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98.どうする?

「ジェロームが来てくれて、ちょっと安心した」

「俺もアウローラが学院でちゃんと学生生活をしているのがわかって安心したよ」

 わたしたちの会話を聞いたプーが、「これがヒトの普通にゃ?」と疑問を投げかけたが、そこはまあ、大体できてるってことで。


「ただ、聖女候補の件は要注意だな。いいか、ディレクトラ大帝国は、アウローラがいるってことを最大限活用しよう考えているはずだ。それが魔力的なことなのか、マスターや俺たちを含めた星読みの力なのかわからないが、皇室や高位貴族ってのは、他人を利用することに躊躇はない。巻き込まれるなって言いたいところだが、もうすでにどっぷりだからな」

 わたしもそれは同感だ。


「でも、巻き込まれただけじゃなくて、マスターがこうなることを見越して、わたしをレッジーナ学院へ入れたってことはないのかな。サン・マンが、みんなもそれをちょっと疑ってるって……」

 わたしの疑問にジェロームが苦笑した。

「それは否めないな。俺たちもその可能性は考えているよ」

「だったら、しっかり巻き込まれた方がいいってこともある?」

「わからん。ディレクトラ大帝国にそこまで俺たち星読みが支援する必要があるとは思えないからな。まあ、バチスタ教国が出てくるくらいなら、ディレクトラ大帝国の方がずっとマシだが、それでも巻き込まれていいことなんてあるか?」


 ジェロームの言うことを少し考えてから答えた。

「いいように使われるのは嫌だけど、ロザリンド様は助けてあげたいと思う」

「だったら、そうすればいい。ただし、俺たちは星読みだ。星読みは、嘘をついてはいけない。星が示す運命の輪が回るとき、それを勝手にねじ曲げてはいけない。そして、星の下では何も隠せるものはないのだということを忘れるな。ごまかしたとしても、それは一瞬のことで、長い時間の中では何の意味も持たないのだから」


 そうだね。いろんな人がいろんなことを言うから、考えがまとまらなくなりそうだったが、少し落ち着いてきた。

 その様子を見たジェロームが続けた。


「やっぱり使い魔はいた方がいいな。あいつらの言うとおりになるのは癪だが、合理的に考えると、アウローラがこの段階で自由な連絡手段を持てるというのは大きいアドバンテージだ。だが、絶対にプーと二人だけで召喚しろ。あいつらの魔法陣も使わないのだから、いつ召喚するのかも言わなくていい。あいつらのおかげで、正式な申請書が通っているんだから、召喚してから見せて問題ないさ。ふん、召喚された使い魔を見てから驚けばいい」

 いつもは温厚なジェロームが、ちょっと悪い顔になっている。

 やっぱり、ちょっと頭にきてたんだね。


「わたしだけで大丈夫かな。あ、プーが頼りにならないってわけじゃなよ?」

 プーが、「うにゃっ」と鳴いてとこっちを向いたので、慌てて宥めたが、納得してなさそうだ。

「だって、初めてなんだよ? それにやったことのない召喚方法だし。何か変なものが召喚されたらどうしよう?」

 わたしが慎重になっているのを見て、ジェロームは笑って言った。

「プーを信じろ。プーができるっていうんだったら、その魔法陣で大丈夫だ」

「でもね、プーは時々うそつきなんだよ」

 わたしは横目でプーを見ながらいいつけてやった。

「うそつきじゃないにゃん。ちょっと言ってないことがたまにあるだけにゃん」

「……なんか微妙だな。サン・マンから聞いたが、こいつはアウローラを傷つけるようなことはしないはずなんだろう? それに新しい魔法や魔法陣を試すときは、こんなもんさ。プーのお墨付きがあるならマシだぞ。大丈夫だ。アウローラの魔力に近寄れるやつで、邪悪なものはいるはずがない。そんな魔力だったら、マスターが星読みとして育てたりしてないさ。星読みはあんなに広い宇宙と対話するんだぞ。悪意があったら、星は応えてくれないし、その声が聞こえるはずがない。大丈夫だ、アウローラ」

「……わかった」


「大丈夫にゃ。おばあさんの魔力と似ているんだったら、良い魔力だにゃ」

「まあ、妖精が人間にとって絶対に親切かっていうと微妙だが、精霊的なものや自然のものにとっては、隣人であり仲間だからな。妖精に好かれるアウローラだったら、俺たちよりもいい結果が出るよ」

 プーが偉そうな顔で頷いているのが癪だが、まあ、そうかもね。


「やってみる」

「よし。それから、使い魔につける印も、俺が作ってやるから、少し待て。ああ、プーのも作り直して送る。誰が作ったのかわからない魔導具は、できれば身につけない方がいいからな」

 プーの足につけている金色の輪を見ながらそう言った。

 なんだか、ジェロームが用心深くなっている。でも、プーも「基本だにゃ」と頷いている。


「ゴンザレス先生とかも信じない方がいいの?」

「そういう訳じゃない。ただ、基本的に魔術師はできるだけ自作の魔導具を使いたがるものなのさ。素性のわからない物はできるだけ避ける方が無難だ」

「魔女もそうにゃ。仲間の魔女に特別な薬を頼むことはあるけど、信頼した魔女にしか頼まないものにゃ。おばあさんのところにも昔は他の魔女が訪ねてきたけど、ほとんどは薬草を分けてもらうだけで、調合は自分でしていたにゃ」

 なんだか二人の息が合っている。


「言われてみれば、わたしが身につけているのも、マスターかジェロームたちに作ってもらったものだけだった」

「アウローラはこれまで星読みの塔で暮らしていただろう? 俺たち以外と接することがほとんどなかったし、渡される物を疑う必要もなかったからな。でも、外に出たら今までとは違う。だからって内に籠もれというわけじゃないぞ。少しずついろんなことを経験して、学んでいけばいいんだ」

 ジェロームの言葉で、レッジーナ学院に入学する前にマスターに言われた言葉を思い出した。


『学院は色んなことを学ぶ機会だ。星読みのためになるかどうか、ではなく、興味のあることであれば、何でもやってごらん。意味があるかどうかは関係ない。無駄だと思ったことが、後に自分を救うことになった例なぞ枚挙に暇がない。学院というのは学ぶ目的で人々が集まるところだ。一人で学ぶのでは得られない視点もあるだろう』


 うん、いろいろやってみよう。召喚魔法だってやってみればいいんだ。


「あとは……ロザリンドのペンダントで何か他にやっておくことはある?」

「さっき言ったとおり、魔法陣がないところに何か物理的な魔法陣がないかどうか、念のため確認しておいてくれ。まあ、ないと思うけどな」

「なんとかもう一度、見せてもらうタイミングを探してみる。ほんとにありがと、ジェローム」

 お礼を言いながらジェロームにぴょん、と抱きついたら、髪の毛をクシャクシャにされたが、今日は許してあげよう。頼りになる兄弟子がいて本当に良かった。


 生徒会室に戻ると、全員が期待したようにこちらを見たが、召喚獣を連れていないとわかると、明らかに残念そうな顔をした。

 そんな皆の顔をぐるりと見渡してから、ジェロームは改まった様子で宣言した。

「アウローラの保護者としては、こんな準備不足の中で召喚魔法を使わせるのは好ましくないと判断しました。アウローラには、星読みにおける使い魔の扱いについて説明しておいたので、準備ができたら召喚するよう言ってあります。これ以上は不干渉でお願いします」


 マヌエラ先生が眉をひそめて、何か言おうとしたが、それを目で制してフェリクス殿下がにこやかに言った。

「ああ、私たちもつい気が急いてしまったようだ。もちろん、自主性が一番大事だとわかっているよ。それに、星読みには星読みの流儀があるということも。このことはジェローム殿とアウローラ嬢に任せるよ。ということは、学院所有の魔法陣も不要ということかな?」

 最後の部分を多少強調しながらフェリクス殿下は鋭い目でジェロームを見た。

 一瞬、その場にいた全員が息を呑んだ。


 しかし、ジェロームは全く動揺もせず、余裕をもって答えた。

「ええ、不要です。それ以外の懸案事項についてもアウローラと話し合ってあります。討論会についての詳細資料はまとまり次第送ってください。アドゥアナス宰相、そろそろ戻る時間では?」

 宰相閣下は、ほんの少しだけ眉を上げたが、それだけですぐにいつもの無表情になった。

「ああ、転移陣の時間が近いな。失礼するとしよう。フェリクス殿下、ではまた」


 そう言って、ジェロームと宰相閣下は皇宮へと帰って行った。

 ジェロームは運が悪いけど、ディレクトラ大帝国のお城の中にある拠点を任されるだけあって、いざとなったら貫禄が違うな、と見直してしまったよ。

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