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92.【幕間】俺って運が悪いのかなあ

 カツカツ

 ジェロームがディレクトラ大帝国にある星読みの塔、セントラルで天体観測をしていると、何かが窓を叩く音がする。ふと見ると、トカゲのポーラが窓辺に張り付いて、外から嘴で窓を叩くフクロウを威嚇していた。

「おいおい、ポーラ。やめとけ。おまえが窓越しに威嚇しても仕方がないだろう」

 観測を中断して窓辺に寄ると、ポーラがするするっとジェロームの肩に登ってきた。


 ……温厚なポーラが威嚇するということは、このフクロウは何かよからぬモノかもしれないな。

 そんなことを考えながら窓の外にいるフクロウを見ると、足に金の輪がついている。フクロウ便の印だ。

 別に変わったところもなさそうだし、どうしたんだろうな、と首を傾げながら窓を開けた。

 フクロウは、「きゅわ」と一声鳴くと、金の輪のついた足を前に出してきた。


 足についている金の輪についた乳白色の石にほんの少し魔力を流し、そこから手紙を取り出した。金と黒との封印がついている。これは自分宛の親展の手紙だ。

「わざわざ俺宛に親展で手紙を送ってくるなんて、誰だ?」

 ディレクトラ大帝国内だったら、きちんと手続きを踏んで、城の文官から書類が届く。それ以外の場所からだったら、普通は北の極へまずは依頼が入るはずだ。

 フクロウは、そのまま窓枠に掴まって待っているということは、返信が必要なのだろう。

「なになに……討論会出席依頼? レッジーナ学院長から? なんだこれ??」


 そこに書かれていたのは、定例発表会の日に一時間ほどの新型魔導具開発に関する討論会を実施するので出席を願いたい、というものだった。そして、その前に打ち合わせをしたいから、指定された転移陣の時間になったら、グランドセントラルから飛んでこい、という突然の招集通知だった。

「何で俺が行かないといけないんだ?」

 思わずフクロウに向かって聞いてしまったが、「くるる?」と鳴いて首を傾げられてしまっただけだ。

 まあ、俺も返事を期待したわけじゃないが。


 こんなよくわからない招集通知を相手にしていられない。さっさと欠席の返事を書こうと思ったところ、扉をノックすると同時に誰かが入ってきた。

「おいおい、勝手に入ったら困るよ」と言いながら振り返ると、そこにいたのは、相変わらずの怜悧な美貌で険しい表情をしたエイドリアン・アドゥアナス宰相閣下だった。


「すまない、少々急ぎの用事があったもので。失礼する」

「あー宰相閣下でしたか。あなたがこんな時間に直接ご足労されたということは、かなりの緊急事態なんでしょうね」

「ああ。貴殿にもレッジーナ学院から連絡があったようだな」

 宰相閣下は、窓辺にいるフクロウを見て言った。

「はい。もしかして、そちらにも何か連絡があったのですか?」

「そうだ。ジェローム殿へ緊急連絡を出したので、必ず承諾してもらうよう今すぐセントラルへ行けという連絡だった」

 ……俺が断ると思ったから、宰相閣下を使うつもりだな。これはさっさと話を終わらせるに限る。


「ははは。星読みとは全く関係なさそうな依頼でした。私も詳細はわかりませんが、辞退させていただくつもりです」

「そうか。だが、本件はそなたの妹弟子が関わっているようだが、良いのか?」

「は? 魔導具討論会に?」

「魔導具討論会? かどうかわからないが、アウローラ殿の安否にも関わる可能性があるとこちらには記載されていたが」

「なんですって? 見せてください」

「いや、これは親展だからダメだ」


 ……アウローラがあそこで危ない事態に陥るというのが想像できないが、宰相閣下は嘘をつくような人ではない。政治的な駆け引きは別として、星読みの機嫌を損ねることの恐ろしさを知っているはずだからな。

 こんな強制的な招集通知はなんとも不愉快だが、一応打ち合わせには行ってみるか。

 確かにアウローラの様子を見るいい機会かもしれない。例の聖女候補も気にはなっていたし。


「こほん。わかりました。とりあえず討論会についてはペンディングとさせてもらいますが、事前打ち合わせには顔を出しましょう」

「そうか! 助かる。ついては、その際に助手として一名同行させてもらえないだろうか」

「は?」

 なんだかもっと面倒なことになってきたな。この招集通知の原因は、ディレクトラ大帝国の方か?


「今回の定例発表会は、少々きな臭いのだ。実は、バチスタ教国から枢機卿が出席したいと言われている。あの国とは、昔から相性が良くないのは貴殿も承知しているだろう? 聖女候補を理由に訪問希望を言ってきたが、本心がどこにあるのかよくわからない。こちらとしても、現在の学院の状況を確認しておきたいのだが、あそこは基本的には中立の立場なため、こちらから理由もなく押しかけるのもなかなか難しい場所なんでな。今回の貴殿の招集は、この機会を帝国も使えということを含み置いているのではないかと推測している」

「はあ。で、誰と一緒に行けばいいんですか?」

「私だ」

「は?」

「だから、私が同行すると言っている」

「それはちょっと無理がありませんか?」

 どこの誰がディレクトラ大帝国の宰相を助手として連れて行くんだ?


「気にするな。返事には『助手を一名連れて行きます』と書けばよい。転移陣の人数が合っていれば問題ないだけだ」

「胃が痛くなってきました……」

「では、よろしく頼む。当日の細かな手配は、私がするので当日までは何もしなくて良いぞ」

 それはありがたいが、それ以外の精神的な負担と見合わないと思う。

 いつものように、用件が済むとさっさと出て行く宰相閣下を見送ると、言われたとおりに返信を書き、フクロウの足輪に取り付けて「じゃあな」と送り出した。


「はあ……ポーラは不幸の手紙が届いたってわかってたのかい?」

 慰めるように、机の上で小さなつぶらな目で俺を見上げてから、しゅっと伸びた尾の先で、ポンポンと手を叩いてくれるポーラに話しかけた。

「俺って運が悪いのかなあ」

 空を見ると、流れ星が連続して流れていった。何事もありませんように、と心の中で祈ったが、簡単には済まないだろうな、という予感がしていた。

 一応、マスターにも報告しておかなきゃならんな、と思いながら、もう一度観測に戻った。

読んでくださっている皆さま、ありがとうございます。ここでちょっと区切ろうか、もうちょっと書けているところまで予約投稿しようか迷っているところです……明日の進み具合で考えます……

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