90.盛り上がってきた・・・?
その後数日は、ジョセフィン・オーベインをはじめとした神殿派の女子生徒が、代わる代わるロザリンドのところへ昼休みや放課後の度にやって来ていたが、一週間もすると落ち着いてきたようだ。
一応、クラスにいる神殿派の男子生徒が、何となくロザリンドのことを見ているような気がするが、普通の話をしている限り、気にならないようだ。
わたしも、あれからシルヴィアだけには、「ロザリンド様は何か話せないような魔術をかけられている可能性があるから、聖女関係についてとか、休暇中のことは聞いても答えられないようだ」と説明した。
シルヴィアは「そんなにあからさまなことをしてでも、話さないようにさせるようなことって何でしょうね」と呟いて、考え込んでいた。
たしかにね。でも、ゴーリング伯爵はどのくらいロザリンドがわたしたちと仲が良いかまで把握してないだろうし、深いことを話す機会はそれほどないと思っているかもしれない。
その場合は、万一ぽろっとこぼしてしまうことがないように備えたロックのようなものかもしれない。
いずれにしても、こんな術をかけるなんて養父なのに酷いヤツだと、わたしがぷんすか怒っていると、シルヴィアが「利益のために養女にしたのであれば、それくらいはやるでしょうね」とあっさりと言った。むむむ。
「それに、ゴーリング伯爵なのか、神殿派の高位貴族の差し金なのかはわかりませんわ」
冷静なシルヴィアの指摘に、少し落ち着いた。プーも、そうだそうだというように、「うみゃあ」と鳴いている。確かに、普段、見張っているのは神殿派の生徒だ。
でも、普通に考えると、ゴーリング伯爵と神殿派がグルになっているんだと思うけどね。
まあ、そんな感じでとりあえず表面的には、日常が戻ってきた。
ロザリンドとシルヴィアをはじめとした女子生徒たちは、定例発表会のお茶会の準備で忙しそうだし、男子生徒は団体戦の練習に駆り出されて、毎日疲労困憊しながらも、楽しそうだ。
「フェリクス殿下の弟殿下だから」という理由で、アレクサンドルとランセル、そして親戚筋のランセルは、フェリクス殿下のチームの練習チームに組み込まれたらしい。「兄上が凄い」という話ばかりしていて、アレクサンドルの兄への愛が爆発している感じだ。微笑ましいね。
一方、ジャスティンとシンカーはオズモンドのチームの練習相手らしい。こちらも、「色々、勉強になることばかりだ」とアレクサンドルたちを牽制している。
お互いに戦術を漏らさないよう、誰も具体的なことは話さないが、魔術実践の授業での実技を見ると、シュバリエ所属の生徒たちの技術がどんどん上がっているので、ハードな練習をしていると思われる。
一度、マドレーヌに聞いてみたが、「私、これまでもそれなりに訓練を積んできたつもりでしたが、団体戦というのは全く違うということを学びましたわ」と遠い目をしていたのが印象的だった。
チャンスだと思って、勝手に攻撃に転じようとして大目玉を食らったらしい。
いつもは柔和な先輩が別人のようで、衝撃だったそうだ。まあ、本人も「実際、罠だったので、一発でデッド判定でしたわ……」と、とても反省していた。
わたしは、新聞部の事前取材班として、はじめて記事を書いているところだ。
といっても、団体戦全出場選手を回って魔導具で写真を撮って、名前と学年、出場の抱負を聞いてまとめているだけだけど。それでも全部で三十人いるからね。なかなか大変なのだ。
おかげで他の学年の生徒の名前と顔が一致してきたよ。だからジェイソンはわたしにこの仕事を振ったんだね。
記事とは関係ないが、名前と顔を見ながら図書館で貴族年鑑チェックもしている。みんなの常識はわたしの非常識。高位貴族も当たり前のようにいるんだし、知っておいて損はない。何人かはシノブのように留学生だったりして年鑑に名前がない人もいるが、大半はこれで確認できる。
来週には、「団体戦特集号」を発行するので、それまでに完成させなければ。出場者紹介だからね。表記ミスとかあったら失礼だし。もう、何回もチェックした上で、エスメラルダ、ジェイソン、イヴォンヌに、「クラスの人で間違ってないかどうか見てください」と二回もお願いしてしまった。
そして、今は大将のフェリクス殿下に、ジェイソンと一緒にインタビューに来ているところだ。
プーもわたしの膝の上で大人しく聞いている。
「では、今回の団体戦での見所は?」
「チームとしての話の前に、生徒会として見所を説明してもいいかな」
フェリクス殿下が、完璧な皇子様スマイルで話し始めた。
「もちろんです。どうぞ」
「まず、今回は観客席の安全を万全なものにするため、屋外競技場の上部を透明なシールドで覆うことにした。また、どのような技が繰り広げられているのかわかりにくいだろうから、大型スクリーンを導入して、フィールドを多角的に撮影して映写することで、個々人の技術もよく見ることができるようになっている」
「なるほど、新しい魔導具を導入したんですね」
「ああ。こちらの魔導具については、是非、書いてもらいたいね。魔導具研究部が、専門研究大学院と一緒に開発したもので、すでに技術登録は済ませている。今回が本格的なお披露目みたいなものだ」
「それは面白そうですね。あとで、キャメロン様と相談しておきます」
「ああ、頼むよ」
それから色々と今回の団体戦の見所を説明してもらったが、確かに事前に聞いておくと面白さが違ってきそうだ。もうちょっと戦術を勉強してみてもいいかも、と思ってしまったくらいだ。
「最終的には、オズモンド様の話も聞いて、まとめた記事にしますので」
「ああ、よろしく頼むよ」
フェリクス殿下も忙しいだろうからと、インタビュー用に借りていた生徒会室の中にある小会議室をさっさと出ようとしたが、「アウローラ嬢、少々お時間をもらってもいいかな?」と声を掛けられた。
うん? わたし? と思いながらジェイソンの方を見たが、ジェイソンに「先に部室に戻っているよ」と言われたので、そのまま生徒会室に残った。
すると、リュシエンヌが小会議室に入ってきた。
「お忙しいところ、ごめんなさいね」
リュシエンヌが微笑みながら言った。うーん、相変わらず、美しい微笑みが何だか怖いです。そんなことは言えないけど。
「いえ、大丈夫です」
「今回の定例発表会のことで少しご相談がありますの」
……はて、なんだろう。
「ご承知のとおり、今回、バチスタ教国の枢機卿が来賓としていらっしゃいます」
「はい」
すると、フェリクス殿下が少し前に乗り出して話し始めた。
「元々、聖女候補との面会も兼ねてということだが、今ひとつ本当の狙いがはっきりしない。リュシエンヌがシルヴィア嬢から聞いたところによると、ロザリンド嬢は何か発言に制限が掛かっているようだということだが、本当かい?」
これは、わたしがシルヴィアに頼んでリュシエンヌにこっそり伝えてもらったことだ。
「はい、そのようです」
「その制限は外すことはできないのかい?」
「術者ではない人が勝手に魔導具をいじることで、ロザリンド様を何か危険な状況に陥らせるかもしれないので、それは試していません。それに、制限をかけていると思われる魔導具は、外見からは不完全な魔法陣しか見えないので、どう解呪していいのか確信がもてません」
「魔導具の教授に見せても駄目そうなのか?」
「わからないです。わたし自身が魔導具の教授を知りませんし……兄弟子に相談できれば何かわかるかもしれませんが、手紙に書くのも心配なので、依頼していません」
「なるほど。リュシエンヌ、教授の中で信頼できる人はいるか?」
「いらっしゃいますが、今回の案件について、どこまで開示して良いのかが問題ですわね」
「確かに、専門研究大学院の教授は優秀ではあるが、政治問題については関与したくない、という人が大半だからな」
苦笑しながら「まあ、いつものことだし、その政治不干渉の姿勢こそが、レッジーナ学院の信頼性だからね。正式な国からの依頼ならともかく、このような生徒の私物解析と解呪など依頼したら、教授によっては帝国の方が訴えられそうだ」とフェリクス殿下が言った。




