具研究会もアウローラの召喚魔法の行使には直接関係ないですよね。とりあえずは、お二人と私たちで一度話しましょう」


 せっかくの機会だから、アウローラの召喚魔法の様子を見学したいと思っていた面々は、このジェロームの一言で生徒会室に残ることになった。

 アウローラ、ジェローム、そして二人の先生が、召喚魔法を準備した訓練場へと移動していったのを、少々残念に思いながらも、アドゥアナス宰相と打ち合わせをするには都合が良かったなと、フェリクスはさっさと気持ちを切り替えた。


「では、私たちはこちらで少し近況について情報交換しているので、引き続き準備を進めていてくれ。アドゥアナス宰相、こちらへ」

 フェリクスの指示に、その場に残った生徒会のメンバーたちが頷いた。


「実際のところ、ヤマユリの状況はどうなのですか」

 小会議室に入って早々、アドゥアナス宰相が切り出したのに、フェリクスは苦笑した。

「相変わらず単刀直入ですね」

「貴重な時間ですからね」

「召喚するまでは、それなりに時間がかかるでしょう」

 その言葉に、アドゥアナス宰相は軽く眉を上げて、フェリクスを試すような表情で見た。

「フェリクス殿下は、アウローラ殿が召喚魔法を行使するとお思いか?」


 その言葉にフェリクスは驚いた。

「ここまできて、召喚しないということがあるのか?」

 アドゥアナス宰相は、口の片端を少し上げ、皮肉な口調で言った。

「召喚魔法を行使しない可能性の方が高いと私は思います」

「それはなぜかな?」

 フェリクスは少し不快な気持ちを抑えて尋ねた。


「殿下。普通の貴族であれば、あの話の流れに逆らうようなことはしませんが、あの二人は星読みです。我々とは違う規範の下で行動します。違うと思えば、動かないでしょう」

「もちろん、星読みの独立性については十分理解しているつもりだ」

「ええ、そうでしょうね。しかし、あくまでも私たちの常識の範囲での理解ということです。彼らの常識は違います」

 フェリクスは、アドゥアナス宰相の言葉をしばらく考えた。そのことは十分理解しているつもりだ。しかし、その様子を見たアドゥアナス宰相は言葉を続けた。


「ジェローム殿は、物腰が柔らかく、こちらの言うことを聞いてくれそうに見えますが、侮って少しでも強権的な態度を見せてはいけません。彼がセントラルに駐在してからすでに数百年以上の時が経っていますが、過去に二度、彼がディレクトラ大帝国から退去したことがあります。その間は、星読みの助けを全く得ることができず、大厄災への備えができなかったことから、著しく国力が下がったのです。フェリクス殿下も歴史で習っているでしょう、ディレクトラ大帝国近代史における二度の大難を」

「まさか、それはジュラルの大干魃と、デライラの大地震を指しているのか?」

「ええ」

「なんと……」


「国政においてどこまで星読みの力を借りているのかは、表には出ていません。基本的には、予防的な対応であり、災厄を止めることはできませんから、その効果が一般に知られることはほとんどないでしょう。しかしながら、国を預かる者として、全く備えがなかった時と、そうでなかった時を比較すると、その差は明らかなのです。このことは、星読みの恩恵を公としないことを互いに誓約しているため、基本的には国の中枢しか知り得ないことですが、此度、陛下よりフェリクス殿下にはお伝えするようにと言われました」

「なぜだ?」

「それは、殿下がアウローラ殿という星読みと常時接するからです。これまで星読みと接するのは、本当に一握りの者だけでしたが、レッジーナ学院にその一人が入学するという非常に特殊な状況にあります」

「だが、これまでも星読みが専門研究大学院に所属したことはあったのだろう?」

「はい。しかし、彼らは老成した星読みでしたし、専門研究大学院は、自分の研究に専念するための場所であり、幅広い交流をする必要はありませんでした。だが、今回は、星読みとしてはまだ若い、しかも見た目も五歳くらいに見える者が、中等部に所属しているのです。その違いは明らかでしょう」


 アドゥアナス宰相は続けた。

「フェリクス殿下。あなたは非常に優秀な方です。物腰も柔らかく、学院内での人望もあり、皇子殿下として申し分ありません。が、その優秀さから、無意識に彼女のことを幼い子どもとして、自分よりも目下の者として扱っているのではありませんか? しかし、彼女はあの星読みのマスターの直弟子であり、最年少で星読みとして正式に認められた実力の持ち主です。決して侮ってはいけません。そして、その後ろには、それ以外の星読みたちがいることをお忘れなきよう。利用しようとすれば、必ずや痛い目にあうでしょう。信頼を勝ち得て、支援を得よ、というのが陛下からの伝言です」


 フェリクスは、しばらく固い顔で黙って聞いていたが、ふっと笑って、頷いた。

 これは、父親である皇帝陛下から、自分の資質を試されているのかもしれない。

「わかった。忠告を感謝する。陛下にもそう伝えてくれ」

「かしこまりました」


「話はわかったが、アドゥアナス宰相自身はあの二人をどう見ている?」

「私ですか?」

「ああ」

 フェリクスの質問に、アドゥアナス宰相は少し考えてから話し始めた。

「ジェローム殿は、物静かで星読みの中では一番常識的だとは思います。私自身は、仕事で何か困った事態になったことはありません。マスターをはじめ、それ以外の星読みの方々はクセが強く、対応するのに気を遣います。案件によっては、他の星読みの方の助力をいただいたことがありますが、皆、セントラルに来るのを嫌がり、様々な注文をつけられましたよ……また、ジェローム殿は、星読みの力量だけでなく、魔導具開発においてもディレクトラ大帝国に長年貢献いただいているので、今後も彼に駐在してもらいたいと思っています。せめて私が宰相の任にある間は是非。強いて弱点を挙げるなら、貧乏くじを引きやすい体質ではないかということくらいでしょうかね」

「くくく。なんだそれは」

 フェリクスはアドゥアナス宰相の思いがけずも率直な人物評に笑ってしまった。


「アウローラ殿については、ほんの短期間しか見ておりませんので、あまり言えることもありませんが、一人で想定外の事態を解決したということは、十分な実力の持ち主だとみています。どのような氏素性なのかはわかりませんが、あの能力と容貌からすると、古い一族の血を多少なりとも引いていてもおかしくないと私は思っています」

 そこで言葉を切って、アドゥアナス宰相が少し笑いを零したのを見て、フェリクスは不思議な顔をした。

「何かあるのか?」

「いえ。大したことではないのですが、アウローラ殿が噛まずに話せるようになったのだな、と。セントラルへ来た時は、時々噛んでいたのですが、成長されたな、と思っただけです」


 思い出したように、ふふっ、と笑うアドゥアナス宰相を見て、フェリクスはとても驚いた。

 氷の宰相閣下でも、笑うことがあるのだな、と。

 そして「古い一族」という言葉にも驚いた。

「古い一族とは、なくなった三つの森に属する者のことを指しているのか?」

「はい。今となっては見ることのない銀色の髪の持ち主です。その伝説すらもう薄れていますが、あの髪色を見た瞬間、若い頃に読んだロシュタルト辺境伯の所に残っている三つの森の伝説を思い出しましたよ。まあ、神話に近い話ですが」


 その話はそこで終わらせるように、首を振ると、アドゥアナス宰相はもう一度厳しい声に戻った。

「いずれにせよ、私たちはアウローラ殿の好意で諸々のことを進めているのだということをお忘れなく。彼女がクラスメイトとしてヤマユリのことを大事に思う気持ちがあるからこそ、何らかの備えができるだろうという判断がなされています。そうでなければ今回のバチスタ教国による訪問は、却下されていたでしょう」


 まるで、アウローラがいなければ無理だった、という口ぶりに自分の力量を軽く見られた気がして、フェリクスは不機嫌になった。

「だがしかし、今回のバチスタ教国の訪問を断ることはできなかったのであろう?」

「断ることで借りを作りたくなかったのは事実です」

「ああ。この程度のことで借りを作って、もっと面倒な要望が来ることを避けたいというのが、帝国の方針だったはずだ」

「おっしゃるとおりです。ですが、レッジーナ学院と陛下は、星読みによる支援を計算に入れた上で、受け入れを許可したのです」

「そこまでか……!?」

 フェリクスは、アウローラやジェロームへの高い信頼度に驚いた。


「今回の事案は、長い時の中にある、より大きな事案の一部という位置づけです。その全貌はは私にもわかりかねます。ただ驕ることなく自らのやるべきことを為すばかりです」

 そこで静かに頭を垂れた姿を見て、いつもは自信満々のアドゥアナス宰相の謙虚な姿勢に毒気を抜かれた。

 自分は、この状況をコントロール下においていると思っていたが、それこそが驕りなのだろうか。


 その時、小会議室の扉がノックされ、リチャードが「ゴンザレス先生とマヌエラ先生が戻られました」と告げた。


 部屋に戻ると、マヌエラ先生が「ここまできて、召喚魔法をするかどうか二人で話し合うと訓練場を追い出された」と話しているのを聞き、その後、アウローラとジェロームが手ぶらで戻ってきたのを見て、フェリクスはアドゥアナス宰相が正しかったことを知った。

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